エースの帰還
2000年5月後半
先日バイト復帰が決まった石田がくるみを連れて来ることになった。
案の定、姉貴分である石田の復帰を聞いてくるみは戻ってくる。
一応本人の意思確認もあって、この日は他に社員の松本を加えて4人で面談となっている。
約半年振りのくるみだが、相変わらず態度が反抗的で
『もういいから帰れ』
と思わず何度も言いそうになってしまった。
しかし、バイトの戦力アップを考えるとくるみの力は必要だし、それに今後は松本を中心とした店作りとなり、少しずつ店舗の中心から引いていこうと思っていたのでここは我慢をすることに。
まぁ、直接くるみと接点を持たなければいいのだから。
ただ、自分でも不思議だったのがくるみの態度に腹を立てながらも
“こいつ歯並びが綺麗だな、しかも見事なまでに白い歯をしてるな・・・”
と冷静にくるみを観察している自分がいる。
腹は立つのだが、決して嫌いにはならないところが妙な感覚である。
確かにくるみは小柄だが肉付きも良い感じで細すぎず丈夫そうだった。ファミレスなので実態は肉体労働なのであまり線が細いと心配になる。
見た目は好みのタヌキ顔ではなく、ちょっと目の釣り上がったキツネ系で「可愛い」って感じではないけれど、整った美形なのは間違いなかった。
そういう美形の風貌も面接時に『この娘は未来のエースだな』って思わせるところだった。
くるみと言い合いが過熱してくるとミスターこと石田が間に入ってくれたりして何とか面談は終了し、戻ってくることが正式に決まった。
ところで、この面談時に何かの拍子で史恵の話題が出た。
史恵とは当時全盛期だったSPEEDの「ヒロ」に似た、ステーキワン名古屋南陽店をオープンする前に名古屋のジャスコ八事店で「とんかつ綾」という店舗を営んでいた時のバイトで、その後美容師を目指しこの頃は大須の「サリン」という美容院で働いていた。
ステーキワンがオープンしたら美容院が休みの時は来てくれるようになったけれど、美容院でトラブルがあったようでいつのまにか来なくなっていた。
まぁ、本業が大切だから仕方ないと思っていたけれど、両親が離婚して施設で育った彼女の保護者的な気持ちがあり一人暮らしを始めた史恵と一緒に家具店に行ってベッドを買ったりしていた。
但し、いつの間にか保護者的な気持ちから一人の女性として見るようになり、彼女も一緒に食事に行ってトイレに行くときは僕に携帯を預け、「電話掛かってきたら出てくださいね、『彼です』って言っていいから」と言っていた。決して『父』でなく。
そのうち戻ってくるかと思っていて実際に連絡があったが、その時はこちらの都合が悪かったのと急に来なくなった史恵にちょっと腹を立てていたのでそっけない態度をしてしまった。
その後に、彼女の携帯が解約されていることが分かりとても後悔した。
あの時、史恵はきっとちゃんと連絡しようとしてくれてたのにって。
「史恵には『世界中の人間が敵になっても、俺だけが味方でいるから・・・』って言ったことがあったな・・・」
遠い眼をしてそう呟くと、くるみが
「私なら、そう言われたら引くけど・・・」
とすかさず言う。
“誰がお前なんかにそんな台詞を言うと思っとるんじゃ・・・”
と心の中で罵ったけれど、不思議な事にそれまで史恵のことを考えると胸が痛くて息を吸うのも苦しいくらいだったけれど、この時は完全に過去の良き想い出の一つとして話すことが出来た。
くるみとの面談が終わった数日後
控室で社員の松本とくるみの話しをしていた。
「それにしても、相変わらずだな、波多野くるみは・・・。本当は『もう来なくていいわ』と言いそうになったけど。
あ~思い出すと腹立つ。ま、でもあんな奴だけど仕事は出来るからな・・・」
と言うと
「店長、仲良さそうに見えましたよ。なんだか楽しそうだったし・・・」
“へ?”
そんな風に考えたことも思ったこともなかった。他人から見るとそう見えるのだろうか?
それとも、おだてているのだろうか?でも、そんなことでおだてても仕方ないのだが・・・
とにかく、こうしてくるみは戻ってきた。
ミスターこと石田と二人がバイトに入ると店舗は見違えるようにスムーズに回っていった。




