第六十八話 結界術師、防衛する
第四章 桜花
第六十八話 結界術師、防衛する
俺の決意を汲み取ったのか、彼は俺へ向けていた視線を少し柔らかくする。
「お前に何があったのかは分からないが、俺だって仲間を失っている。デルダの首はそう簡単には渡さんぞ」
「こっちだって負けない。俺の名はクロウだ」
「そうか。俺は雅だ」
雅…妙な名前だ。フスト王国でもウェンデルト王国でも、似たような名前を聞いたことがない。
「俺の名前が珍しいのか?」
どうやら、顔に出てしまっていたようだ。
「桜花ではこれが普通なんだよ。寧ろ、俺達からすればお前達の名前の方が珍しい」
成程。桜花はフスト王国とウェンデルト王国のように、地続きという訳ではない。彼等には独自の文化というものがあるのだろう。その発展上で、黒い筒等の武器を生み出したということだ。
改めて彼等を見ると、髪色に目がいく。全員が黒髪だった。フスト王国とウェンデルト王国の両方を見てきたが、一度も見たことがない気がする。
フラン達が名前を名乗っていく。
「サーシャです」
サーシャが名乗ったところで、後はミリアだけとなった。しかし、彼女がサーシャの鞄から出てくることはなかった。
「それではよろしく頼むぞ」
結局、ミリアは名乗らずに解散となった。彼女はナディス村に着いてから、一度も外で顔を見せていない。勿論俺達だけしかいない場合は出てくるが、基本的に鞄の中に隠れているのだ。
原因は大方想像が付く。出てくると、珍しいからと注目を浴びるからだろう。彼女はそれで、何度も人に囲まれているのだ。話すのが苦手な彼女には、どうやらそれが辛いらしい。
雅は何も言わなかったが、鞄の方にも視線を送っていた。ミリアに気付いていたのか、はたまた精霊の魔力に気付いていたのか…。
どちらにしろ、なかなかに感覚が優れている。
俺達は旧王都から西へ向かうこととなった。桜花が管理している土地と魔王領の境に、彼等は小さな集落を築いているようだ。そこを拠点にして、防衛を試みているらしい。
つまり、その集落には戦える者が沢山いるということだ。元フスト王国の者で応援に向かっている者は、俺達を除くと二人しかいないようらしい。どちらもDランク冒険者だという。Cランク以上の者がいなかったようで、仕方なくDランク冒険者に依頼したと言っていた。
しかし、思うように人数が集まらなかったようだ。それはそうだろう。相手は魔王領から攻めてくる魔物なのだ。それに、魔王軍四天王もいる。そこらの魔物退治とは訳が違う。Cランク冒険者ですら、隙を見せると簡単に命を失いかねない。
雅はまだやることが残っていると言って、旧王都に残っていた。彼がフェスティナ大陸へ来た桜花の船で、一番偉い存在だったようだ。防衛に集中するには、雑務等を済ませなければいけないらしい。
「わわっ! 難しいです!」
「俺も馬を操縦したのは初めてだ」
旧王都で馬を貸してもらったので、俺達は馬で集落まで向かっていた。フラン達は少し経験があるらしく、初めてなのは俺とサーシャだけだった。サーシャはカリアと二人で馬に乗り、教えてもらいながらサーシャが手綱を握っている。
俺は一人で四苦八苦しながら乗っていた。旧王都に残っていた馬のようで、馬達はしっかりと調教されていた。
暴れもせず、慣れるとしっかりと思う通りに進んでくれる。
「これならすぐに着くな」
流石は軍用馬である。馬車とは違い、かなりの速度が出ていた。さらに、人間一人しか騎乗していないのだ。馬に対する負荷も、それほどかからない。
集落が見えてくると、やはりフェスティナ大陸の町とは様子が違う。フェスティナ大陸の建築は石等で築いているが、桜花は木で建築しているようだ。全てが木でできているため、火を放たれたらかなり弱そうである。
「そこで止まれ!」
近付くと兵士二人がこちらへと武器を構え、ゆっくりと近付いてきた。魔王軍の侵略に備えている集落である。そのため、彼等はかなり厳重な警戒をしていた。
近付いてきたのは二人だが、集落の中からも黒い筒を構えた兵士が顔を出している。明らかに俺達は人間なのだが、何故こうも警戒されなければいけないのか…。
相手はかなり緊張しているように見える。下手なことを言えば、すぐにでも攻撃してきそうな雰囲気があった。
「ここの手伝いに来た」
そう言って、一枚の紙を兵士の一人に渡す。この紙は、旧王都を出る前に雅から受け取ったものだ。俺は中身を見ていないが、これを渡せば問題ないと言われた。
「ふむ…。どうやら本当のようだな。申し訳ない」
謝罪を述べながら、彼が頭を下げる。同時に、隣にいる兵士や集落にいる者までが頭を下げた。そうして、集落の中へと案内される。
俺達が案内されたのは、集落の中でも一番大きな建物だった。俺達が入ると、中では会議が行われていた。
俺達が集落へ来たことで、会議が中断されていたようだ。内容は人数の減少による、戦力の減少という内容である。デルダと雅が戦った対戦が大きなもので、元々少ない人数をかなり減らしてしまったようだ。
少数精鋭の部隊は小回りが利いてかなり強力だが、人数が欠けると一気に戦力が減少するという欠点がある。デルダのような強敵が出て来た際には、各個撃破をされると脆い。
「雅隊長が戻って来た時には、すぐに攻撃できる準備をしておかなければならないだろう!」
「しかし、防衛だけで手一杯だ。準備等している暇はないだろう」
主に話しているのは二人だ。
一人は妙な形の剣を背中に背負っている女性だ。かなり身軽そうな服装をしており、剣も他の者より少し短い。髪も短く纏めており、明らかに機動を重視した格好であった。
もう一人は、背中に大きな黒い筒を背負った男性である。彼の背負っている黒い筒は、明らかに他の者が持っているものとは違う。黒い筒は鉄の塊が出る部分がかなり大きく、攻撃に特化したもののように見える。
黒い筒は攻撃する際に反動があるが、彼の持つ筒はかなり反動が大きそうだ。その反動に耐えれるためにか、彼の体はとても大きい。筋肉だけでなく、体格から優れているのだ。
この二人はかなり対照的に見える。一方は身軽そうな服装で小柄な機動を重視した女性、もう一方はしっかりとした鎧を着た攻撃を重視した男性だ。考え方も同様に、対照的である。
どうやら雅がいない今、この二人が先頭に立っているらしい。
その二人の考え方が対立しているため、周囲の者達も困惑しているようだ。どちらも一歩も譲らないようで、彼等が疲れて会議を終えても決まることはなかった。
「あの二人は、どちらも副隊長の座を狙っているのですよ」
会議に参加していた兵士に詳細を尋ねる。どうやら、二人は副隊長に信頼されていた者達だったようだ。副隊長はデルダとの戦いで、隊長の雅が来るまでの時間稼ぎをしていたらしい。仲間を守るために、一人で時間稼ぎをして亡くなってしまったようだ。
互いに副隊長を尊敬していたため、副隊長の座を譲りたくないのだろう。この様子では、雅が来るまで毎日決まらない会議をしていそうだ。
質問をした兵士に、俺達が泊まる家まで案内してもらう。この集落にはかなり空き家があり、何処でもいいと言われた。
手伝いの冒険者等のために建築してあるのかとも思ったが、中には生活していたような跡が残っていた。
全てではないだろうが、殆どの空き家は亡くなった兵士が住んでいたものだろう。
村とも呼べないほど少ない人口だが、雅の話ではこれでもできるだけ人数を割いているようだ。デルダが出て来たのは最近の話らしい。集落の防衛に何度も成功していたということは、それだけ魔王軍を退けていたということだ。
彼等が精鋭部隊と感じたため、四天王がわざわざ出て来たのだろう。副隊長はデルダ相手に時間稼ぎができるほどの実力者である。勇者が一撃でやられたことを考えると、副隊長もAランク冒険者レベルの実力を持っていたに違いない。
割り当てられたのは空き家は二つだった。男女別々で空き家に泊まることとなる。翌日から、俺達は魔王軍が攻めてくるまで何もすることがない。
勝手に魔王軍へ攻めてもいいが、魔王領は魔王軍の巣窟だ。下手に攻め込んで幹部や四天王に囲まれては、逃げることもできないだろう。
フランと話し、翌日は魔王領の近くまで行くことに決めた。




