第八十四話 結界術師、ウェンデルト王国の現状を知る
第五章 過去の遺物
第八十四話 結界術師、ウェンデルト王国の現状を知る
王都へ到着すると、すでに日が沈みかけていた。流石にこの時間に行っても、邪魔になってしまうだろう。そう思って近くの宿をとる。あのエドラスならば、恐らくこの時間でも場内へ招き入れてくれると思う。だが城を閉めるため、他の兵士に迷惑が掛かってしまうのだ。
「僕達はウェンデルト王国の色々場所を旅してきましたが、あのような魔物は見たことがありませんね」
宿で昼間見かけた魔物の話をしていた。フラン達も見たことがないようだ。
「魔王軍の誰かの仕業かしら?」
カトレアの疑問に、俺は少し考え込む。以前魔王軍のスラウがエルフの里近くに来た時、普通の魔物よりも強力な魔物を連れていた。魔王軍の仕業という可能性は在り得る。
「直接見ないことには分からないな」
どれだけ考えようと、所詮は机上の空論だ。魔王軍の仕業であろうとなかろうと、確認してみなければ分からない。しかし本当に魔王軍の仕業だった場合、かなり危険な状況ということになる。
フスト王国ならばともかく、ウェンデルト王国は魔王領に面している訳ではない。それが王都の近くまで迫って来ているということなのだ。
エドラスが知っていればいいのだが、知らなければ調べに行く必要があるだろう。見たこともないような危険な魔物がいるのだ。沢山の冒険者に依頼が出され、広範囲に派遣されるだろう。エドラスならば、俺を直接指名して依頼する可能性がある。
指名した依頼は、報酬がかなり高くなる。王からの指名ならば、特に沢山の報酬が貰えるはずだ。だが、俺達は戦争でかなりの金を得ている。それほど金に困っている訳ではない。それでも、王からの直接の指名を断ることはできない。
翌日、俺達は城へと向かっていた。その間にも、冒険者や兵士が外へ向かって歩いて行く。その数は普段の倍以上の数だ。明らかに、この国では何かが起こっている。
城へ到着すると、すぐにエドラスの下へと案内された。彼は会議室にいて、他の者達へ指示を飛ばしているところだった。
「おう。戻って来たか」
こちらに気付いたエドラスが、俺に向かって手を振る。彼の指示で城内は慌ただしくなっているが、それほど緊迫した状況でもないようだ。
「早速で悪いが、依頼を受けてくれないか?」
「まずは状況を教えてくれ…」
「そうだったな。すまない」
俺達へ謝った後、すぐに状況の報告を始める。
以前から森にあったダンジョン。ガラクタのダンジョンと呼ばれていたようだ。そのダンジョンでは魔法具を作るための簡単な素材が手に入り、中級冒険者が愛用していたダンジョンだったらしい。
そしてダンジョンの四層まで到達した冒険者が、五層から遺跡となっていることに気付いた。恐らく遺跡が埋まり、その上にダンジョンができたために入り口が繋がったのだろう。
その遺跡へ入り込んだ冒険者が、一つの罠を作動させてしまった。それが、自動防衛システムだ。そして、沢山の魔物が遺跡を守護するために現れた。
魔物が現れる罠は、ダンジョンでも時々ある罠だ。冒険者達は一度逃げ帰り、討伐隊を組んでもう一度ダンジョンへ入る。
しかし、そこには二つの誤算があった。
一つは魔物の強さだ。普通のダンジョンの罠なら、そこで出てくる魔物が沢山現れるだけである。だが遺跡で出て来た魔物は、そこを守護するために強化されていた。色々な魔物の面影があり、人工的に作られたと推測されているようだ。
強化された魔物は強力であり、見たこともない動きをする。数もかなり多く、遺跡へ辿り着いた頃には対処しきれない数になっていたそうだ。そのため、討伐隊は半壊して逃げ帰って来たらしい。
もう一つの誤算は、遺跡とダンジョンが繋がってしまっていることだ。普通の防衛システムならば内部を守るために存在しており、そこから出てくることはない。しかし遺跡はダンジョンと繋がってしまっており、遺跡の入り口という境界線がなくなってしまっている。なので、ダンジョン内から出て来てしまっているようだ。
今はダンジョンの入り口に兵士や冒険者を待機させ、出て来たばかりのところを一斉に攻撃して倒しているらしい。今朝すれ違った冒険者や兵士は、すでに出てしまっている魔物を討伐するために森へ向かったという。
数を集めて一体ずつ対処すれば、中級冒険者でも問題なく勝てる魔物のようだ。倒した蛇の魔物も、確かに危険ではあったがそれほど強い魔物ではなかった。
それでも、ダンジョン内に踏み込むことはできないらしい。すでに魔物が沢山いて、狭いダンジョン内では一体ずつ戦うということができないからだ。
Aランク冒険者も一度向かったようだが、あまりの数の多さに囲まれる前に戻って来たらしい。ウェンデルト王国のAランク冒険者といえば、百発百中のベラルだ。彼の職業はスナイパーで、後方からの攻撃を得意としている。
彼ならば囲まれたとしても撃退できると思えるが、敵の能力が分からない以上危険を冒したくなかったのだろう。ベテラン冒険者の方が、初心者や中級冒険者よりも慎重に行動する。ランクの高い依頼程危険になるので、自然とそれが身に付くのだ。
「クロウ達への依頼は、彼等の護衛だ」
そう言ったエドラスの後ろから、研究者のような格好をした男が三人現れる。
「彼等は考古学者だ。調査に向かう彼等を護衛するのが依頼だ」
「よろしくお願いします」
三人の中でも、リーダー格のような男が頭を下げる。これから危険な遺跡に入るというのに、彼等は皆一様にワクワクした表情を浮かべていた。
研究者の中でも、エドラスは選りすぐりの者達を選んだのだろう。遺跡の中を調査したくて仕方がないといった様子だ。
彼等が調査に向かう理由は、自動防衛の罠は解除するまで魔物を排出し続けるからである。どれだけ魔物を討伐したとしても、罠を解除しなければ意味がない。
罠を確認するために、彼等が調査へ出向くのだ。そこで解除できればいいが、できなければ出直すことになる。解除する方法を見つけ次第、もう一度向かうことになるだろう。
調査している間も、魔物は出現し続けるはずだ。そのため、調査が終わるまで彼等を守り続ける必要がある。エドラスはこの国で最も優秀な考古学者を集めたと言っていた。何度も行くのは面倒なので、一度で解除できることを願う。
翌日、俺達は考古学者三人を連れて森まで来ていた。
「楽しみだな」
「遺跡の中はどうなっているのだろうか?」
「見たこともない魔物が沢山いるらしいぞ」
三人の学者の内、一人はどうやら魔物の研究をしているようだ。考古学者ではあるが、特に古代の魔物を研究しているらしい。
今回は人工的に作られた魔物だが、素材に古代の魔物が使われているかもしれない。その可能性を願い、彼は現代の魔物を勉強してきたという。つまり見たこともない魔物が混じっていれば、それは古代の魔物が混じっているということだ。
「殆ど魔物がいませんね」
フランが言う。森には現在、遺跡から溢れた魔物が潜んでいる。それを排除するために、毎日冒険者や兵士のグループが来ていた。彼等が魔物を狩っているので、あまり見かけないのだろう。
そう思っていたのだが…。
「酷いな…」
魔物の残骸が落ちていた。その魔物は食われた形跡等が一切ない。ただ殺した。そのような様子だ。
どうやら遺跡から出て来た魔物は、他の魔物とは違うらしい。外の魔物を敵と認識して、殺して回っているようだ。
「ここか」
出て来来ようとした魔物を排除するための部隊が、ダンジョンの入り口に集まっていた。その周りには、かなりの数の魔物死体がある。
「かなりの数だな」
カリアの言葉に頷き返し、遺跡の奥まで辿り着くのは思っていた以上に大変そうだと感じた。




