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第四十一話 結界術師、王都に滞在する

                           第三章 歪んだ国

                     第四十一話 結界術師、王都に滞在する



 ソルトで魔物の大群が発見されて以降の経緯を、王に説明をしていく。精霊のこと等詳細を話せないものもあるが、そこは省かせてもらう。王も全てを事細かく知りたい訳ではないようで、こちらが省略しているのがわかっても口を出すことはない。


「ふむ、成程な」


 全てを話し終えると、夜明け前になっていた。すでにカリアもサーシャも与えられた自室に戻っており、この場にはいない。

 子供であるサーシャを気遣って、先に退室するように促したのである。その際に、カリアもサーシャについて行ってもらった。サーシャ一人だと心配だからな。

 彼女はかなりしっかりしているが、まだ子供な所が残っている。そのため、つい子供扱いしてしまう。

 ミリアは未だにこの場へと残っていた。彼女は酒は飲まないが、他の飲み物を飲んで寛いでいる。彼女が残っている理由は、王が妖精という種族に興味を示したからだ。


「クロウよ。真に大儀であった」

「ふん。その話が全て真実ならな」

「大臣よ。よすがいい」

「はっ! 申し訳ございません」


 どうやら、大臣は俺の話を信じていないようだ。確かに、俺も話だけを聞くと荒唐無稽だと思ってしまうだろう。

 王に俺が褒められたことも快く思っていないらしい。王に言われて黙ったが、その瞳は俺のことを睨んでいた。大臣は禿げた頭に紫のローブのような服を纏った男だ。

 パッと見て大臣だとわかるような格好で、年季の入った皺だらけの顔は堅物のような印象を受ける。ミリアも特に苦手なタイプようで、一度も目を合わせようとはしない。流石に一国の大臣に失礼だとは思ったが、

 そもそも彼女は人間ではなく妖精なのだ。エルフであるカリアと同様に、人間の国等には興味を持っていない可能性もある。妖精はあの林で独自に生活し、人間と共存していない種族なのだ。王を他の人間と同格として扱ったとしても仕方がないだろう。


「今日はもう遅い。部屋でゆっくり休むがよい」

「それでは」


 俺が部屋を出ると、兵士がすでに待機していた。その兵士の案内で、俺は用意されていた部屋へと向かう。すでに夜明け前だ。今から寝たとしても、長く眠ることはできない。それでも休息は必要だろう。


「流石に眠い」


 ベッドに潜るとすぐに眠気が襲ってくる。王城にあるベッドはフカフカでとても気持ちよく、それも相まって俺はすぐに眠りに落ちた。


 目を覚ましたのは昼前だった。よく眠れたので、眠気や疲労感は残っていない。カリア達はすでに起きているようで、城の外へと先に出かけている。カトレア達と戦った際に刺激を受けたようで、特訓でもしているのだろう。

 ミリアも俺と同じ時間に部屋へと戻ったはずなのだが、彼女はカリア達について行ったようだ。

 城の食堂へ行き、遅めの朝食を食べる。俺達が泊まるということで、王からすでに食堂の使用許可は得ている。


「ふぅ…」


 溜息を吐き目頭を指で押さえた王が、疲れた顔をして食堂へ入ってきた。後ろに兵士を二人引き連れているが、大臣は一緒にいないようだ。


「クロウか。おはよう」

「おはようございます」

「王。お疲れのようですので、一度休んでは?」

「今私が休む訳にはいくまい」


 兵士の言葉に、王は首を横に振る。やはり上の役職を持つと大変なようだ。


「ですが、フスト王国が攻めてくると決まった訳では…」

「!?」


 今、フスト王国が攻めてくると聞こえた。それが本当ならば、この大陸で本格的な戦争が始まるだろう。二大国の争いだ。特に境にある神秘の森周辺の町は被害が大きくなるだろう。このままではエルフの里にも大きな被害が出てしまう。

 ただ、フスト王国が何の理由もなく攻めて来るとは思えない。近くには魔王の持つ領土があるのだ。戦争などしていては、その間に魔物達に侵略されてしまうだろう。

 そこで、精霊が言っていた言葉が思い出される。北で、つまりフスト王国でキナ臭い動きがあるのだ。先ほどの言葉から推察するに、やはり何かが起きたのだろう。

 俺の不安を他所に、王と兵士の話は続いていく。

 フストが攻めて来る可能性がある理由は実際にあるようだ。どうやら大陸外の国、海を東に渡った先にある、桜花という国が攻めて来たらしい。

 桜花は島国で、独自の職業や武器を持っている。実際の戦力はわからないが、かなりの力を有していると言われている。そして勇者パーティーが魔王領で戦っていたということもあり、完敗したようだ。

 桜花に国の北側を占領されたフスト王国は、王都を南に移して存続しているという。桜花は人数をあまり送り込んでいないということもあり、これ以上侵略を進めるつもりはないようである。

 領土を大幅に減らしたフスト王国が南の大陸、つまりウェンデルト王国に目を付ける可能性が高い。なので、今の話が出ている。

 本当に確定要素のない推理だ。だが国としては、それを想像して準備を整えておく必要がある。できなければ、迎撃準備をする時間も許されずに滅ぼされるだろう。

 どちらにしろ、フスト王国が桜花によって侵略されたのは真実のようだ。俺の故郷であるナディス村は、フスト王国の東の方にある。桜花が東の海から来るのであれば、攻撃を受けた可能性もある。父のダルや妹のウリィが心配だ。今すぐ駆けつけて安否の確認をしたい。だが逸る気持ちを押さえて、一度深呼吸をする。

 今ここを飛び出したところで、ナディス村までは何日もかかってしまう。そもそも、フスト王国が南へ進攻しようと企てている可能性があるのだ。それが本当ならば、無暗に北へ行くことはできない。すでに、神秘の森近くに軍を用意している可能性もある。その場合、すぐに見つかってしまうだろう。


「クロウよ。どうしたのだ?」


 いつの間にか、王が俺の顔を覗き込んでいた。空間認識のスキルを持っているのにここまで接近に気付かないとは、どれほど深く考え込んでいたのだろうか…。

 聡い王のことだ。恐らく、俺の様子を見て何かを感じ取ったのだろう。


「先ほどの話ですが…」

「ああ、あれか。すまない。聞かせるつもりはなかったのだが…」


 そう言って、本当に申し訳なさそうな表情を浮かべる。どうやら俺が先ほどの話を聞いて、戦争が起きないか不安に思っていると勘違いしたようだ。


「違います。実は…」


 故郷のことや俺がフスト王国から来たことは避け、フェスティナ大陸の北の状況が知りたいと告げる。理由としては、カリアのことを挙げさせてもらった。彼女は神秘の森で出会ったが、里に住むまではウェンデルト王国で冒険者見習いをしていたのだ。

 それを利用して、フスト王国で冒険者見習いをしていたことにさせてもらった。

 彼女には、後で理由を説明して謝っておこう。もしかすると、話を合わせてもらう必要があるかもしれない。そのために情報を共有しておく必要がある。


「成程…そうだったのか」

「はい。ですので、カリアのお世話になっていた村がどうなったか知りたくて…」

「わかった。こちらでもでき得る限り調べさせておく。大臣に伝えておけ!」

「はっ!」


 後ろに控えていた兵士の内、一人が大臣に伝えるために駆けていく。


「不確定な情報で、彼女を心配にさせる訳にもいかないな。詳細がわかるまで、耳があるところでこの話をしないように触れを出しておこう」

「すみません。助かります」


 カリアは兎も角、サーシャも俺と共にフスト王国から来た者だ。彼女がいたソルトは神秘の森近くにあるので無事だろうが、断片的に情報を拾ってしまって、変に不安にさせてしまう恐れがある。


「すぐに調べさせて、何かわかればすぐに伝える。情報を速く伝えられるように、暫くは城下町に滞在をしてくれ」

「わかりました」

「滞在費はこちらが持とう」

「いえ、それは大丈夫です。俺達は冒険者ですから」

「そうだったな。お主達は優秀な冒険者だった」


 そう言って、王は快活に笑う。こうして、俺達は暫く王都に滞在することとなった。

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