007⚫️甲板作業:二十五分の針穴
「凪のシワまで、あと120秒。バラスト調整、予備浮力確保。作業班、エアロック待機!」
待ち構えていた手が一斉に動く。
モニターには嵐の後縁が白い壁となって遠ざかり、海面の一時的沈静が近づく。
「浮上開始。深度40・・30・・・10。ベント開。露頂!」
ドォォォ!轟音と共に船体が海面を割る。
外部カメラは白濁した酸の飛沫で覆われる。
空中酸度Index 6.8。防護服なしでは肺を焼く。
「凪、到達。カウント開始、25分、今!」
メンテナンス・ハッチから4本のドローンアームが蜘蛛の脚のように伸びる。
「ブレード・クレードル、アップ。一番から四番、同時アクセス。ドローン班、シンクロ。1 mmのズレも許すな!」
波が艦体を洗うたび、耐酸被膜が白煙を上げて削れる。
猶予はない。
アームが前縁ブレードをホールド。
「固定ボルト、誘導加熱で急速剥離!」
「ブレード引き抜き成功。汚染チェック省略、新型を即装填!」
金属が噛み合う高い音が艦を伝う。
「残り15分。作業班、アノードのスポット交換を並行。E-3区画、急げ。」
酸霧に耐えきれなくなったドローンのセンサーが一基、火花を散らして落ちる。
予備アームをマニュアルで操る手が汗で滑る。
「あと8分。三番ロック完了。四番、急げ。噛み合いが5 mm浮いている!」
「波、来ます! クレードル衝撃まで30秒!」
「構うな、叩き込め。精度より固定だ!」
ドォォォンンン・・・大波が甲板を叩き、ドローン一体が根元から歪む。
その直前に四番ロックランプが緑に変わる。
「全ブレード固定。クレードル格納。アーム緊急放棄!」
残骸を甲板に切り捨て、ハッチを閉じる。
「残り2分12秒。急速潜航。メインバラスト注水!潜るぞ!」
艦が赤い海の下へ沈む直前、嵐の戻りが海面を叩く。
あと一分遅ければ、露出ハッチのパッキンは溶け、艦は沈んでいた。
「お疲れ。損耗報告をまとめろ。二十五分を勝ち取った。予定通り、30時間後に港湾シェルターへ入る。」
勝利とは、こうした命懸けの段取りの積み重ねでしか得られない。
この海が教える真理である。




