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第三十九話 結界術師、双子の山賊に出会う

                            第三章 歪んだ国

                     第三十九話 結界術師、双子の山賊に出会う



「魔物がいないな」


 ユーリアから離れているので魔物が増えるかと思われたが、全くと言っていいほど見かけない。チナに魔物の大進軍があった時に酷似している。

 あの時も殆どの魔物がこちらに進軍していたため、全て倒した後は魔物を一切見かけなくなった。普通は町から遠ざかるほど討伐に向かう冒険者が減るため、魔物が多くなり出会う可能性は増えていくのだ。町の近くでも少しは魔物を見かけるため、このように全く見ないのは異常である。


「今日はここまでだな」


 小さな町が見えたので、そこに立ち寄る。遅くに出発したため、本日の旅はここまでだ。すでに夕日が見えている。小さな町だが、冒険者がかなりいるのだろうか? それならば、魔物を全く見かけないのも納得がいく。

 俺達四人だけならば、この町を通り過ぎて夜に野宿をしていた可能性もある。だが護衛の依頼で来ている以上、少し早くても安全を考えて町に入るべきだろう。カリアが宿を探しに向かった。小さな町だからか、人を全然見かけない。

 町を守る兵士が立っていたならば、宿の位置などを聞けたので早かったのだが…。

 少しするとカリアが宿を見つけて来たので、案内をしてもらいそこへ向かった。


「この時間に人が来るとは…本当によく来たね」


 宿屋の女将が出迎えてくれた。彼女の言い方が少し引っかかる。まるで、時間によって人が来れないと言っているように聞こえた。


「この町には何かあるのか?」


 気になったので、取り敢えず尋ねてみることにする。


「この町には何もないよ。けどね、近くの小屋に双子の山賊が住んでるのよ」


 話を聞くと、女将はスラスラと話し始めた。どうやら教えてもいい内容らしい。


「その双子が近くを通る商人や町の住人を襲うのさ」

「その二人に襲撃されるという訳か」

「この時間には、町を守るはずの兵士ですら建物の中に篭る。それほど強い二人なんだよ」


 その双子の山賊は相当な手練れのようだ。話を聞き、カリアが戦いたそうにうずうずとしている。サーシャもその話で目の色を変えている。そのとてもやる気に満ちた目は見たことがあった。


「その双子は、退治しないのか?」

「できないんだよ。襲われるのが怖くて、王都に報告へ向かってくれる者がいないのさ」


 この町の兵士は、相当その双子のことを恐れているようだ。普通ならば、町を守るために派遣された兵士が報告に向かう。兵士が動けないのであれば、冒険者に依頼を出さないのだろうかと思ってしまう。もしかすると、冒険者も恐れて外に出られないのだろうか?

 冒険者が外に出ないということは、討伐依頼を誰も受けていないということだ。外に魔物が全くいないのは、その双子が刈り取っているからだろう。俺達が襲われずに無事にこの町へ辿り着けたのも、魔物を狩りに出かけて近くにいなかったからかもしれない。


「俺達は護衛だから、町を出る時には気を付けないといけないな」

「いや、戦ってみたのだが…」

「わかりました。気を付けます!」

「うぅ…わかった」


 サーシャが俺に賛同したことで、カリアが渋々だが折れた。サーシャも最初は戦いたがっていたが、護衛の依頼だということを思い出してくれたようだ。

 俺の部屋に入ると、サーシャも何故か一緒に入ってきた。空いていたので一人部屋と二人部屋を一つずつ取ったのだが、俺と一緒にいたかったのだろう。


「流石にこっちは狭いから、二人は無理だぞ」


 そもそも二人ではなく、彼女の鞄にはミリアもいるのだ。サーシャより小さいミリアなら兎も角、サーシャは二人部屋へと入ってもらう。


「早く来い」

「…何で?」


 サーシャが来ていないことに気付いたカリアに、首根っこを掴まれて別の部屋に連行される。彼女は悲しそうな表情を浮かべながら、無抵抗で連れていかれた。もちろんミリアも一緒にである。その隣の部屋に、オリーと御者のお姉さんが泊まっていた。

 護衛という関係上、近くの部屋の方が何かと都合がいい。空間認識を持っているため、俺の部屋は入り口の近くだ。不審者はいればいち早く気付くことができる。

 その日、久しぶりに一人の時間を謳歌できた。


「それでは、そろそろ出発しましょう」


 御者のお姉さんの言葉に、オリーとサーシャが馬車へと乗り込む。馬車が出発すると同時に、俺達も横に続いた。簡単に店で食料等を購入したので、昼には保存食以外の料理が食べられる。この町の冒険者は討伐の依頼を受けないため、依頼として店の手伝いをしているのだ。そのため、この町では早くから開いている店が多い。


「山賊が出なければいいのですが…」

「大丈夫ですよ。出たとしても、クロウ達が返り討ちにしてくれます」

「それならば問題ないですね」


 馬車の中で二人が暢気に会話をしている。


「そこの馬車!」

「止まって!」


 薄い空色の髪をした男女が話しかけてきた。どうやら双子のようで、二人は顔がそっくりだった。綺麗に整った顔立ちで、女の方は三つ編みで後ろ髪を一つに纏めている。中性的な顔立ちのため、彼女に胸がなければ男女の判断が付かなかっただろう。

 恐らく、この二人が噂の山賊だ。どうやって知ったのかはわからないが、待ち伏せしていたということは、俺達が町にいることを知っていたのだろう。


「何の用だ」


 俺とカリアが馬車の前に出る。サーシャも慌てて馬車から降りてきた。


「サーシャはオリーを頼む」


 彼女はそれを聞き、馬車の近くに残る。護衛という立場上、相手を倒したとしてもオリーを傷付けられては意味がない。


「食料を置いて行ってもらいましょう」

「嫌なら、力尽くで突破してみる?」


 女の顔を見て、二人が山賊をしている理由がわかってしまった。彼女は挑発しながら、こちらに期待の眼差しを向けている。それは、カリアが最近よく見せるものにそっくりだった。

 戦いたいと目が訴えかけている。つまり、山賊行為はついでに行っているに過ぎないのだ。本気で戦いたいがために、彼女達は山賊行為を繰り返しているのだろう。外に出るのが怖くて応援を呼びに行っていないが、彼女達は強者を呼びに行ってほしかったに違いない。

 山賊行為を派手に行い過ぎたのは、結果として彼女達にとっては誤算だったのだろう。


「久しぶりの戦闘だな」

「嬉しそうだな…。今は護衛をしているんだぞ」

「わかっているさ」


 軽口を叩きながら、俺とカリアが同時に剣を抜く。それを見た二人は一層いい笑みを浮かべ、それぞれの武器を構えた。

 男はショートソードと呼ばれる、普通の剣より少し短い刃の剣を両手に持つ。短剣ならば偶にいるが、剣を両手に持つ者など初めて見た。

 女の方は、棒の両端に棘の付いた特殊な武器を構えている。恐らく、あれで敵を殴って攻撃するのだろう。


「楽しい!!」

「私もだ!」


 カリアと女がお互いの武器をぶつけ合った。女の方が力が強いようで、カリアが少し押される。だが剣で弾いて態勢を整えた。

 女が棒を回転させながら、高速で攻撃を繰り返す。それを全て捌きながら、カリアも負けじと隙を見て剣を振る。攻撃回数は女の方が上だが、カリアの方が上手なようだ。確実に攻撃を捌き、少しずつカウンターのようにダメージを与えていく。

 致命傷は全て避けているようだが、切り傷が増えていった。


「あなたの連れは強いですね。カトレアも楽しそうだ」


 女はカトレアと言う名前らしい。男は羨ましそうな視線をカトレアへと向けていたが、剣を後ろに構えてこちらへ一気に迫ってきた。


「僕も楽しませてください!」


 彼の剣技はとても特殊だった。後ろに構えた姿勢から、上下左右と色々な方向から剣が迫って来る。剣が彼の後ろにあるため、剣筋を見ることが難しい。

 だが、俺は全ての攻撃を回避していく。腕の動きすらも把握できる空間認識と、彼の剣技は相性がとてもいいようだ。次に何処から攻撃してくるのかが手に取るようにわかる。


「全て躱しますか…。それでは、もっと速くいきますよ」


 男は自分の体の動きで、前後からの攻撃も加えてくる。さらに体を回転させ、攻撃速度も上げてきた。流石に回避しきれず、剣で攻撃を捌いていく。攻撃速度と回数ならば、カトレア以上だろう。攻撃箇所はわかるのだが、体が相手の攻撃速度についていけない。

 このまま防御に回っていても仕方がないだろう。最小限の動きで回避しながら、こちらも攻撃を加えていった。

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