【63杯目】潜入⑯
メイドはぽつぽつと話し出した。
「…私は旦那様のお屋敷に出仕する前、実家の商売を手伝っていたことがあります。そこまではお調べになっていませんか?千冬様」
「いや、元々は伯爵令息様と御用商人と商人の関係であって、あなたの方まではない」
「私の実家は魔道具を取り扱う商家のひとつでした。まあ、事業に失敗して破産、そこから拾って頂いたのが旦那様です。
そして、その実家のお手伝いで薬品と魔力の干渉について聞きかじったのを今、思い出したんです」
「そうか、それで…」
「『私が何とかしなきゃ』の一心でした。それ以外はおっしゃる通りです」
丁寧に頭を下げるメイド。
頭を上げて映し出された顔は、焦燥感はあるものの表情に迷いはない。
「お前、どうしてそこまで…ただの一晩限りの関係だろう」
「私はわかってしまったんです、旦那様は愛する人であると。更に奥様から冷たくあしらわれる寂しい人だと。
一時的でもいい、『心の安寧の時間を作ってあげたい』と、おこがましくもそう思ってしまったんです」
「お、お前……」
男爵様とメイドのやり取りがひと段落したところで、私は咳払いをして話を続ける。
「貴族殺しは重罪です。ですが、男爵様を守ろうとしたこと、身ごもっていること、そして…有能なこと。
情状酌量の余地があるように思えますよ。
特に今の帝国は『有能であれば貴族・平民問わず重用する。貴族はそれが不満なら高貴なその血に似合うだけの成果を上げてみよ』という、皇帝陛下の言がありますから」
呆然としていた隊長がハッと我に返って叫ぶように指示を出す。
「おい、お前ら。このメイドを連れていけ!別室にご案内しろ」
「「「ハッ」」」
警備の私兵に囲まれて連れていかれるメイド。
素直に連行されていった。
「さて、この伯爵令息様の殺害事件は一応解決の目を見ましたが、まだ解決していない物があります」
「そ、それはなんだね?」
素直に応じる隊長。
「男爵夫妻の処遇です。男爵様は裏取引に関すること。そして、ご夫人は男爵様の殺人教唆と幇助の未遂が残っています。
それとその関係で商家のお二方も。その捜査は任せていいですね?隊長殿」
「うむ、そこは任せて頂こう」
そうして事件の関係者は全員が会場を離れ、別室へと案内されることとなった。
私も事情聴取を受けることとなったが、遠海さん経由の侯爵様の取り成しで、軽く済ませられる。
そうした事後処理で夜が更け、パーティーはお開きとなった。
私と遠海さんは会場を後にする。
「面倒な案件だったな」
「ええ、本当に大変でした。後は結果の連絡を待ちましょうか」
傭兵家業を営んで転戦している私としては凄惨というよりも『うんざり』という印象が一番残った一夜だった。




