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第五十三話 結界術師、勇者と戦う

                            第三章 歪んだ国

                        第五十三話 結界術師、勇者と戦う



 結界で超級魔法を止めたのを見たフスト王国の軍が、動揺を浮かべている。その隙を見逃さず、俺達の後方にいた魔法使いが杖を構えた。


「風の刃(ウィンド・エッジ)」

「氷の棘(アイスニードル)!」

「炎爆《フレアボム》!!」


 動揺で動きを止めた軍に、後方から魔法が飛んで行く。


「魔力の盾(マジックシールド)」


 勇者のパーティー、賢者のフレアが魔法の盾を展開する。攻撃魔法を防げないフスト王国の軍が慌てて背を向けながら逃げる中、彼女はよく魔力の盾の展開を間に合わせられたと思う。流石は勇者パーティーにいるだけのことはある。

 だが魔法と共に、三本の矢が勇者パーティーへと飛んでいた。Aランク冒険者のベラルが遠距離から放ったものだ。


「なっ!?」

「危ねぇ!!」

「!?」


 魔法の影に隠れて高速で飛来した矢を、勇者だけは反応できたようだ。咄嗟に横へと飛んで躱す。

 矢は神秘の森から放たれているのだが、三本もの矢を上手く魔法に隠すように操っている。それだけでも相当な技術だが、矢自体もかなりの速度があった。それこそ、勇者ですら避けるのがギリギリなほどなのだ。

 魔術師系の二人は、反応すらできなかった。流石は百発百中と言われているだけのことはある。


「がっ!!」

「ひっ!?」

「あれは…」


 強化術師《エンチャンター》のヨセフの前に、赤い影が通り過ぎる。フレアの額に矢が突き刺さっているが、ヨセフは無傷だった。

 フレアの体に光が降り注ぐ。回復魔法の光だ。だが、彼女が起き上がることはない。額を撃ち抜かれているのだ。即死だったのだろう。死んでしまった者に回復魔法を使っても、生き返ることはない。

 蘇生魔法は古の時代から研究されているが、成功したという例は残されていないのだ。現代でも研究はされているが、今でも蘇生魔法は開発されていない。

 ヨセフの前を通り過ぎた影はその手に矢を持っていた。ベラルが放った矢だろう。燃えるような赤髪が戦場で靡く。

 砂蜥蜴族《サンドリザードマン》のサラだ。彼女とはフスト王国の王都で出会って以来である。勇者ですら躱すのがやっとだった矢を、彼女はヨセフの前まで移動して矢を掴む余裕があった。ベラルは三人同時に狙っていたとはいえ、こうもあっさりと止められるとは思わなかった。

 彼女もベラルと同様にAランク冒険者だが、速度重視の戦闘をする彼女とは相性が悪いようだ。俺が彼女の戦闘を始めて見た時は、一切姿を捉えることができなかった。

 俺も成長しているようで、今回は捉えることができたが、その攻撃に体が反応できるかは別の問題だろう。空間認識を使っても、彼女の攻撃に対処できるか自信がない。

 色々な魔法を使いこなすフレアも面倒だが、できればヨセフを先に殺しておきたかった。集団戦においてはフレアの範囲攻撃の方が厄介だが、こちらは少数精鋭だ。そのため、強化術師である彼の方が脅威となる。

 彼の強化魔法は強力な上に、強化できる人数もかなり多い。Dランクレベルの冒険者だったとしても、彼の強化魔法を受けるだけでCランクレベルの強さになる。つまり敵が雑魚冒険者集団のだとしても、ベテラン冒険者集団へと早変わりする訳だ。

 人数の差というハンデを負っている状況で、さらに敵が強化されるのはかなり不味い。



「…」


 彼女の視線が俺を捉える。何か言っているようだが、この距離では何も聞こえない。

 サラが視界から消えるような速度で、こちらへと駆けて来る。それと同時に俺の後ろ、神秘の森から上空へと矢が昇っていく。その数はかなりのもので、矢が俺達の頭上を埋め尽くす。軽く見ただけでも、千近くはあるだろう。

 その内の一本が、俺の近くへと落ちる。それはちょうど、彼女の進行方向だった。咄嗟に迂回しようとする彼女だが、次の矢がそこへ落ちて来る。さらに、神秘の森からも真っ直ぐ矢が飛んできた。直接ベラルが狙っているようだ。

 流石の彼女も後ろにしか回避できなかったようで、俺達との距離が開く。


「危ないわね」


 次々と飛んでくる矢を回避しながら、彼女はこちらへ近付こうとしていた。それを許さないように、彼も矢で牽制していく。少しずつ彼女が後退していった。


「流石Aランク冒険者ですね。いえ…Sランクと言ってもいいのでは?」


 フランが彼の超絶技巧を見て、凄く嬉しそうな表情を浮かべる。まるでいつまでも見ていたいというように、フランはサラの姿を目で追っていた。


「こちらも行くぞ」


 現在ベラルは千本もの矢を操りながら、さらに牽制で直接矢を彼女に向かって撃っているのだ。それだけやって、ようやく彼女を後退させることができている。それだけ彼女との相性が悪いということだ。彼の時間稼ぎは、それほど長くは続かないだろう。

 魔力の消耗がとても速いはずなので、俺達は彼の魔力が切れる前に他の者達の対処をしておかなければならない。

 俺達はフスト王国の軍へと駆ける。さらに、後ろからは魔法使い達の魔法が飛んでいく。


「全軍、突撃!」


 勇者の号令で、ようやく冒険者や兵士達が動き始める。すでにフレアの魔力の盾が消えているので、魔法に撃たれた一部の兵士が倒れていく。だが数に物を言わせた彼等は、一切速度を緩めるとはない。


「はは…これだけ数がいると、なかなか勇壮な景色ですね」


 相変わらず、フランは少し頭がおかしい。これだけの軍を見て、まさか笑っていられるとは思わなかった。


「素晴らしいわね! フランの援護をしながらでも、十分楽しめそう!!」


 流石は双子…。もう一人、頭がおかしい人間がいたようだ。


「それでは…参ります」


 フランが二本の剣を抜き、フスト軍の内側へと切り込む。俺が結界を張って囲まれ難くしているが、それでもこの数だと一度にかなりの数を相手にすることとなる。次々と迫って来る攻撃を回避や受け流しをしながら、さらに暴れ始めた。回転速度を上げながら、周囲の者達を切り捨てていく。

 彼の戦闘方法だと、やはり内側から切り崩すのが最適のようだ。時々剣が掠ったりして切り傷を増やしていくが、ある程度でカトレアから回復魔法が飛ぶ。

 彼の傷を回復しながら、彼女もその馬鹿力を生かして前方の兵士を薙ぎ倒していく。吹き飛んだ兵士が後ろの者達も巻き込むので、敵の動きが少しずつ衰えていく。

 フランが内側へと切り込んでいるため、足を止めない兵士はこちらへと向かってくる。それを足を止めて戦うスタイルのカトレアが、次々と薙ぎ倒しているといった感じだ。

 俺も結界を張り、軍の進軍を妨害していく。


「やはり数が多いわね」


 数が多すぎて、どうしても俺にまで到達する者達もいる。それは俺が剣で斬り伏せていった。

 俺より後ろに行かす訳にはいかない。


「進め!」

「撃て!!」


 無理矢理兵士が後ろへ抜けようと向かって来るが、俺の合図で範囲魔法が降り注いだ。俺ごと巻き込んだ魔法により、周囲にいた兵士が全て地に伏せた。俺は魔法が来ることを知っていたので、自分の周囲に結界を張っておいたのだ。


「くそっ! どうすればいい…」


 俺ごと巻き込んだ魔法を見て、軍の動きが止まる。どれだけの数で迫って来ても、範囲魔法は防ぐことができない。それどころか固まっていることによって、被害がかなり増える。中にはCランクやBランクの冒険者もいるのだろうが、一斉に放たれた範囲魔法の前に倒れていた。

 周囲に兵士達がいることによって、回避もまともにできないのだ。いつの間にか、フランの速度が最高速に達していた。兵士も冒険者も一切気にせず、全ての者を切り伏せている。

 流石に不味いと感じたのか、彼を止めようと強そうな冒険者が出て来る。だが、兵士と冒険者の連携が全く取れていない。お互いが邪魔しあった結果、全ての力を出し切れずに倒れていく。


「俺も出る」


 勇者が前に出て来たのを見て、俺が前へと出る。彼が相手だと、流石にフランでも止められてしまうだろう。ここで彼を止められる訳にはいかない。

 勇者には個人的な因縁もある。戦争が始まる前に、勇者がいたら俺が戦うと言ってあった。勿論、兵士の進軍を邪魔する結界は維持してある。


「何者だ! そこをどけ!!」


 勇者が剣を抜き、袈裟懸けに剣を振るう。俺はそれに合わせて、結界を纏わせた剣で応戦する。どうやら勇者は、俺のことを覚えていないようだ。まあ彼の中では、俺は神殿跡地で死んだことになっているのだろう。

 勇者の剣はかなり速いが、空間認識を合わせれば問題なく対処できるようだ。勇者は全ての能力を上昇させる全能力強化《オールアップ》を持っている。そのため、力もかなり強い。剣に結界を纏わせていても、しっかりと踏ん張らなければ押し負けてしまいそうだ。


「光の炎(シャイン・フレア)!!」


 勇者のみが使える魔法、光の炎が俺に迫る。白い炎が結界を歪ませる。何とか持ちこたえたが、結界が破壊されそうになっていた。彼は剣だけではなく、魔法もかなりの威力だ。全ての能力が平均的な勇者だからこそ、できる芸当だろう。


「俺の光の炎まで防ぐか…」


 俺を完全に危険な存在として認識したようで、すでに視界には俺しか映っていないようだ。こうして、勇者と俺の因縁の対決が幕を開けた。

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