4/19
003⚫️船も人も限界
「深度限界です。これ以上はもちません。」
「わかった。浮上する。ただし海面直下までだ。再び追尾されるのは避けたい。」
艦長席に身を戻す。耐酸被膜もそろそろ寿命だ。
いったん帰港して再塗装せねばならない。
「まだついてくるか。」
「スクリュー音なし。振り切ったようです。」
「やれやれ。手の空いた者は交代で休め。食事も済ませておけ。次がいつ来るかは読めん。」
「イエス、マム!」
この戦争は先が読めない。海洋の酸性化は進み、海は赤く濁る。
水素イオン濃度は上昇、pHは低下し、装備の寿命は確実に削られる。
この海で戦うことそれ自体の意味を、ふと問う瞬間がある。
戦死した夫と、故郷に残した子どもたちの顔がよぎる。
いや、緩んではいけない。
「艦長、少しお休みを。70時間以上、不眠不休です。」
「すまん、ボビー。少しだけ目を閉じる。」
制帽のつばを下ろす。
船体モニターには酸の雨痕が斑に残っている。
深呼吸。短い仮眠の底へ落ちた。




