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第八十三話 結界術師、ウェンデルト王国へ帰る

                          第五章 過去の遺物

                  第八十三話 結界術師、ウェンデルト王国へ帰る



 サラの案内で、チナの町へと向かう。神秘の森の側ということでチナの入り口にも兵士が立っていたが、彼女の口添えにより簡単に入ることができた。馬車の御者は桜花の兵士だったので少し動揺していたが、それ以上踏み込んでくることはなかった。

 俺達はそのまま、冒険者ギルドの方へと向かう。小さなギルドの中へとサラが踏み込み、俺達がそれに続く。ここも、とても懐かしい。特に戦争の際はチナの中まで入ることができなかったので、少し変わっている点が気になってしまう。


「どうしたの?」


 サラの疑問に、俺は丁寧に答えていく。あまり詳細を公にするのは危険なのだが、彼女ならば信用できる。流石に、他の者へと情報を漏らすことはないだろう。

 彼女と別れて以降の話を伝えていく。彼女の知り得るフスト王国の情報を合わせることで、互いの時系列も細かく把握していった。

 俺達がウェンデルト王国へ行っている間にも、フスト王国でも色々な問題が起きている。桜花の船来訪やウェンデルト王国の戦争以外にも、沢山あったようだ。

 細かい問題は、主に国王による横暴が原因らしい。だが話を聞いていく内に、勇者が原因のものも沢山あることが分かった。恐らく勇者のことを庇って、国王が表に出て来ていたのだろう。


「なるほど。ウェンデルト王国へと帰る途中だったのね」


 どうやら、彼女は俺がチナからウェンデルト王国へと向かったことを知っていたようだ。チナの受付嬢である、セラさんから聞いていたらしい。

 彼女は置手紙を書いていなくなったが、本当に王都へと向かっていたようだ。そこで、依頼を終えて帰って来ていたサラと出会ったらしい。互いに俺のことを知っていたため、仲良くなったようだ。しかし、セラさんはもういないという。

 彼女は神殿跡地での勇者の横暴を王様に知らせ、城下町でもそれを広めようとしていたらしい。だが王に察知された彼女は捕まり、罪人として処刑されてしまったようだ。

 城下町の住人は王の庇護下に在り、勇者も流石に悪行を行っていなかったらしい。そのため、彼女の話は虚言として受け取られたという。

 城下町の住人に虚言を吐いて王に処刑されたと思われ、悲しい死を迎えた。しかし、彼女は最後まで勇者の話を皆へ伝えようとしていたという。

 勇者や王が俺にしたことを知っているダウさんやテスラ達が少し信じていたようだが、それでも多勢に無勢。彼等は何も言わなかったらしい。


「なんて奴だ!」


 俺が何も言わない代わりに、カリアが怒りを露わにする。俺が怒っていな訳がない。だが、勇者は死んだ。王を殺す訳にもいかないので、どうしようもないのだ。俺がここで叫んだからといって、彼女が生き返る訳でもない。

 サラもそれ以降、勇者が悪事を働いた証拠を集めるために動いていたようだ。だが、相手は一国の王である。悪事の話は沢山出て来たらしいのだが、何一つ証拠が得られなかったらしい。

 証拠がなければ、セラさんと同じように虚言として処理されてしまう可能性がある。結局何もできないまま、ウェンデルト王国との戦争になってしまったようだ。

 と言っても、俺達と戦うつもりで出て来た訳ではなかったらしい。そもそもウェンデルト王国に向かったからといって、俺達が戦場にいるとは思わないだろう。

 やけにあっさりと軍を退いたと思っていたが、彼女の意思だったようだ。サラの足止めしていたのは、Aランク冒険者のベラルである。彼の腕は確かで、本気で攻め切れていなかったのだろう。だが、彼は魔力の消耗を気にせずに足止めしていた。いや、そうしなければ止められなかったのだ。

 俺が勇者を倒した頃には、ベラルは殆どの魔力を使い切っていた。サラならば、退かずに反撃することもできたはず。能力の相性を考えると、彼女にはそれだけの力があった。

 彼女が本気で殺し合いを考えていたら、あの戦争は負けていたかもしれない。まさか王都での彼女との出会いが、ここまで影響するとは思わなかった。

サラと俺の仲間が自己紹介を交わす。戦場で出会ったが、互いに話すのは初めてだ。特に彼女は、フスト王国に住んでいた。そのため、俺の仲間に亜人が多いことに驚いているようだった。

 王都は亜人差別が少なかったとはいえ、決してなかった訳ではない。その中で必死に生きてきた彼女にとっては、ウェンデルト王国の話はとても新鮮なものに聞こえたようだ。


「この国は、殆ど終わったようなもの。勇者がいなくなった今、王が住民を蔑ろにした独裁政治を敷いているの」


 どうやら自分を守る勇者という存在を失ったことにより、自己防衛のために暴走を始めたらしい。元々軍事国家であったが、今では住民を強制的に兵士に育てたりしているそうだ。

 兵士に育てるということは、戦える存在を増やすということである。それは自分の首を絞めることにも繋がるだろう。クーデター等が起きた場合、自分が兵士に育てた者達が襲ってくるということなのだから。

 このまま行けば、時期にこの国の王は打ち取られるだろう。まあ自業自得なので、俺には一切関係ないことなのだが。


「私も今、準備を進めているところよ」


 その内ではなく、すでにクーデターは予定されてるようだ。フスト王国は桜花やウェンデルト王国との戦争で、腕の立つ者を多数失っている。サラも参加するのであれば、成功率はかなり上がるはずだ。


「それじゃあね」


 彼女が冒険者ギルドを出て行く。わざわざギルドの一室まで連れて来たのは、クーデターの話をするためだったようだ。

 チナは神殿跡地の件で、かなり勇者と王に迷惑を掛けられている。セラさんのことも含め、職員全員がクーデターに賛成の者達なのだろう。

 ここから神秘の森までは遠くない。明日の朝にこの町を出たとしても、次の日までにソルトへ辿り着くことができるだろう。今日はこの町の宿で一泊することにした。


 それから二日が経った。俺達は現在、ソルトに偶然来ていた馬車に乗っていた。この馬車はユーリアが目的地だったのだが、俺の名前を聞くと王都まで送ってくれると言ってくれたのだ。そのため、有難く送ってもらうことにした。

 馬車の持ち主はハルン商会の主だ。ハルン商会はバームント商会の下に名を連ねる商会である。俺達の知らない間に、俺達はバームント商会のお得意様のような存在になっていたようだ。

 商会の主はユーリアに着くと、自分の商会へと向かった。彼は元々用事があったからソルトへ寄ったのだ。ユーリアへ戻った後は、当分自分の商会で仕事をする。その間だけ馬車を使わせてもらえるということだ。


「逃げろ!!」

「走れ!」


 ユーリアから王都へ向かう途中、側にある森から緊迫した叫びが聞こえて来た。それに合わせるように、男が三人森から飛び出してくる。


「ひぃ…ひぃぃぃい」


 一人は声にならない叫びを上げている。体力がないようで、走っている足はよろよろとしていた。


「シギャャァァ」


 その男達を追いかけるように、魔物が一体森から飛び出してきた。見たことのない魔物だ。蛇のようだが翼があり、地面を滑るように低空飛行している。大きさもかなりあり、子供なら簡単に丸呑みされそうだ。さらに尻尾の先は尖っており、針のようなものが付いている。


「やめてくれ!!」


 男へ噛み付こうとした魔物を結界で食い止める。


「シャャア!!」


 怒った蛇が、今度は尻尾で薙ぎ払おうとする。


「はぁっ!」

「シィィィィィ」


 その尻尾をカトレアがメイスで潰す。蛇は叫びを上げ、カトレアの方を見た。


「よそ見するなよ」

「遅いですよ」


 馬車を飛び出して回り込んでいたサーシャ達が、左右から蛇を斬り付ける。

 結界に牙を立てていた蛇の頭部が、地面にどさりと落ちた。さらに、尻尾についていた針も切り離されている。


「これは危険ですね」


 地面に落ちた針からどろりとした液体が漏れ、生えていた草が変色して溶けていく。明らかに危険な猛毒だ。

 針は尻尾を押さえているカトレアを狙っていた。フランが切り落とさなければ、俺が結界で防いでいただろう。


「有難う」


 男達が地面に座り込み、俺達へ礼を言う。王都の冒険者ギルドでも聞いたことのない魔物だった。もしかすると、俺達のいない間にウェンデルト王国で問題が起きているのかもしれない。

 面倒ごとの気配を感じながら、馬車を王都へ急がせた。

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