祭壇の魔物
祭壇の魔物
テントを設営する前に、リュックサックから理法陣の書かれた板を取り出す。
これは獣よけを参考に自分で作った品だ。
理法陣に書かれているのは「魔物よけ」と「結界」。
白理法を流して、理法陣を作動させる。これで当分の間は、この近辺に魔物は寄り付かないはずだ。万一の場合は、結界が発動して食い止める仕組みになっている。
テントを設営して食事の準備をする。迷宮内ということで、用意しておいたもので済ます。
時間停止のついたリュックサックの中から、パンと串焼き肉に先日釣ったイワメの塩焼き、熱々のスープなど取り出す。
食後、おもちに文鳥倉庫を呼び出してもらい、リュックサックの中を整理する。容量拡張がついているとは言え、迷宮で手に入れた魔物の皮や牙などの素材で、溢れそうになっていたためだ。倉庫番のナビに頼んで預かってもらう。
後はテント内で休む。興奮して寝られないかと思ったが、疲れていたらしく、三人ともぐっすりと眠っていた。
「ヒャン!」
おはぎが変な声を上げる。高い場所にある鍾乳石から落ちてくる水滴が、背中に入ったらしい。
地面のあちこちには石筍が立っていた。鍾乳石とつながって一本の柱のようになっているものもある。
ヒカリゴケと言うのだろうか。壁や天井にほのかに光る何かが生えていた。
結晶化した水晶のような鉱石が、壁や地面に乱立している。僅かな光を受けて光り輝く姿は幻想的だ。
長い時をかけて作られた洞窟のようだ。声を出すと反響して跳ね返ってくる。
洞窟を進んでいくと広場のような場所に出た。ここの天井は更に高い。
広場の真ん中まで進んだときだった。僕たちの周囲の地面から、複数の赤い光が灯る。
そしてその中から人影が立ち上がる。坑夫の姿をしてつるはしを握りしめているもの、冒険者の姿をして剣を握り締めているもの。しかし人の姿をしたそれらは、欠損したり骨が見えているという、おぞましい姿をしていた。
【ゾンビ:死体に迷宮の呪いによって縛られた魂が憑依して動き出し、獲物に襲いかかる。物理攻撃に耐性あり。火に弱い】
おもちがゾンビに回し蹴りを入れて、ヨロイグマの籠手の爪で頭を吹き飛ばす。しかし倒れてもすぐに起き上がってくる。
「にぃに、こいつらきもちわるい」
動きは鈍いが、いくら攻撃しても起き上がってくるゾンビを相手に、弱音を吐くおもち。
「火理法:炎陣」
おはぎがヨロイグマの杖を構えて理法を唱え、周囲のゾンビを焼き尽くす。
焼かれたゾンビは灰になって、光とともに地面に消えていく。しかしあまりに数が多すぎて追いつかない。
今度は僕が鳥の杖を構えて理法を唱える。
「白理法:解呪」
床一面を覆い尽くす理法陣が展開して、白く光る。
広場のほとんどのゾンビが崩れて灰になった。灰の中から昇華した魂たちが天に登っていく。
解呪の理法に耐えたゾンビを、おはぎが火球で燃やしていく。
ゾンビの姿が見えなくなった。
ゾンビたちは多数の硬貨と、壊れた武器防具、折れた聖銀の剣を残していった。
硬貨と聖銀の剣はありがたくもらっていく。聖銀は貴重なので潰して再利用する予定だ。
ちなみに「解呪」は不死の魔物の呪いを解くが、魔物を倒したときと違い、お金や素材を残さない。
これは昇華されてしまうと、迷宮が魂を再利用出来ないため、迷宮としてはありがたくないからと言うことらしい。
洞窟を進んでいくと、ギリシャの神殿のような柱が出現した。その巨大な柱は洞窟の両脇に何本も連なっており、奥まで進むと石造りの祭壇のような場所に突き当たった。
その祭壇の真中に描かれている巨大な理法陣。どこかで見たことがある光景だ。それは鳥の神様の迷宮で・・・。
するとその理法陣が激しく光りだした。光の中から巨大な塊のような何かが現れる。
ゆっくりと立ち上がったそれは、動く岩山のようにも見えた。
【ストーンゴーレム:核石を中心にまとまった、石の塊の人形。核石に刻み込まれた命令に従い動き続ける】
ストーンゴーレムはゆっくり腕を振り上げて、僕たちめがけて振り落としてきたので逃げた。
「ズン!」後ろで地響きを立てる。こんな化け物の相手なんかしてられるか。
しかし目の前に鍾乳石が多数落下して道を塞ぐ。完全に退路を絶たれてしまった。
仕方がない、生き残るためにはこのゴーレムをなんとかしないと。
まずはみんなをできるだけ強化する。
「白理法:物理防壁展開、理力防壁展開、身体強化、攻撃力強化、理力強化、高速」
「おはぎとおもちは人化を解いて、空中で待機!」
そう言うと、白い煙を上げて二人は二羽の文鳥に戻る。これだけ小さければ、二人に攻撃を当てることは難しいだろう。最悪でも道を塞いでいる鍾乳石の上を飛んで、外に逃げることは出来る。
続いて少しでもゴーレムを弱体化する。
「黒理法:防御力低下、攻撃力低下、低速、暗闇」
「緑理法:根縛」
地面から太い木の根が伸びて、ストーンゴーレムの足元に絡みつく。この化け物相手に、果たしてどの程度理法の効果があるのか難しい所だが。
案の定、ストーンゴーレムは木の根を引きちぎって動き出した。この時足払いを食らってしまい、後ろに激しく吹き飛ばされてしまった。柱にぶち当たり口から血反吐を吐く。ヤバい、アバラが何本かいかれたか!
『にいさま!』『にぃに!』文鳥のおはぎとおもちが叫ぶ。
「白理法:快癒」
即座に自身を治療する。今回は凌ぐことが出来たが、あんなのを何度も食らったら、いずれ即死してしまう。
『にいさまの仇!火理法:爆炎』
おはぎの理法で巨大な炎の玉が、ストーンゴーレムの胸にぶち当たる。この時なぜかゴーレムがたじろいだように見えた。
もしかしてゴーレムの核石ってあそこにあるんじゃないか?
「おはぎ、考えがある。爆炎の理法を連続で、今と同じ場所にぶつけてくれ!」
『はい!にいさま。火理法:爆炎×十』
ストーンゴーレムの胸元で連続して爆炎が上がる。
「次に凍結の理法を同じ場所にぶつけるんだ!」
『分かりました!氷理法:凍結×十』
理法で熱くなったゴーレムの胸元が一気に凍結する。すると胸の部分の石全体にひびが入っていく。
隣に降りてきて、人化するおはぎ。僕の腕を掴んで肩で息をしている。理法を使わせすぎたか・・・おはぎの顔色が悪い。
「おもち、ふくれろ!目一杯だ!」
『わかった、にぃに!』
一気にふくれてオオハクチョウくらいのサイズになるおもち。上空で旋回して次の指示を待っている。
「おはぎ、おもちに防壁と暴風加速を頼めるか!」
スマンおはぎ、もうひと踏ん張り頑張ってくれ!
「やれます!水理法:水防壁」「風理法:風防壁、暴風加速」
杖を構えて、脂汗を流しながら理法を唱えるおはぎ。
「行け!おもち!」
水と風と物理防壁をまとったおもちは、暴風加速に乗ってストーンゴーレムの胸元に突っ込んでいく。
『いっくよー!ぶんちょうたいぎ:れんだん』
ゴーレムの胸に激突したおもちは、壁へと跳ね返る。そして壁からさらに加速して跳ね返り、元のゴーレムの胸に突っ込んでいく。これを数度繰り返すと、ゴーレムの胸部分の石が砕け散った。さらにおもちの激突の衝撃で、ゴーレムがバランスを崩して倒れ込む。砕けた胸部分の石の中から核石があらわになった。
僕はゴーレムに駆け上り、ダガーを振り上げて力いっぱい核石に突き立てた。それと同時にゴーレムがビクンと大きく痙攣したような気がした。
ストーンゴーレムは光に包まれて、吸い込まれるように地面に消えていく。
同時に道を塞いでいた鍾乳石も、塵になって消えた。
ゴーレムが消えた後に数十枚の金貨と、神灰銀の大きな塊が三つ、そして特大の核石が残った。
隠れ迷宮全てを攻略したわけではないし、別ルートでもっと先に行けるのかもしれないが、欲しかった神灰銀の塊が手に入ったし、一応突き当たりまでたどり着いたので、ここで戻ることにする。
三人とも疲れたし、これより強い魔物相手に勝てる気もしなかったので。




