第三十三話 結界術師、真相を知る
第二章 商人の町ユーリア
第三十三話 結界術師、真相を知る
山賊達を捕縛し、ユーリアに向けて戻る。峠に来る時は商人に偽装していたが、帰りはその必要がないため全員が馬車に乗りこむ。
御者は再びバンが務めることとなった。山賊を全員乗せるだけの余裕がなかったため、何人かは起こして歩かせている。全員繋がっているため、バラバラに逃げることはできない。同じ方向に逃げたとしても、簡単に捕まえることができる。
町に戻る間に一度、三匹のコボルトに襲われた。
コボルトとはサーシャが一人で戦うこととなる。彼女は山賊との戦いで役に立っていなかったことを引きずっていたので、ここでは役に立とうと張り切っていた。
魔物と戦うとなると、一気に動きがよくなる。やはり、人との戦いの時だけ動きが鈍い。
山賊との戦いを見ていたカーベイン達は、彼女の動きを見て称賛していた。まだ天職を持っていない子供が、一人で三匹のコボルトと戦ったのだ。
普通の子供では相手にできる訳がない。冒険者ならば、これだけでも彼女がどれだけ凄いのかわかるだろう。
「おおっ! よくやってくれた!」
町に近付くと、入り口を守っている兵士が駆けてきた。一言残して、町の中へと走る。山賊の数が多すぎて対応できないので、応援を呼びにいったのだろう。
「何だ?」
「どうした?」
町に入ろうと列に並んでいた商人達が声を上げる。視線は俺達の方を向いていた。彼等は山賊討伐の事情を知らないため、馬車の後ろに繋がれた行列が気になるのだろう。
「おいおい、行っちまったぞ…」
カーベインが、商人の乗る馬車が行列になっているのを見てぼやく。許可を出していた兵士がいなくなったため、誰も町に入れなくなってしまった。
兵士がいないので勝手に入る者がいるのではと思ったが、誰もそこから動く様な真似はしない。他の商人がいるため、どこからその話が漏れるかわからないからだ。商人は信用が第一なので、それを落とすような真似は絶対にしない。
同じような理由で、冒険者も立ち止まっていた。彼等の場合、この町で依頼を受けようと思ったら商人の依頼が一番多い。ここで商人からの印象を悪くする訳にはいかないのだ。最悪、依頼を受けようとしても拒否される恐れがある。
「取り敢えず、さっきの兵士が帰って来るのを待つしかないだろう」
結局兵士が仲間を連れて戻ってるまで、商人から奇異の目で見られ続けたのだった。
「それでは、後はこちらで処理します」
山賊達を引き渡す。彼等は全て、兵士の厩舎へと連行されていった。一人一人情報を聞き出した後、牢屋へと放り込まれる。厩舎は一時置いておく場所に過ぎない。
纏めて尋ねないのは、彼等に口裏を合わさせないようにするためだ。自分一人が助かろうと誰か一人でも裏切っていたら、話に矛盾ができてしまう。実際に刑を軽くする代わりに、情報を聞き出すということはあるようだ。
今回はどれだけ刑が軽くなっても、全員処刑は免れないだろう。彼等はすでに罪を犯しすぎた。今回のことだけではなく、以前から何度も犯行を犯している。辺境の町である、ソルトにすら情報が届いていたくらいだ。
次に俺達は冒険者ギルドへと向かった。報告は兵士を通じて行われているだろうが、詳細なことを報告したり、報酬や報奨金をもらわなければならない。
「おかえりなさい。ご苦労様でした」
俺達の顔を見た瞬間に、ホッとした様子で受付嬢が声を上げる。反応を見るに、まだ情報が伝わっていなかったようだ。
「それでは、報告をお願いします」
「ああ…」
カーベインが報告を始める。彼は冒険者の中でも優秀で、人望も厚い。報告ならば彼に任せる方が適任だろう。俺達は彼の後ろで報告しているのを見ている。
「ん? ふわぁ…」
ただ見ているというのも暇なので、サーシャの頭を撫でる。彼女の頭の毛はフサフサなので、撫でるだけでも気持ちいい。彼女は突然撫でられ、最初は困惑していた。しかし、次第に気持ちよさそうな表情を浮かべる。
俺も気持ちよく、彼女も気持ちいい。winwinの関係だ。
暇潰しをしていると、カーベインの言葉が止まる。どうやら、ギルドへの報告が終わったようだ。周りを見ても、誰も聞いていた様子はない。彼以外に五人もいて誰も聞いていないとは…。
「それでは、これが報酬となります」
依頼に書かれた報酬額の半分が払われる。二パーティーで受けたため、カーベインのパーティーと依頼の報酬は半分ずつだ。さらに俺達は、Cランクへと昇格となった。
「それでは今回の依頼を受けていただき、ありがとうございました」
報酬は支払われたが、報奨金の方はもらっていない。
「報奨金は?」
ヌイアが、俺達の思いを代弁するように声を上げる。依頼等とは関係なく、山賊を討伐すると報奨金がもらえたはずだ。
「報奨金は町から出るから、後で支払われるって言っていただろ…」
カーベインが何を言っているんだ、と困惑した様子を見せる。俺達が話を聞いていない間に、報奨金の説明があったようだ。
俺達は揃って気不味そうな表情を浮かべる。唯一サーシャだけが、気にしていない様子で無邪気に笑顔を浮かべていた。
「それじゃあな」
ギルドの外でカーベインと別れる。報奨金を受け取る際に呼ばれるはずなので、次はその時に会うことになるだろう。といっても同じ冒険者なので、ギルドで出会うかもしれないが…。
宿に帰る前に、一度町の外へと向かう。
「あなた達が山賊を倒してくれたと聞いたわ。ありがとう」
「ありがとね」
町の外にはシャーレア達がいた。山賊が討伐され、通行可能になったので商人が行き交う。商人達が馬車を動かす中、彼女達は道から外れて止まっていた。
「それでは、またソルトにも来てね」
「ああ、また行く」
「サーシャちゃんもまたね」
「うん」
俺達とシャーレア達がそれぞれ挨拶を交わす。彼女達はこの後ソルトへと戻る。元々すぐに戻る予定だったため、たった二日とはいえユーリアに滞在するのは大きな出費だ。
今回護衛している商人がいい人だったため、滞在の際の費用は依頼料として後で払ってくれるらしい。普通は依頼料は依頼を出す際にギルドで登録されているため、増減することはない。これは冒険者が依頼をこなした後で、依頼主が難癖をつけて報酬を減らすことを避けるためだ。
今回のようなことは稀なので、増えるということには対応していない。そのため、商人が追加の滞在費を払う義理はないのだ。
流石に食費は自分達で出すようだが…。
「それでは…」
商人が合図を出すと、御者のおじさんが馬を歩かせる。二人も馬車の左右に付き、護衛として歩き始めた。
「宿に戻るか…」
少し寂しそうな顔をして馬車の方を見るサーシャの手を引き、町の中へと戻る。宿の方へと歩く最中にも、時々彼女は入り口の方を振り返っていた。
シャーレア達とはそこまで仲がいいとは思わなかったが、俺の知らない間に仲よくなっていたようだ。ソルトを守る戦いで二人に助けられたと言っていたので、その時に仲よくなったのだろうか?
宿に戻り、宿の主人が作った夕食を取る。今日は歩き続けていたため、あまり歩いて外食をしに行きたくなかったのだ。
カリアとサーシャは相変わらず元気だったが、俺の足は動きたくないと言っていた。
「明日から魔物討伐の依頼を受けるか…」
できれば明日は休みたいが、ユーリアに来てから山賊討伐以外の依頼を受けていない。今回の結果で俺達の実力が一目置かれるようになったので、頑張っていかなければならないだろう。
受付嬢にもCランクの実力があるとは言われた。だが、俺はそのようなことは思っていない。冒険者になったばかりで、経験が明らかに足りていないのだ。
Dランクの冒険者になったのも最近である。Cランクには実力だけではなれないだろう。ベテランと呼ばれるCランクに上がるのは、Dランクになるのとはレベルが違う。
といっても、実際には試験をクリアするのみなのでウザンのような者も現れる。そういった者は、Cランクに上がってからかなり苦労することになるだろう。
「今日はいいですか?」
サーシャがもぞもぞとこちらのベッドに潜り込んできた。余程彼女達が帰ってしまったことが寂しいのだろう。
俺は彼女の頭を優しく撫でてやり、温もりを感じながら眠ることにした。
「ありがとうございます」
サーシャは目が覚めると、一番に俺へとお礼を言ってきた。その表情はとても晴れやかで、気持ちが回復したのがわかる。
「ふわぁ…よく眠れました」
「よかったな」
欠伸をする彼女に、カリアが声をかける。その声は少し低く、不機嫌なのがわかった。カリアではなく、俺のベッドに潜り込んだことが原因だろう。
「抱き着いてこい」
「はい」
彼女の耳元に小声で言うと、素直な彼女はカリアへと抱き着いた。それだけでカリアの機嫌が直る。嬉しそうに微笑んでいる彼女を見て単純だな、と思ってしまった。
少し心配になるが、取り敢えずは機嫌が直ったのでよしとしよう。特訓の時は厳しいので、普段とのギャップが凄い。
疲れが取りきれず、重い足取りでギルドへ向かう。依頼を受けようと掲示板へ向かうと、あまり人がいなかった。
「クロウさん。奥へ来てください」
受付嬢にそう言われ、ギルドの奥へと向かう。
そこには大きな部屋があり、沢山の冒険者がいた。どうやら、皆ここに集められたようだ。
「それでは時間になりましたので、報告させていただきます」
ギルド職員が部屋の奥にある台に立ち、皆に聞こえるように大声で話し始める。
内容は山賊達のものだ。昨日の内に情報を聞き出したらしい。この町の兵士は仕事が速いことだ。基本的には、彼等の働いた悪事の情報だった。
中には被害を受けていた冒険者もいるようで、話を聞いて涙を流している者もいた。
「私はこのギルドのギルドマスター、ガウンだ」
職員の説明が終わった後、ギルドマスターが台に上る。
「Cランク冒険者のウザンの居場所を知らんか?」
内容はウザンに関するものだった。どうやら、彼のパーティーが山賊に繋がっていたらしい。商人の情報や冒険者の情報がリークされていたので、ここまでの規模で今まで山賊をやれていたようだ。
ガウンの問いに、誰も声を上げない。この場にいないということは、ギルドに来ていないのだろう。昨日、山賊が町に連れて来られた時点で逃げたようだ。
誰も見ていないということで、居場所がわからない。
こうして、彼等はこの町でお尋ね者となった。商人が行き交うこの町でお尋ね者になったということは、すぐにウェンデルト王国中に広がるだろう。
まだあまり遠くに行っていないのではということで、冒険者全員で本日は周辺を捜索することとなった。




