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第八十五話 結界術師、ダンジョン捜索

                          第五章 過去の遺物

                     第八十五話 結界術師、ダンジョン捜索



 ダンジョン内に踏み込む。魔物が出現しているのは遺跡内のはずだが、かなりの数の魔物がダンジョンの一層にも集まっているようだ。ダンジョン内に出現する魔物が、遺跡で生まれた魔物に狩られているのだろう。戦闘音が奥から聞こえてくる。

 魔物を倒しながら、少しずつ奥へと進んでいく。俺が結界で分断すれば、そう簡単に囲まれることはないだろう。しかし、ここは狭いダンジョンの通路だ。分断するにしても、限度というものがある。

 通路を一つ分断すると魔物は止まるが、同時にそこへ集まってしまうということだ。結界を解けば、一気に集まていた魔物が流れ込んでくるだろう。さらに、自分達の退路を塞ぐことにも繋がる。何かあった際に、逃げられなくなってしまうのだ。

 そのため、慎重に進む必要があった。ダンジョン内から出てくる魔物は、思っていたよりも少ないようだ。その分、数倍の魔物が潜んでいる。

 敵の数が多いので、戦闘を行うだけで別の魔物が集まって来てしまう。迅速に戦闘を終わらせ、先に進む必要がある。いつまでも戦闘を続けていては、魔物が集まり続けて奥に進むことができない。


「面白い動きをしてくる魔物が多いですね」

「新鮮だわ!」


 数回の戦闘を重ね、ようやく一層の半分に差し掛かる。慎重に進んでいるうえに、敵が多くて中々進むことができていなかった。双子がいつもとは違った魔物と戦う度に、嬉しそうな声を上げる。

 流石は生粋の戦闘狂だ。少し先に進むだけで何度も戦闘が起き、俺達は辟易し始めているというのに、とても元気そうだった。


「どうしたんだ?」


 もう一人の戦闘狂。カリアに元気がないことに気付き、声をかける。


「魔物を見る度に、何か妙な感じがしてな…いや、大丈夫だ」


 やはり少し様子がおかしいが、魔物に攻撃された訳ではない。本人が大丈夫と言うのならば、そうなのだろう。


「こちらは電気虎エレキタイガーとウェアウルフを掛け合わせているのですね! 俊敏性と攻撃力が高いウェアウルフに電気虎の能力を組み合わせ、さらに俊敏性を上げる…大変素晴らしいです!」


 もう一人、かなりテンションが高い者がいた。魔物の研究をしている男だ。彼は毎回魔物を倒す度に、その魔物が組み合わせられているのかを確認する。


「これも研究…調査だからね」


 急ぎたいのだが、俺達の依頼は彼等が調査できるように護衛することだ。先ほどからそれを逆手に取り、調査と言って立ち止まる。他の研究者はそれを見ても何も言わない。いや、言えないのだ。自分達の調査対象が現れた時、同じようになることが分かっているから。


「遅いです」


 俺の隣に来ていたサーシャまで愚痴を溢す。遺跡に着いたら他の二人も同じようになるのかと思うと、本当に面倒でならない。

 彼が調べている魔物は、先ほど倒したばかりの魔物だ。電気を纏って襲ってきたこの魔物は、とても動きが速かった。電気虎は自身の体に電気を纏うことで、素早く動くことができる。ウェアウルフと合わせることで、素早い者がさらに速く動くという状況になっていた。

 ここの魔物は、どれも全く違う戦い方をする。組み合わせによって、強さも能力も全く違うからだ。組み合わせによってはDランク程度の強さの魔物もいれば、Bランクに近い強さの魔物もいる。


「そろそろいいだろう」


 そう言って、魔物を調べていた研究員を催促する。こうしなければ、いつまでもその場に留まるからだ。魔物が集まって来て戦闘が起きれば、再び調査を始めてしまう。進むのが遅くなっているのは、彼が一番の原因かもしれない。


「分かりましたよ」


 彼は少し名残惜しそうにしながら、魔物の死体から離れる。遅々とした歩みで、魔物を倒しながら一層を抜けた。


「二層からは面倒だな」


 道が入り組んでいて、迷路のようになっている。どの道も結構長く続いており、一度行き止まりまで行くと戻るのにとても時間が掛かる。さらに魔物も沢山いるため、戻っている間に俺達のいる通路に魔物が入り込んでくるのだ。

 一層は冒険者が作った地図があったので楽だったが、二層からは地図が存在しない。ダンジョンの地図は、基本的に完全攻略されるまで出回らない。これは地図を見て先に進まれ、宝を先に見つけられるのを防ぐためだ。

 俺達が一層の地図を持っていたのは、Aランク冒険者のベラルが潜った際に作成したものをエドラスから受け取っていたからである。彼は二層の様子を見て、無理だと考え帰還した。つまり、一層は攻略したということだ。

 後衛職の彼が、魔物だらけのこのダンジョンの一層を一人で攻略した。これだけでも、Aランクという肩書が伊達ではないのが分かる。一般的にCランク以上の冒険者が、ベテラン冒険者と呼ばれる。ベテラン冒険者の中でも伝説と化したSランクを除くと、Aランクは格が違うと言われていた。

 それはAランク冒険者になるために、かなりの強さが必要だからだ。それは決して、戦闘力だけという意味ではない。冒険者としての実力が必要なのだ。

 BランクからAランクへと昇格するための試験は、ただ強力な魔物を倒せばいいという訳ではない。他のランクの昇格試験とは違って、知恵や問題解決力、危機回避力等の色々な面を見られることになる。

 Aランクへの試験は、一切内容が決まっていない。その時に起きている問題を解決するのが、試験の内容になるのだ。どの能力が重要になって来るかは、その時の試験の内容による。また試験にできるほどの問題が起きなければ、昇格試験が行われることもない。

 例え実力があったとしても、タイミングが合わなければ試験さえ受けることができないのだ。運という要素も、Aランク冒険者になるためには必要だということである。


「行き止まりだな」

「…戻ります」


 連戦が続いているため、いつも元気なサーシャが疲れを見せていた。魔物の大半はフランとカトレアが倒しているので、それほど彼女が戦闘を繰り返している訳ではない。


「また見たことのない組み合わせですね!」


 …原因は目の前の男だろう。遺跡から出現した魔物の数はかなり多く、組み合わせによって種類が変わる。そのため、かなりの種類がいた。

 新たな組み合わせの魔物が出てくる度に、彼は確認を始める。


「ここも行き止まりか…」


 ダンジョンの作りもかなり悪く、蟻の巣のように分かれ道が多いため、戻るのに何度も同じ道を通る必要がある。何度も行き止まりで引き返すのは、かなり精神的にくるものがあった。


「…あれは先ほども見ましたね」


 少しずつではあるが、捜索速度が上昇していく。一度見た魔物が増え始めたからだ。種類はかなり多いが、決して無限に存在するという訳ではない。倒していった分だけ、同じ種類に遭遇する確率は上昇する。

 今までかなりの数の魔物を倒してきたが、未だに現在では存在しない魔物が素材に使われていたということはないらしい。何度も新種の組み合わせの魔物を見て興奮しているが、その度に彼は律儀に落ち込んでいる。

 特に同じ組み合わせの魔物に遭遇する確率が上がった今となっては、その落ち込み具合も目に見えて分かるほどだ。

 そして三層へと続く階段を見つける。これで、二層の攻略もようやく終わりを迎えた。


「ようやく着きましたね」


 同じ研究者でも、魔物を研究している男以外は俺達と同じように辟易していたようだ。二層の構造上、一層の時よりも倍以上の時間が掛かった。


「取り敢えず、一度休憩するか」


 階段のある場所は、少し広い部屋のようになっている。俺達が来た通路と階段を結界で塞ぐことで、魔物は入って来れなくなった。これでゆっくりと休憩ができる。

 進む際に集まった魔物を倒す必要が出てくるが、ここまで来るのにかなり時間が掛かった。戦闘続きだったため、疲労も溜まっているだろう。休息を取ることは、賢明な判断のはずだ。

 三層へと続く階段を目の前にして、俺達は床に寝袋を敷いてゆっくり休息を取った。魔物が集まる中、研究者達はすぐに眠りにつく。流石は危険を顧みず、喜んでこのダンジョンへとやって来た研究者達である。

 休息を取った後は、三層の攻略だ。かなり戦ったので、知らない組み合わせの魔物も減って来た。これで少しは時間を短縮できるはずだ。

 そう思いながら、俺も眠りについた。

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