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第五十二話 結界術師、勇者と再会する

                           第三章 歪んだ国

                     第五十二話 結界術師、勇者と再会する



 夜の内に部隊を分け、それぞれに決まった位置へつく。俺達の姿を見たフスト王国の軍は、想定通り俺達と同じように三部隊に分かれた。彼等は三部隊を殆ど同数の兵数で分けている。俺達が少数だけで森の側に待機しているため、森の中にどれだけの人数がいるのかがわからないからだ。

 森の先はチナの町まで平地のため、斥候や奇襲が来ても簡単に見つけることができるだろう。俺達が森の外に待機しているのも警戒していると思わせられるので、フスト王国は斥候や奇襲を行い難いはずだ。

 チナの前に兵士や冒険者がさらに増えていく。後から来た者達は全て中央の部隊に参加するようだ。彼等の扱いが雑なのは、有益な戦力としてあまり見ていないからだろう。遅れて来るような者は、集団戦闘でも足手まといになる可能性が高いからだ。


「多いな」

「そうですね」


 俺の言葉に、隣で敵の確認をしていたフランが答える。軍が七千近い数になり始めていた。最初に分かれた際は四千程だったので、他の部隊は四千程だろう。

 三部隊はそれぞれ中央、東西に分かれている。俺達がいるのは中央だ。兵の数で圧倒的に不利なため、数はかなり無理な調整をした。


「本当に大丈夫なのか?」

「数の差が圧倒的だな」


 後ろで冒険者達が囁き合っている。俺達の部隊は俺とフラン、カトレアと冒険者十五人で構成されていた。冒険者の内、十二名は魔法使いだ。彼等には、後方から砲撃役として役に立ってもらおうと思っている。他の三名は、Aランク一人とBランク二人だ。少数精鋭となっている。

 Aランク冒険者は百発百中と言われている、ベラル・シークランドという男だ。彼の職業は狩人の上級職であるスナイパーで、大弓を背に担いでいる。

 彼の噂は色々あるが、百発百中と言われている通り、一度も矢を外したことがないという。攻撃できる距離も相当あり、全て遠距離から討伐を行っているそうだ。外さないのに弓を射る速度もかなり早い。彼には最初の攻撃と、隙を狙った一撃を頼んである。

 残りのBランク二人は、共に呪言師と言われる上級職だ。呪言師は敵の弱体化や状態異常等の、妨害魔法を得意とした職業である。フェアリーとは違って一つの能力に特化してはいないので、一つ一つの効き目は劣る。だが、妨害目的ならば問題はないだろう。

 俺達の構成は後衛部隊が襲われると不味いので、近付く者達の妨害に努めてもらうこととなった。はっきり言って、彼等の活躍が最も重要だ。流石にこれだけの差を覆すためには、一人も欠ける訳にはいかない。

 前衛は俺以外に、フランとカトレアにも担ってもらう。彼の戦い方ならば、数の差をものともせずに戦うことができるだろう。

 俺は二人が囲まれないようにサポートする役目だ。結界を張って、後ろに敵を行かせないようにするのも俺の役目である。そのため、あまりどちらかというとサポートに集中するつもりだ。

 カトレアは、攻撃役よりもフランのサポートが主な役割である。いくら彼でもこの数相手に無傷で戦うことはできないので、傷や体力の回復をしてもらう。また彼女の馬鹿力は、囲まれた時等の突破力にもなることができる。

 前衛で重要な役割を担っているのは、やはり俺であろう。敵を後ろに漏らさず、前衛の二人を守り続けなければならない。だが、俺は結界術師だ。仲間を守ることが一番の仕事なので、やるしかない。カイとイラの時のような失敗をするのはもう御免だ。

 二人は俺のことを信じてくれている。いくら戦闘狂の二人でも、流石にこれだけの差を覆せるわけがないのだ。雑魚ばかりではないし、彼等にも体力というものがある。俺のサポートがあって、初めて成り立つ作戦なのだ。


 東の部隊にはミリアとカリアに行ってもらった。彼女達の部隊はエルフと妖精の混合部隊である。妖精を主体として、認識阻害の魔法を使ってもらうつもりだ。広範囲に認識阻害魔法を使うことによって、人数差を埋める作戦である。

 エルフの中でも弓が得意な者には、攻撃役に回ってもらう予定だ。弓の部隊を率いるのは、エルフの里で一番の弓使いであるササリアだ。彼女率いる弓部隊が、敵の数を減らす役割を担う。

 妨害魔法に対する耐性を持った防具を着けている者もいるだろうが、その者達はカリアに任せてある。耐性持ちの防具は貴重で、持っている人数があまり多くないはずなので、カリアに任せておけば大丈夫だろう。弓部隊が牽制をすることもできるので、想定以上の数がいても対応できるはずだ。


 西には残りの冒険者と兵士を集めている。こちらは人数に対して人数で戦う作戦だ。相手が四千人程度に対して、こちらは七千人近くの兵士がいる。冒険者も百人近くいるので、こちらが有利といってもいいだろう。

 こちらの指揮は兵士長が務めている。大規模な軍となっているが、彼にならば率いることができるだろう。兵士と冒険者達は一緒に戦ったことがないため、連携を取ることが難しい。そのため、冒険者達は遊撃部隊として動くこととなる。

 人数で圧倒的に勝っているため、兵士達が軍の主軸を務める。冒険者達をどう動かすかは、兵士長が決めることだ。互いが上手く戦えるか邪魔をするかは、彼の采配に委ねられている。会議で彼を見ていた限りでは、その辺りは心配いらないと思っていた。


 朝日が昇る。日光が前方を照らし出しすと、隊列を整えられたフスト王国の軍が鮮明に見えた。さらに人数が増え、八千人近くの軍隊になっていた。ここに集められた魔法使いは全員Cランク以上の冒険者なのだが、流石の彼等も目の前の光景に委縮している。


「配置についてくれ」


 俺達が前に出ると、魔法使いと呪言師が背後に控えるように立つ。さらに、スナイパーであるベラルが神秘の森へと入って行った。彼は神秘の森から、遠距離狙撃を行う。平地では姿を隠せる場所がないため、木々に身を隠せる森という場所を選んだのだ。

 森から戦地までは三キロ近くの距離が離れている。そこから敵を狙うというのも凄いが、一番凄いのは三キロ先まで弓で矢を飛ばせるところだろう。普通はそれほど飛ばせるものではない。

 フスト王国の軍は未だに動いてないが、互いに見合っているだけで両者間に緊張感が高まっていく。どれほどの時間が経っただろうか…。

 フスト王国側から、太鼓の音が聞こえてくる。その音と共に、軍が動き始めた。彼等は一直線にこちらへ向かってくると思ったが、途中で進軍を止めた。そのまま、前方の兵士達だけが大きく左右に開けていく。

 軍の中央辺りから魔力の高鳴りを感じる。大きな魔法陣が浮かび上がり、魔法が少しずつ組み上がっていく。発動しようとしているのは、かなり大規模な魔法だ。


「超級魔法だと!!」

「これほどの魔法を使える者がいるとは…」

「いや、これは協力魔法では…」


 後ろにいる魔法使い達が、前方の魔法を見て騒ぎ始める。協力魔法というのは、文字通り数人で協力して作り上げる魔法だ。この魔法は古の魔法と言われている。他人の魔力を借りて一人が魔法を作り上げるため、魔力のコントロールが秀でていないと使えないのだ。

 他人の魔力をコントロールするのはとても難しく、今まで使える者はいなかった。さらに強力な魔法を使う場合、そちらの制御にも気を配らなければならない。そのため強力な魔法になるほど、難しくなるのだ。

 協力魔法で超級魔法を使うのは、相当魔法に秀でた者でなければ行うことができない。

 巨大な炎の蛇が、魔法陣から飛び出す。どうやら魔法が完成したようだ。


獄炎の蛇ヘルファイア・スネークだと!!」

「皆! 逃げろ!!」

「間に合う訳がないだろ!」


 後ろが阿鼻叫喚と化す。仕方がないだろう。超級魔法など、人間が使用できる魔法ではないと思われていたのだから。

 俺が前に出る。双子はそっと俺を見て、任せるといったような表情を浮かべた。二人は、目の前に迫る炎の大蛇を全く恐れている様子はない。それだけ俺を信用してくれているのだろう。

 俺は範囲を少し大きめに結界を張る。蛇行しながら俺達へと向かってくる大蛇は、かなりの速度で迫って来ていた。円錐状の結界に大蛇の牙が突き刺さる。結界の形は炎を受け流し、拡散させるようになっていた。

 だが、地獄の業火は結界を溶かすほどの熱量を持っているようだ。エネルギーを受け流しきれず、先端から結界が溶けていく。


「流石に超級魔法は格が違うな」


 溶ける結界の手前に、同じ結界を張り直す。溶かす速度は速く、次の結界に大蛇が牙を伸ばした。次の結界が破られそうになると、再び俺は結界を張る。二枚目の結界を溶かした頃には、勢いが弱まって来ていた。

 三枚目の結界を破る速度は遅く、大蛇も小さくなってきている。あともう少しだ。

 四枚目の結界は、大きさを小さくして結界の質を上げる。


「ようやく止まったか…」

「あれを止めただと!」

「冗談だろ!!」

「やったぜ!!!」


 四枚目の結界は突破できず、炎の大蛇が霧散する。再び後ろが騒がしくなった。しかし先ほどの悲鳴とは違い、今度は希望に満ちた喜びの声だ。今ので士気が上がったのなら、ある意味ではよかったのかもしれない。


「!!!」

「!!」

「!?!?」


 超級魔法が止められたのを見て、フスト王国の軍も騒がしくなった。そこから人間が三人前へと出てきた。想定外のことが起きて、様子を見に来たのだろう。

 三人は勇者のミカエルと賢者のフレア、強化術師エンチャンターのヨゼフだった。先ほどの超級魔法はフレアが使用したのだろう。賢者である彼女ならば、高難度の魔法を使用したとしても納得できる。

 俺達と勇者達の視線が交錯する。この戦いは、彼等が一番厄介な存在となるだろう。俺はそう確信し、彼等の動向に注目した。

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