015⚫️水中母艦
「抜錨。出港する。」
艦長の号令に、総員が流れるように動き出す。
超長距離航行可能潜水艦’ナガト’は、
巨大な質量を感じさせぬほど滑らかに、音もなくドックを離れた。
「深度をとれ。我々はまだ’仮免許’だ。各員、こいつの癖を試しながらいくぞ!」
その言葉に、死線をくぐり抜けてきた歴戦の猛者たちが、
不敵にニンマリと笑った。
’ナガト’の推進力は、
吸い込んだ海水を圧縮して一気に放出する「圧縮水流推進」である。
キャビテーションによるスクリュー音が発生しないため、
従来のパッシブ・ソナーにはまず掛からない。
酸化劣化を拒絶する表面構造は、内部の機関にも徹底されており、
これまでにない長期間の連続運用を可能にしている。
一方で、この艦には「武装」が一切ない。
追加の艤装を施せば、その接合部から酸化劣化を招く。
ゆえに、この艦は「剣」を捨て「盾」であることを選んだのだ。
だが、艦内には広大なデッキがあり、
複座の小型戦闘艇を多数搭載するスペースがあった。
しかしそれは、同時に最大の問題があることを意味している。
発進した戦闘艇は’ナガト’のような耐酸性を備えていない。
外に放たれた瞬間から、それらは酸に蝕まれ、削られていく。
そのため、艦内には専用のドックがあり、
膨大な補修資材が積み込まれている。
母艦の中で傷ついた子機を癒やし、充電し、再び戦場へ送り出す。
無限の寿命を持つ者と、有限の命を削る者。
この相反する存在は、
すなわち政治家と戦場を駆ける兵たちとの関係と、一致するのだ。
「つまり、’ナガト’は一昔前の’空母’と同じ運用になるわけだ。」
「なるほど。艦長、本艦は’水中母艦’というわけですね。」
「その通りだ。もっとも、巨体に似合わず速度は通常艦並みだがな。」
あとの特徴は、黄色いということですよね。
ボビーは、クルーを代表するように、心の中で呟いた。




