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第四十五話 結界術師、久しぶりのフスト王国

                           第三章 歪んだ国

                   第四十五話 結界術師、久しぶりのフスト王国



 馬車に乗り込み、神秘の森へと向かう。思っていたより酒が好きだったようで、フランは二日酔いでぐったりとしていた。

 サーシャは酒の席に参加していなかったため、とても元気そうだ。カリアとカトレアは俺が起きた際、見ていられない程血塗れだった。昨晩、相当本気で殴り合っていたらしい。

 その状態でも、凄く晴れ晴れしい表情をしていた。周囲は引いていたが、本人達はとても満足していたようだ。現在はカトレアの回復魔法で、何の傷も残っていない。ミリアは双子にようやく慣れたのか、鞄から出て馬車の上で空を眺めている。


「二日酔いに馬車は辛いのですが…」


 額に手を当てながら、フランが呟く。だが自業自得なので、誰も相手にすることはない。二日酔いは解けないが、頭痛の痛みを和らげることならば回復魔法でできるはずだ。


「そろそろ神秘の森だな」


 遠くにはすでに広大な森が見えている。そこが神秘の森の入り口だ。神秘の森を真っすぐ抜けるならば、半日で辿り着くことができるだろう。そのため、エルフの里へ行かずにフスト王国へ抜けようと思っている。


「着きましたよ。それではここからはお願いします」


 馬車を止めた兵士が、お辞儀をしながら言ってきた。ここからは、俺達だけで歩いて森を抜けることになる。森は強力な魔物が出て来ないので、ミリアの認識阻害の魔法があれば魔物と戦わずに突破することができるだろう。


「それでは行きますか」


 ようやく馬車を降りることができたフランは、とても生き生きとしていた。サーシャとカリアはとても懐かしそうにしている。特にカリアは長年エルフの里に住んでいたのだ。懐かしさも一入だろう。

 ミリアが認識阻害の魔法を発動したところで、神秘の森へと入って行く。林に村を作って住んでいた妖精のミリアは、とても興味深そうに森の中を眺めていた。林と違い、神秘の森には力が宿っていると言われている。

 実際に入れば力を感じるし、強力な魔物が出ない。例外は魔王軍の幹部、スラウが来た時だろう。奴が連れて来た魔物は、かなり強力な魔物ばかりだった。

 今ではその力の原因がわかっている。精霊の洞窟にいる、精霊の魔力が漏れ出ているのだろう。漏れている魔力だけでも強過ぎるため、感じ取ることができるのだ。


「小物しかいないわね」


 ゴブリンが数体、俺達の横を通り過ぎていく。認識阻害の魔法で、俺達のことが見えていないのだ。それを見て、カトレアが悲しそうにしていた。強大な敵を求める彼女にとっては、強力な魔物を寄せ付けない神秘の森の力は相性が悪いのだろう。


「カトレアをエルフの里に近づけると、確実に面倒なことになりそうな気がする」

「流石にそれはないだろう」

「エルフの人達は強いですよ?」

「絶対に喧嘩を売りそうだな…」

「ほう。…エルフですか」


 俺達がエルフの里に近付かないようにしようと話をしていると、近付いていたフランに聞かれてしまった。ある程度の距離を保っているつもりだったのだが、暗殺者アサシンの彼には聞こえる距離だったようだ。


「心配いりませんよ。カトレアには伝えませんから」

「一人でも行くなよ?」

「信頼がないですね…。いくら僕でも、その辺りは弁えているつもりですよ」

「本当か?」

「…悲しいですね」


 彼が明らかな嘘泣きを始める。俺もカリアも、彼のその辺りのことは一切信用していない。強敵と戦いたいがために、山賊をしていたような奴だ。信用できるはずがないだろう。


「皆で何の話をしているの?」

「…えっと」


 カトレアが話している俺達のことを目敏く見つけ、サーシャへと話しかけていた。彼女はどう話していいかわからず、返答に困っているようだ。


「フスト王国には、強い者もいるという話をしていたのですよ」

「確かに! 勇者もいるよね!!」


 彼の言葉に、嬉しそうな表情でカトレアが答える。やはり長年一緒にいる双子だけあって、彼女の扱いには慣れているようだ。

 そこにカリアも混ざって楽しそうに話し込んでいく。あの双子と一緒にいると、カリアの戦闘狂いが加速してしまいそうだ。

 彼女のストッパーであるサーシャは、勇者という名前に顔を顰めている。俺が受けた屈辱を彼女には話してあるため、それを思い出したのだろう。俺としても勇者にはあまり会いたくない。彼は平気で、仲間のことを見捨てて逃げるような男だ。戦争でも危うくなったら、卑怯なことをしてでも助かろうとするだろう。

 そもそも、勇者は実力だけで言えばとても強い。俺とカリアが苦戦しながら倒した、魔王軍の幹部を倒して回っている実績があるのだ。現在一人仲間が抜けてどうなっているのかは知らないが、俺が片田舎のナディス村にいた頃は色々な噂を聞いた。

 冒険者の最高峰と言われる、Aランク冒険者のサラもいるはずだ。彼女の実力は計り知れない。本気を出していなかったようだが、それでもあの頃の俺には何をしたかわからない程の速度だった。

 俺もあの頃よりも成長しているが、本気を出した彼女がどれほどのものかわからない。


「俺も、もっと強くならないとな」

「どうしたんだ?」


 どうやら、ポツリと呟いた独り言を聞かれたようだ。


「何でもない」

「そうか。それならば、もっと特訓に参加するといい」


 俺の言葉を、完全に把握していたらしい。それならば何故聞いたんだ、と思ってしまう。


「僕も、もっと強くなった貴方と戦いたいですね」

「私も~」

「私も強くなりたいです!!」


 サーシャも新たに気合を入れ直している。流石に彼女を戦争に連れて行く気はないのだが…。

 それを言ってしまえば、彼女は機嫌を損ねてしまうだろう。わざわざ彼女のやる気を落とす必要はない。

 エルフの里を経由していないため、今何処にいるのかはわからない。だがカリアの話によれば、そろそろ森の出口が見えてくる頃だという。


「それでは、様子を見て来ますね。静かなる足音(サイレントウォーク)隠者ハイド


 スキルで足音や気配を消したフランが、先行して出口の様子を見に行く。

 今回の依頼はフスト王国の様子を探ることだ。下手に見つかると面倒なことになるため、暗殺者の彼が様子を探るのが一番だろう。


「森に兵士がいたら、流石に面倒だな」


 ミリアの認識阻害の魔法があるので、気付かれずに森を抜けることは可能だろう。しかし魔法の感知に精通している者がいれば、警戒されることは間違いない。そうなれば、探ることは難しくなってしまうだろう。彼女の認識阻害の魔法も万能という訳ではないのだ。


「冒険者が二組いるのみですね」


 兵士はいないようだが、冒険者はいるようだ。冒険者がいる分には問題はない。彼等はチナの町の冒険者だろう。

 神殿跡地でチナの冒険者は全滅したので、今いる者達は周辺の町から来た者達だ。俺が知らない者も沢山いるだろう。


「そろそろ森を抜けるぞ」


 カリアの言葉と共に、前方に光が溢れているのが見えた。


「森を抜けた後、チナの近くまで行くぞ」


 俺とサーシャが神秘の森を抜けて、ウェンデルト王国へと向かったことを知ってる者がいるため、俺達がチナに入る訳にはいかない。

 エルフであるカリアも、他の者に見つかる訳にはいかないだろう。フスト王国はウェンデルト王国と違って、亜人差別の意識が強い。チナへ入ることができるとすれば、フランとカトレアの二人だ。


「この辺りで待機だな」

「これ以上は見つかるだろうな」


 もう少し歩いて行ったら、チナが見えてくるだろう。だが、これ以上進むのは不味い。俺がいた頃はなかったが、物見台を作っている可能性がある。その場合、こちらから見える前に向こうに見つかるだろう。


「それでは、行ってきますね」


 チナの偵察にはフランを送り出す。カトレアを送り出すのは、怖いので止めておく。ここで他の冒険者に喧嘩を売られ、問題を起こされては困る。


「久しぶりです」


 サーシャが西の方角を見て呟く。

 彼女が見ている方向には、事件が起きた神殿跡地が見える。ここは神殿跡地の近くだ。事件以降、冒険者間で立ち入り禁止となっているため、近付く者は誰もいない。そのため、隠れるには絶好の場所となっていた。

 彼女は事件があった時に町にいたが、チナの近くにあるため見たことがあるのだろう。俺は嫌な思い出がよみがえるため、極力見ないようにしていた。

 ここでフランの帰りを待つことになる。彼は戦闘狂の気があるが、冒険している内にかなり優秀な存在であると気付いた。

 彼は頭がよくて、冷静に周囲を観察することができる。さらに天職が暗殺者ということもあり、身を潜めて行動するのにも長けている。そのため、下手なことをしなければ見つかることはないだろう。

 こうして夜食の準備をしながら、俺達は彼の帰りを待った。

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