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名前の知らない感情


『私も立候補します』


その言葉を聞いた瞬間、エトハルトの中に、今まで感じたことのない感情が込み上げた。

明確に嫌だと感じたが、それだけでないような変な感じがして、それをなんと表現したら良いか分からなかった。


この感情はなんと呼ぶべきものか、

彼はまだ知らない。




「まぁ、嬉しいわ!例年嫌がる生徒の方が多いのに、このクラスは三人もだなんて…セラフィさん、エトハルトくん、ランティスくん、これから宜しくね。」


カナリアは、三人と目を合わせて頷いた。


それに対し、しっかりと頷き返すランティスに、ニコニコとセラフィのことだけを見ているエトハルト、そして呆然とした顔のセラフィ。三者三様であった。



えっと…私、なんでこんな身分の高いメンバーに混ざったちゃってるんだろう…やるなんて一言も言ってないのに…


というか、ランティスさんが最初から手を挙げていればこんなことにならずに済んだんじゃ…


なんであのタイミングでわざわざ…

これは新手の嫌がらせなのかな。




「はぁ…」


机に頬杖をついてため息を吐いたセラフィ。

そんな彼女に、ランティスはかつかつと早足で近づいて来た。


気付いた時にはセラフィのことを見下ろすように眼前に迫っていた。

彼女は、人の気配に一瞬顔を上げたものの、整った顔を崩さずに見て来るランティスに、少し怖くなりすぐに顔を背けてしまった。



「セラフィさん、これから宜しく。」

「えっ…」


セラフィは驚いて顔を上げた。


何か言われるものだと勝手に思い込んでいた。だが、彼の言葉は友好的なものであった。その証拠に、手を差し出してくれている。


このクラスで、エトハルト達以外の人から初めて向けられた親しみのある態度に、セラフィは胸の奥が温かくなった。

それと同時に、この言葉を鵜呑みにしちゃいけないと警鐘を鳴らす自分もいて、彼の手を取ることを躊躇してしまった。


親切な言葉には何か他意があると疑ってしまう自分が嫌になる。





「宜しくね、ランティス。」

「お前…」


差し出したランティスの手を取ったのは、エトハルトであった。

自分に向けられたものだと信じて疑わない素振りで、彼の手を取り握手をした。


睨み付けるランティスとそれを朗らかな笑みで返すエトハルト。二人の間にダイヤモンドダストが舞う。


なんとなく気まずい雰囲気を察知したセラフィは椅子から立ち上がり、二人に声を掛けた。



「よっよろしく、ね…」


最初は上擦った大きな声で、最後は尻窄みになってしまった。


脳内イメージでは、いつもアザリアと話しているように明るく元気に挨拶を出来ていたのに、実際のそれはほど遠かった。

挨拶すら上手くできない恥ずかしさで、セラフィは頬を染めて、ぽすんっとまた椅子に座った。


そんな彼女の姿を見たエトハルトは、横を向いて小さく吹き出していた。



「ああ、宜しく。」


そんな中、ランティスだけは机に俯くセラフィに向かって生真面目に挨拶を返していた。




「学級委員の三人は、今日の放課後教室に残ってちょうだい。早速だけど仕事があるわ。さてと、授業を始めましょうか。」


カナリアの声かけで、ホームルームは終わりとなり、通常の授業が始まった。





午前中の授業が終わり、昼休みとなった今、今日もセラフィはエトハルト、アザリア、マシューの四人で食堂にいた。



「セラフィ良かったわね!学級委員なんてすごいじゃない!」

「良くないよ…私ああいうの苦手って知ってるでしょ。」


思い出してしまったセラフィは、口にしようとしていたポテトフライをやめ、代わりに野菜スープに口を付けた。


その隣で相変わらずアザリアは、メインディッシュのお肉をパクパクと止まることなく口に運んでいる。



「でもいいじゃない。あのランティスと一緒でしょ?もしかしたら万が一ってこともあるわよ。彼、婚約者いないって言ってたから。」

「ん?何の話…?」


アザリアの発言に、マシューは顔を青くしてフォークを持つ手を止めた。

隣から漂う今にも凍り付きそうな冷気のせいで、何も手につかない。恐怖で、隣の彼を見ることも出来ない。



「だから、もしかしたらセラフィの…」

「アザリア嬢?」

「……ひいいいいっ!!」


ここでようやく異変に気付いたアザリア。

真っ黒い笑顔で笑うエトハルトに脅すような口調で名を呼ばれ、さすがの彼女も命の危険を感じて口をつぐんだ。


代わりに、小声でマシューに当たり散らした。




「エトハルトは、結婚とか恋愛とか興味ないんじゃなかった!?なんで、あんなに殺気を飛ばして来るのよ!仮初なら仮初らしく、放っておけば良いじゃない!過干渉なのよ!」


「そんなこと俺に言われても…俺だって疑問に思ってるんだから、本人に直接…」


「本人になんて聞けるわけないでしょうっ!あの人怖いもの!」



テーブルの上で顔を近づけて小声で話す二人に、セラフィは仲がいいなと温かい目を向けていた。


そんなセラフィのことを、エトハルトは微笑ましい目で見つめていた。





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