第四十話 結界術師、王城へ招かれる
第三章 歪んだ国
第四十話 結界術師、王城へ招かれる
俺が振った剣を回転しながら男が避ける。そのままの勢いで剣を振るう。回避から攻撃へ移るまでの動作がないため、かなりの速度で攻撃がやって来る。
左右の手から繰り出される剣は、攻撃を繰り返す度に速くなっていく。こちらから攻撃をして止めようとしても、回避の勢いのまま攻撃してくるため、速度が落ちることはない。
「くそっ!」
剣で弾いても回転を変えながら攻撃してくる。剣を防いでも刃を滑らせながら攻撃を止めることはない。
徐々に剣を捌くことすら限界に達してきた。このままだと、後数撃で俺が対応できる速度を超えるだろう。その前に何とかしなくてはならない。
俺は腕に結界を纏わせる。
「なっ!?」
男が驚愕の表情を浮かべて動きを止めた。俺の腕を斬ろうとした剣が、突然弾かれたからだ。勿論、弾いたのは結界を纏った俺の腕である。流石に腕を斬り落とそうと力を入れていたようで、今回弾かれた時には上手く次の攻撃に繋げずにいた。
「ぐっ!!」
なので、足が止まったところを殴らせてもらう。俺の拳を腕をクロスして防ごうとする。しかし、俺の拳は結界によって硬さを強化されたものだ。鉄のハンマーで殴られた以上の衝撃だろう。
吹き飛ばされた男が咄嗟に立ち上がろうとするが、力が入っていないようだ。両腕がだらりと垂れ下がり、骨が折れているのが見ただけでわかる。すでに両手とも剣すら持てないだろう。
男の動きに注意しながらも、カリアの様子を見る。
二人はまだ戦っていた。最初からカリアが優勢だったので、勝負はついていると思っていた。まだ決着がついていないのは意外である。
取り敢えず男の頭を剣の峰で殴り、気絶をさせておく。一応ミリアの縄を持って来てもらい、動けないようにしっかり縛っておいた。これで二人の戦いに集中できる。
やはり、今見ても戦いはカリアの優勢で進んでいた。それどころかカトレアの動きに順応し始め、カリアの動きがさらに洗練されていく。
攻撃を繰り出しているのは依然としてカトレアだが、カリアの反撃回数が増えていた。
「治癒」
「嘘だろ…」
致命傷を避けながら切り傷を増やしていたカトレアが、そう呟くと共に体の傷が癒えていく。驚きで開いた口が塞がらない。
カリアと前衛としていい勝負をしていたはずの彼女は、純粋な戦士系の職業ではなかったのだ。未だに発見されていない特殊職ならば話は変わるが、戦士系の職業で回復魔法を使えるのは者はいない。
そもそも、戦士系の職業で身体強化以外の魔法を使える方が珍しいのだ。中にはパラディンや仙人のように回復を行える上級職もあるが、これらはスキルで回復する。そのため、回復魔法ではないのだ。
「そろそろ魔力が切れそうね」
「それならばもう止めておけ。お前に勝ち目はない」
カリアが切っ先を彼女に向けながら、降参するように促す。しかし、彼女は笑った。そのままカリアへ向けて突撃する。
「もっと楽しませてよ!!」
カリアの剣で体を斬られながらも、笑いながら攻撃を繰り返す。
「くっ!」
「そろそろだな」
この後、勝負は長続きしなかった。動きを完全に見切ったカリアが攻撃に転じたのだ。今まで攻撃を防ぎながら反撃していたカリアの速度が上回り、攻防が入れ替わったのである。
そうなってはもうどうにもならない。彼女が必死に攻撃を防ごうとするが、カリアの速さについていけずに大きな傷を増やしていった。
未だに致命傷だけは何とか避けているが、先ほどまでとは受けるダメージ量が遥かに多い。魔力量がすでに少なくなっている彼女にとっては、それが一番の致命傷だろう。
「流石にもう動けない」
体中を切り刻まれ、血塗れにになったカトレアが後ろ向きに倒れる。魔力が尽きて体に力が入らないのだろう。
「はぁ~。楽しかった」
負けて重傷を負っているというのに、彼女はとても満足そうな表情である。
「この人達、どうするのですか?」
「山賊だし、町に引き渡せばいいのでは?」
サーシャとオリーが話しながら近付いて来た。引き渡したところで、どうしようもできない。あの町はすでに、二人がいないと魔物を駆除することもできないだろう。それは冒険者の様子を見ていれば一目瞭然だ。
「お前達は魔物を倒して町の安全に貢献しろ」
そう言ってサーシャ達を馬車に乗せる。二人も一緒に馬車へ乗せた。このままだと魔物に襲われる可能性もあるため、拠点としている小屋へと連れていくのである。
男は縄で縛られカトレアは重傷だが、魔力が回復すれば治療できるはずだ。馬車に乗り込む前に応急処置だけはしておいたので、出血で死ぬこともない。
「それでは出発します」
御者のお姉さんが馬を歩かせ始めた。こうしてこの町の山賊騒動は終わりを迎える。…はずだった。
「なっ!? どうしてお前達がここに?」
「双子に殺されたはずだろ…」
「あの双子は…?」
小屋に戻れば見覚えのある顔触れがいた。ユーリアから姿を消したウザン達である。彼等はここに潜伏していたようだ。
何処かで俺達があの町へと入っていくのを見たのだろう。二人が俺達を待ち伏せできたのは、ウザン達が情報を伝えたからに違いない。
「取り敢えず、大人しくしてもらおう」
「ふざけるな!!」
俺の言葉にウザンが激昂する。そしてこちらへと向かってきた。
「炎付与」
「うっ!」
剣に魔法を付与したカリアの姿を見て、ウザンは咄嗟に足を止める。本能で生命の危機を感じ取ったのだろう。実際にこれ以上近付いたら、彼は消し炭になっていた。
お尋ね者として賞金を掛けられている今、生かして連れていく必要もない。殺して証だけ持っていけば、問題なく討伐を認められる。
後ろにいた取り巻き三人も、ウザンの様子を見て動けないでいた。大人しくなったところで意識を刈り取り、縄で縛って身動きを取れなくする。王都に行く予定なので、そこで兵士に引き渡せばいいだろう。
ここでウザン達の問題を解決することになるとは思わなかったが、ようやく王都へと出発することができた。
「王都が見えてきたな」
馬車を進ませて半日もかからずにここまで来ることができた。あの町から王都までは、思っていたよりも近かったようだ。
冒険者証を見せて王都へと入り、オリーの母親がいるバームント商会の屋敷へと向かう。王都へ入る際に、ウザン達を兵士に受け渡しておく。
「ここが私の家です。ご苦労様でした」
馬車が止まった場所は、かなり大きな屋敷の前だった。バームント商会は、王都でも力を持っているようだ。そこらの貴族の屋敷よりも大きい。
「オリー!?」
「お母様!!!」
外に出て来た女性がオリーを見て驚愕の表情を浮かべ、彼女はその女性に飛びついた。どうやら、あの女性が彼女の母親のようだ。
「貴方達は?」
「護衛をしてくれた冒険者の方です」
「あら、そうなの?」
俺の代わりに、御者のお姉さんが答えてくれた。
「ありがとうございます。ぜひ、今夜は御馳走させてください」
どうやら、今日はこの屋敷で夕食を取ることになりそうだ。
「ごめんなさい。貴方達は王城に呼ばれたみたい」
城下町を散策して夜まで時間を潰し、屋敷に戻ってくるとオリーの母親からそう告げられた。
王城へと向かう。
「今は立ち入り禁止だ。今日はお引き取り願おう」
「俺は冒険者のクロウだ。呼ばれたと聞いてきたんだが…」
「はっ! 今すぐ王の下へお連れします」
冒険者証を見せると、兵士はすぐに態度を変えて案内してくれた。連れて来られたのは王の間ではなく、食事会場のような場所だ。時間を考えても、食事に呼ばれたのは間違いない。
「私はエドラス・ウェンデルトだ。よく来てくれた。冒険者クロウとその仲間達。今夜はゆっくりしていってくれ」
王は見た目がとても若く、王子と言われても違和感ないほどだった。しかし感じる圧はとても強く、一目見て上の者と思える。また城下町で噂されていたが、確かに佇まいから知性を感じる。
俺の仲間であるカリアとサーシャを見ても、嫌な顔一つしなかった。亜人である二人を見ても何とも思わないということは、やはりこのウェンデルト王国では亜人差別等はないようだ。
「うぅ…緊張する」
「大丈夫だ」
結界の外に魔物がいても気にせず眠るサーシャでも、王の前では緊張するらしい。カリアは相変わらず、同様一つ見せない。彼女からしてみれば、人間の王等気にならないのだろう。精霊と対話していた時は、敬語で話して緊張していたようだが…。
「…お腹空いた」
サーシャの鞄から声がする。ミリアは基本的に人前で外に出ないが、屋敷で夕食を食べ逃してお腹が空いているようだ。
「いいぞ」
「ん」
鞄からミリアが出て来て、俺が彼女に用意した食事を食べ始める。
「何と!?」
王や周囲にいる兵士が彼女の登場に驚いていた。
「お主達の話は聞いておる。取り敢えず、ソルトで魔物の群れを討伐したところから聞かせてくれ」
こうして俺達は、食事をしながら王に今までの話を聞かせていった。




