真空結界炉
真空結界炉
「お前たち・・・無事帰ってきたゴブ」
隠れ迷宮から帰ってきたので、ゴブリン鍛冶場のゴブ鉄さんに会いに来た。
「ただいま、ゴブ鉄じぃじ、これおみやげ!」
そう言って、神灰銀の塊を差し出すおもち。
「この色と質感・・・確かにあの時拾った塊とおんなじ物ゴブ。よくこんな大きな塊を手に入れたゴブ」
そこでゴブ鉄さんに、隠れ迷宮の中での話をした。
「それでよく生きて帰ったゴブ。しかし神灰銀の塊があっても、加工が出来んゴブ・・・」
そう言って顔を曇らすゴブ鉄さん。以前加工しようとして失敗した経験があるのだ。
「それについては、ちょっと心当たりがあります。ここに鍛冶場を新設してもいいですか?」
鑑定の付属技能である、百科事典先生の出番だ!
おはぎ経由で文鳥迷宮の迷宮核に頼んでもらい、文鳥倉庫の資材を使って鍛冶場の建物を新設してもらう。
そして鍛冶場の中に、一か所を開いた囲いを作ってもらう。
文鳥倉庫から耐火煉瓦と耐火モルタルを出してもらい、囲いの中の右側に理力炉を作る。
そして鍛冶をするための、鉄床を設置する。
囲いの内側には「結界」と「真空」の理法陣を、理力炉に「加熱」の理法陣を、鉄床に「冷却」の理法陣を刻み、それぞれ理法線で囲いの外に設置した核石と繋ぐ。
核石は理力を溜め込み放出するという、蓄電池の役目を果たすのだ。
「結界」の理法陣につながった核石に、白理法の理力を。
「真空」の理法陣につながった核石に、風理法の理力を。
「加熱」の理法陣につながった核石に、火理法の理力を。
「冷却」の理法陣につながった核石に、氷理法の理力を。
それぞれ充填していく。これを真空結界炉と命名した。
これで神灰銀を加工する準備は完了だ。
おはぎに頼んで、核石に手を添えて理力炉の理法陣を起動してもらう。迷宮で手に入れた、折れた聖銀の剣をるつぼに入れて、理力炉の中に入れて溶かす。溶けた聖銀を、特殊な砂で作った板状の型に流し込み、これを刀身の土台とする。
続いて僕が「結界」の理法陣を、おはぎに「真空」と「冷却」の理法陣を起動してもらう。これで囲いの中に発生した結界の中が真空に保たれる。百科事典先生によれば、神灰銀の精錬・加工は真空中でなければ出来ない。このため神灰銀の加工は困難だと言われているようだ。
ちなみに鉄床を冷却する理由は、真空中では熱が伝わらないため、鉄床の熱が逃げる場所が床しか無い。そのため加工中に、伝わった熱で鉄床が溶けてしまうのを防ぐためだ。
そして僕自身に「結界」の理法をかける。これをやらないと、真空の結界内に入ることが出来ない。
るつぼに神灰銀の塊を入れて、理力炉の中に入れて溶かし、聖銀の時より短い板状の型に流し込む。ただし、これを全て真空結界内でやらなければならない。
今度はさっき作っておいた聖銀の土台の板を取り出して、その上に神灰銀の板を乗せ、理力炉の中に入れて加熱。火が入ったところで鎚で叩くのだが、うまくいかない。しばらくモタモタしていると、
「えーい!見てられんゴブ!俺が叩くゴブ!」
とゴブ鉄さんに怒られてしまった。僕に鍛冶の技能があるといっても、これをいきなりは無理だったか。
ベテラン鍛冶師の腕前はさすがで、聖銀と神灰銀を重ねた板がみるみる伸びていく。縦にある程度伸びたところで上下をひっくり返し、二つ折りにして重ね、また叩いて伸ばす。これを数回繰り返してもらい、最後に刀身の形に打ってもらう。
「お前用のダガーということでいいんだな」
そう言うと、見る間にダガーの刀身の形に打ち上げていった。
後はこれを砂の中に入れて冷やし、研いで鍔と握りをつければ、ダマスカス・ダガーが完成するはずだ。
材料がまだあるので、ゴブ鉄さんの指導の元、僕もダマスカス・ダガーに挑戦してみた。
結果、かなり歪んだダガーの刀身が完成した。ゴブ鉄さんいわく、
「初めてにしては上出来ゴブ!多少は研ぎで何とかなるゴブ!」
と、僕の頭を撫でて慰めてくれた。
数日後、ダマスカス・ダガーは完成した。両刃に柾目の板のような模様が美しい。
「鍔は聖銀で作ったゴブ。握りはお前たちが迷宮で狩った、ユウレイヤギの角を使ったゴブ」
理法を使うユウレイヤギの角なら、理法の通りがいいだろうからと言うことだった。
「それと、こっちはお前が打ったダガーだゴブ」
ゴブ鉄さんが打ってくれたものと比べると、長さが半分くらいしかない。模様も歪んだ板目で今ひとつ美しくない。
「まあ、だいぶ研いだからな・・・ゴブ」
何とか苦労して形にしてくれたらしい。これは記念に取っておこう。
「ありがとな、タクミ。いい経験になったゴブ。いつかは聖銀と神灰銀のダマスカス鋼で長剣を作ってみたいゴブ」
また真空結界炉を起動しましょうか?とゴブ鉄さんに言ったところ、
「今はいいゴブ。ダマスカス鋼自体は聖銀と神灰銀でなくとも作れるゴブ。他の金属で作り方を極めた上で、最高の聖銀と神灰銀のダマスカス・ブレードを作ってみせるゴブ!」
そう言って、胸を張るゴブ鉄さんだった。




