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066●屋台と小さな誤解

「はい、甘いの二本、辛いの二本。焼きたてだよ!」

赤い角のついた帽子の店主が、

鉄板の上で最後のタレをぴしゃっとはねさせ、

串を紙に包んで渡してくる。

近くの火口から炙り肉の甘い煙、

粗挽きスパイスの香り、焦がしタレの照り。

反射的に唾がわいた。

う、うまそう!涎がでるぞお!

思わずかぶりつく。表面は香ばしく、内側は肉汁でやわい。

甘タレは蜂蜜のコク、辛タレは山椒みたいなピリっと痺れる刺激が効いている。


「銅貨一枚ね。二本一組だから、二組で銅貨二枚。」

店主が手を差し出す。

「おう、ちょうどある。」

オレはニンゲン領で使ってた銅貨を二枚、ジャラっと出した。

店主の手が、そこで止まる。

指先でコインの縁を撫で、重さを確かめ、刻印をじっと見る。

「・・・うーん、外貨だね?」

「ん? 外貨も使えるんじゃないのか?」

「使えるよ。でも、秤合わせがいる。こっちの銅貨と重さが少し違うことがあるんだ。」


店主は腰の小箱から小さな天秤を取り出し、コインをちょんと乗せた。

針がかすかに右へ傾く。

「こっちの銅貨は薄い分、直径がわずかに大きい。見た目は似てるが、材質の割合が違ってね。ギルド印がなければ相場に合わせて受けるのが決まりなんだ。」


店主は壁の黒板を指す。

そこには今日の相場が白チョークで書き付けてあった。


《ニンゲン銅貨1=魔銅 0.9 / 銀貨換算は要ギルド印》


「つまり、銅貨二枚じゃ足りない?」

「うん、0.2 足りないんだよ。薄い分、半銅一枚ぶん、ね。」

なるほど。重さの差なんて、考えもしなかった。

「ガウ、見せて。」

リンリンが一歩前に出た。

オレの銅貨を受け取り、裏面を確認して目を細める。

「旧年号のミントだね。これ、鍛造所が変わる前のやつ。‘古薄’って呼ばれる型だよ。」

「こすすき?」

「薄い旧型って意味。両替屋ならそのまま受けるけど、屋台は秤合わせが基本なの。」

リンリンは店主に向き直る。

「ごめんなさい。じゃあ、半銅一枚ぶんは、この紙貨で。ギルドの小額紙貨、見て。押印あるから。」

小さく折り畳まれた紙切れ。なんだあ、それ?

店主が光にかざし、透かし模様を確かめ、角を弾いて音を聞く。

「おう、本券だ。よし、釣りは‘香草塩’でどうだい?」

「いいの?」

「屋台の慣わしだ。端数は味で返す。今日は新物のスウィートバジル塩が入ってる。」

リンリンが微笑む。

「ありがとう。」

店主も角帽を軽く押さえ、にやりとした。

「待ってくれ。なんで紙の切れ端で足りるんだ?」

オレは正直、まだよくわからん。

リンリンは指で小さく図を描く仕草をして、ゆっくり言った。

「通貨は重さと信用。重さは、金属の量。相場で補うのよ。信用は、ギルド印みたいな約束の証明。屋台は重さの方で受けることが多いから、足りない分だけ‘紙の約束’で埋めたの。」

「・・・つまり、うまいものは、約束でできてるか?」

「それはちょっと違うけど・・・まあ、だいたい合ってる。」

店主が笑いながら、小皿に緑色の香草塩を山にした。

「甘いのには塩をひとつまみやると、味が跳ねる。試してみな。」

オレは甘タレ串の先に塩を少し付け、ひと口。

おお・・・。甘味の奥から旨味が出てくる。

辛タレの方は、塩で痺れが丸くなる。これは反則だ。

「うまっ! 二本じゃ足りん!」

「なら、もう二本。‘古薄’は二割増しだが、うまさは三割増しだよ。」

店主の口上も、なかなかうまい。

「リンリン、やっぱお前はすごいな。オレ、全部力技でいくところだった。」

「力で解決すると、たいてい割高だから。」

「耳が痛いなあ。」

店主が、真顔になって言う。

「外貨が動くってのはさ、街が開いてるってことだ。だが・・・乱暴な金が入ると物価が暴れる。‘約束’を守る客は、いつでも歓迎だよ。」

「覚えとく。」


こりゃあ、‘魔法’の一種だよな。


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