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第八章・第五話 第五階層





 通路に飛び込んだカエデたちを待っていたのは、全方位から襲い掛かる炎の飛礫つぶてだった。

ディはドリルと化した自らを高速回転させ、それらを全て弾き飛ばしていた。

ハルムベルテも被弾したがたいしたことではなかった。

 だが、それで終わりではなかった。

『ミカツ゛キ。何があっても構うな。これから起こることは全て・・・』

 「なに?」

 だが、ディがそう言い終わるより早くそれは起きていた。

 通路の内壁表面を覆う泥が至る所から盛り上がっていく。

 それが、人の姿になってカエデとハルムベルテ目掛けて落ちて来たのだ。

 まるで、重力の中心点がカエデたちにあるかのように、通路のあらゆる場所から落ちて来る泥人間たちが、万有引力を無視して全方位から2人目掛けて落ち続けてくる。

 それが、ドリル形態のディとハルムベルテに次々にしがみついていく。

 いや、そうではなかった。ディは自らを超高速で回転させながら曲芸飛行のように飛び回り、自分目掛けて落ちて来る全ての泥人間を避けていたのだ。

 「ディ。なにをしている?」

 カエデが口にして当然の疑問さえも無視するかのように飛び続けるディ。

 だがミカツ゛キはそれが出来ず、落ちて来るその全てを受け止めていた。

 しかもそれらは、しがみつく頃には、泥ではない人間そのものの姿になっていた。

 『ミカツ゛キ、それを振り払え。早く』

 だが、ディがそう言い終わるより早く、しがみついた泥人間目掛け、通路に開いた無数の穴から灼熱の飛礫が超高速で撃ち込まれ、その身体に幾つも穴を開けていく。

 「何だこれは?」

 『ここは〈誹弾ひだんの飛礫〉。地獄に堕ちた者たちが、生前に犯した罪の数だけ、その身体を炎の飛礫に貫かれる場所だ。このままだと我々まで穴まるけにされてしまうぞ』

 だが、モニター越しにミカツ゛キの視界に飛び込んできたのは、これが生きている人間なら、確実に致命傷になるであろう傷を全身に受け、苦痛と絶望に顔を歪め血を吐きながら助けを求める人々の姿だった。

 [頼む。助けてくれ]

 [お願いよ。助けて]

 [俺たちをこのまま次の階層まで連れていってくれ]

 [早く逃げてくれ。ヤツが来る]

 「ヤツ?」

 絶望の表情で助けを求める人たちの視線を追ったミカツ゛キの目に飛び込んできたのは、こちらに向かって飛んでくる巨大な鷲のような化け物だった。

 鷲のような身体から2本の首が長く伸びていて、そのそれぞれの首の先には、細くて長いくちばしを持つ頭が2つ付いていた。

 それが、通路内を飛翔しながら、細長い首を縦横無尽に動かし、空中で飛礫に穴まるけにされ、力なく落下していく人たちを次々にその嘴にくわえ丸呑みにしていた。

 「何だあれは?」

 『フレーズヴェルグ。その名の通り〈死者を飲み込む者〉だ』

[お願い。私たちを見捨てないで] 

 しかし、その間にもハルムベルテの上には人間が上下左右から落ち続け、死に物狂いでしがみつく人々の数がどんどん膨れ上がっていく。

 『ミカツ゛キ。聞いてくれ。彼らは自らの力を使う以外の方法でここから出ることは出来ない。それがこの世界の決まりだ。だから君がここから連れ出すことも不可能だ。

だが、本当の問題はそこではない』

 「どういうことだ?」

 『今しがみついている人たちを君が振り落とせば、それは罪になる。1人につき100の飛礫が君を襲う』

 「なに?」

 『いずれにしろ、このままではタイムリミットが来てしまう。彼らを振り落とし突っ切るしか道はない』 

 ミカツ゛キは再びモニターを見た。

 ハルムベルテの機体は、その形が分からなくなるほどの数の人たちに埋め尽くされていた。

 爪が剥がれ、指が折れてもしがみ付く手を離そうとしない彼らの顔から、前方から迫りくるフレーズヴェルグへと視線を移すと、ミカツ゛キは正面を見据えた。

 「すまない・・・。バイツ。オーバーブースター・アタック」

 〔了解。オーバーブースター・アタック起動〕

 次の瞬間。

 ハルムベルテの背部から最後の3枚となった羽根が飛翔し、その機体の周りを3方向から囲むように空中に展開すると、高速で回転しながら光の粒子を放出し始めた。

 ハルムベルテは光に包まれ、瞬時に加速して、目にも止まらない速さで飛び出していた。

 「あああああああ~~~~~~~~」

 「やめて~~~~~~~~~~~~」

 絶叫とともに、しがみ付いていた人たちが振り払われ、オーバーブースターの粒子に焼かれて泥に戻りながら砕け散っていく。

 その瞬間。

 通路の壁のありとあらゆる場所から、ハルムベルテ目掛け灼熱の飛礫が撃ち出されていた。

 だが、その時、ハルムベルテはすでに通路の下方にいた。

 それは信じられない光景だった。

 ハルムベルテは、フレーズヴェルグを攻撃しないまま、そののすぐ脇を通り抜けていたのだ。

 しかし、そこにいたのはハルムベルテのみだった。

 3枚の羽根は機体に追従してみいなかれば、背部に収納されてもいなかった。

 [グゥエエエエエエエエエエ~~~~~~~~~~~っ]

 突然、空に絶叫が響き渡った。

 その声の主はフレーズヴェルグだった。

 彼はその全身を、巨大な特殊鉄鋼製のワイヤーで絡め取られ、身動きが出来ず、ただ空中で情けない声で咆哮をあげることしか出来なかった。

 そのワイヤーの先を視線で追いかけて行くと、そこにあったのは、3枚の羽根だった。

 フレーズヴェルグはオーバーブースターで巨大な光弾と化し、しかも自分のすぐ脇を通過して行くハルムベルテに気を取られ、3枚の羽根が回転しながら、自分を飲み込むかのように通過しながらワイヤーネットを射出していたことに気付かなかった。

 気付いた時にはこの状態になってしまっていたのだ

 羽根がフレーズヴェルグの周りを囲むようにしながら回転し、ワイヤーを締め上げていく。

 [ギャンっ]

 その時だった。

 フレーズヴェルグの口から悲鳴とも嗚咽とも違う声が漏れた。

 見ると、彼の身体には小さな穴が開いており、そこから鮮血が噴き出していた。

 だがそれは、ハルムベルテからの攻撃ではなく、カエデからの攻撃でもなかった。

 ドシュっ。

[グァア~~っ]

 鈍い炸裂音とそれに続く悲鳴。

 よく見ると、フレーズヴェルグの身体に新たな穴が開いていた。

 「どこからの攻撃だ?」

 カエデが驚くのも無理なかった。

 カエデもミカツ゛キも攻撃などしていなかったのだ。

 『飛礫だ』

 「なそう。それは飛礫によるものだった。

 通路の壁から撃ち出される飛礫がフレーズヴェルグの身体に穴を開けていたのだ。

 だが何故?

 カエデがディの力を借りて穴の近くをみると、なんとそこに蠢く影があった。

 「あれはまさか?」

 そう。それはミカツ゛キだった。

 ミカツ゛キがパワードスーツさえ装着せず、アンダースーツ姿のままフレーズヴェルグを閉じ込めるワイヤーに摑まっていたのだ。

 ハルムベルテがフレーズヴェルグの脇を通り過ぎる瞬間、ミカツ゛キはコックピットから飛び出しワイヤーに飛び移っていたのだ。

 飛礫はフレーズヴェルグだはなく、ミカツ゛キを狙って撃ち込まれたものだったのだ。

 ミカツ゛キは、凄まじい勢いでワイヤーを伝い、フレーズヴェルグの身体を駆け上がった。

 それを狙う数戦発の飛礫が全方位から撃ち込まれ、巨大な怪物の身体に次々に穴を開けていく。

 [ギャギャギャギャギャギャ~~~~~っ]

 断末魔の雄叫びを聞きながら、ミカツ゛キがその頭の上から飛び降りると、今度は落ちていくその軌道に沿って、飛礫が、まさに間一髪の間合いで怒涛の如き撃ち込まれていった。

 そしてミカツ゛キは、そのまま下に落下し、旋回してきたハルムベルテのコックピットに収まっていた。 

 まさにそれは神業だった。

 だが、それで終わりではなかった。

 飛礫は執拗なまでにハルムベルテに牙を剥き、追撃の手を緩めてはくれなかあった。

「くそっ」

 飛礫の間断ない猛攻に、ハルムベルテが次々に被弾して行く。

 〔このままだとタイムリミットに間に合いません〕

「分かってる。こんな所で諦めてたまるか」

『その意気だ』

 それはディの声だった。

 超高速回転しながら接近してきたディが、月が地球の周りを回るように、ハルムベルテの周りを凄まじい速さでぐるぐる回り、ミカヅキを狙い撃とうとする飛礫を次々に弾き飛ばしていく。

「このまま次の階層へ抜けるぞ。ついてこれるか?」

「誰に向かって言ってんだ」

 ハルムベルテはディを従えて急降下し、全方位から襲い掛かる礫を次々に粉砕しながら、閉じ行く通路の隙間を間一髪でくぐり抜けて次の階層へと飛び出した。



                  ◆


『逃げろカエデ』

 ドガガガガガガガガガガガガァンっ。

 それは出口から飛び出した瞬間だった。

 カエデがいたその場所が、太陽が出現したかのような輝きと共に大爆発したのだ。

漆黒の螺旋は視界を埋め尽くすほどの爆炎に飲み込まれた。

「カエデっ」

 だが、ミカヅキはカエデを助けに行くことが出来なかった。

 ミカツ゛キもまた、突如として襲い掛かる、間断なく続く爆発の連鎖に行く手を阻まれ、退路を断たれていた。

「カエデは無事か?」

 〔カエデさんが滞空していた場所は空間ごと消滅しています。安否不明。生存は確認されていません〕

 「なんの攻撃だ?どこから何に攻撃されたか分かるか?」

 〔解析終了。ワープミサイルによる攻撃と判明〕

「ワープミサイルだと?」

 〔敵は我々を狙ってワープミサイルで攻撃を仕掛けてきています。空間の垂直面上に振動が波紋上に広がるのを検知、発射地点を特定しました。モニターに出します〕

 ミカツ゛キの眼前に、この階層のはるか先の光景が映し出された。

 〔最大望遠です〕

「!」

 そこに見えたのは、空中に浮かぶ巨大な球体だった。

「ダリウスの輪?じゃない。なんだあれは?」

 そう。それはダリウスの輪ではなかった。

 33個ものリングが縦横斜めに重なり、その各々が縦横無尽に回転している姿が巨大な球体に見えていたのだ。

 だが、ミカツ゛キの視線は別のものを捉えていた。

 空洞になっているリングの中心部。

 その中で何かが燃えているのだ。

「あれが何か分かるか?」

 〔解析不能〕

 まるで太陽のような輝きを放つそれは、人の姿をした炎の巨人だった。

 そしてその顔に、ミカツ゛キは見覚えがあった。

 「フレイル?フレイル・メイスか?」

 [そうだ。私だとよく分かったな、ミカツ゛キ]

 そう。その顔は、ワープ空間でWDCの直撃を受け、紺の艦隊旗艦クルードのブリッジごと未知の空間へワープして消えた、紺と黄の混成艦隊艦長フレイル・メイスに間違いなかった。

 その炎の巨人は、まるでミカツ゛キの声が聞こえているかのようにこちらに向けて語り掛けて来た。

 [だが、今の私はフレイルではない。私の名はヘハマ。

 第五階層、憤怒地獄を司る者、そして七つの大罪の一つ、憤怒の罪を背負う者であり、地獄の三天使の一人だ。いや、貴様らが今一番知りたいのはそんなことではなかったな?今の私は占星術では火星と結び付いている]

 神々しいまでの輝きを放ち、全身から炎を噴き出すヘハマ。

 炎の巨人を中心に据え、規則正しく回転リングの内部は剥き出しのプラントになっていて、1番内側のリング内で造られた部品が回転しながら外側のリングに運ばれ、さらに部品が付け足されて次のリングへと送り出されて行く。

 それは、外側から2番目、つまり内側から数えて32番目のリングに到達した時に最後の部品がはめられ、ワープミサイルとなっていた。

 完成したミサイルが、一番外側のリングが回転しながら切り裂いた空間の狭間へと次々に打ち出されて行くのが見える。

「ワープミサイルを自らの手で量産しているのか」

 [聞け、ミカツ゛キ。私には兄と妹がいた]

 突如としてヘハマの口から飛び出した、あまりに突然で唐突な話に、ミカツ゛キは戸惑った。

「なんの話だ?」

 [兄と妹は人間の姿で生まれたがために神の子孫に従属すりことで生きながらえてきた]

「!」

 [2人を自由にする条件はただ一つ。

 審判の日までに神のために多大なる功績をあげること。ただそれだけだった]

「審判の日?今日か」

 [だが私は死に、絶望した兄妹は自ら死を選んだ]

「・・・そんな」

 [貴様が、・・・貴様さえいなければ]

 その激しい怒りと憎悪を体現するかのように、ヘハマの全身から爆発を伴いながら凄まじい量の炎が噴き出し、それに呼応するかのようにリングも加速して、その回転速度は瞬時に超高速を越えた。

 ババババババババババババババババっ。

 その瞬間。

 今まさにミカツ゛キがいた場所が、いや、そこを含む半径10キロメートル四方の全てが、爆発の連鎖に呑み込まれ、空間ごと消滅していた。

 全てが消え失せ真空状態になったそこに周りから大気が激流となって怒涛のごとく一気に流れ込む。

 それは、ハルムベルテをぐるりと囲む全方位の空間から一斉に出現した、数百発にも及ぶワープミサイルによる同時攻撃だった。

 その爆発力は凄まじく、灼熱の炎と衝撃はがヘハマのワープミサイル・プラントにまで襲い掛かった。

 だがそれも、1番外側のリングが切り裂いた空間の裂け目に吸い込まれてしまうため、リングは何事もなかったかのように回り続けていた。

 その時だった。

 回転するリングが切り裂いた空間の裂け目から何かが飛び出して来た。

 それは、漆黒で全体に螺旋模様が入ったの楔形の飛行体だった。

「どんぴしゃ」

『当たり前だ。私は天才だからな』

「自分で言うな」

 それはディとカエデだった。

 2人はワープミサイルの直撃を受けた瞬間、その爆発から逃れるため、ワープ空間から飛び出してくるミサイルが通常空間の垂直面に開けた穴に飛び込んでいたのだ。

 楔形の物体=ディは、そのまま超高速で回転するリングの集合体の中に突入した。

 それは信じられない光景だった。

 ディは、超高速で回転する33個のリングとリングの歯車の間にできる全ての隙間が重なり合って天文学的な確率で現れる〈道〉を通って一気に突入して来たのだ。

 それだけではない。

 ディは、目にも止まらぬ速さで限界を凌駕する飛行を続けながら、無数の触手を伸ばし、すれ違うリングから次々に何かをかすめ取っていった。

 そして中心部に到達した時、ディはヘハマとは全く逆の手順で霞め取った部品を組み立てワープミサイルを完成させていた。

 それを、目の前のリングの中にいるヘハマ目掛け撃ち込んだ。

 だが、それとほぼ同時にヘハマは右掌を前に突き出してリング内にバリアを張っていた。

 ミサイルはワープ空間に突入するのと同時に出現したバリアに先端を切断され大爆発した。

 ドォオオオオオオオオオオオンっ。

 〔!〕

 その時、バリアのおかげで無傷だったヘハマはあることに気付いた。

 自分の胸の真ん中に一本の矢が突き刺さっていたのだ。

 矢が飛んで来た方を見ると、一番外側のリングの更に向こうで、弓矢を構える、更に一回り小さくなったハルムベルテの姿があった。

 [・・・ば、ばかな]

 ヘハマが驚くのも無理なかった。

 ワープミサイルが自分を狙っていると理解した瞬間、ミカツ゛キは無数のダミー風船を散布していた。

 それらが全てハルムベルテの形となり、ワープミサイルの直撃を受けていたのだ。

 当然ながらハルムベルテはその大爆発を利用してその場から脱出していた。

 だが、ミカツ゛キの凄さはそれだけではなかった。

 ミカツ゛キは、カエデとディが潜り抜けた、33個にリングの隙間が重なって出来る〈道〉に矢を通していた。

 ミカツ゛キはディが回転するリングの33個の全ての隙間が重なる一瞬を突いて通り抜けるのを見た瞬間に、それまで見ていたリングが回転する様子から、次はいつ同じ事が起こるかを頭の中で瞬時に計算し矢を放っていたのだ。

 しかも、ヘハマ自身の手によって作り出されたバリアによって切断されたワープミサイルが爆発し、バリアに干渉してその威力をほんの一瞬消失させた、その瞬間を狙って。

 そして矢は、ヘハマの胸に刺さると同時に大爆発していた。

 ドォオオオオオオオオオオオオオォンっ。

 大音響とともに炎が爆散し、ヘハマの胸の部分には大きな穴が出現していた。

 だが、炎の生命体である今の彼女にそんなものはダメージでもなんでもなく、燃え上がる炎によって胸に開いた大きな穴が見る見る塞がれていく。

 その時だった。

 突然彼女の胸の穴の中から光が溢れだした。

 それは、彼女の全身から湧き上がる炎のそれをも軽く上回る神々しいまでの輝きだった。

 [!]

慌てて自分の胸部をのぞき込んだ彼女の目に飛び込んで来たもの、それは、胸の穴の中で爆発的な輝きを放つ光球と、その中心に浮かぶカエデの姿だった。

 [き、貴様。何を?]

 ヘハマがそう叫ぶより早くそれは起きていた。

 カエデを包む光球が更に輝きを増し、ヘハマの身体を形成する炎を飲み込むように消滅させながら膨れ上がっていく。

 [・・・よ、よせ。・・やめろ~~~~~~っ]

 絶叫するヘハマ。

 だが、その身体は見る見るうちに光に呑まれていく。

 それはまさに、彼女を倒すためにカエデとディが考えた起死回生の一撃だった。

 [ばかな、この私が・・・]

 ヘハマはすがるような目でハルムベルテを、いや、ミカツ゛キを見た。

 [ミカツ゛キ、助けてくれ。貴様なら分かるだろう。私の無念が]

 「分からない」

 [なに?]

 その、ミカツ゛キのあまりに素っ気ない返事に、ヘハマは一瞬言葉を失っていた。

 [貴様。恐竜族としての誇りまで人間に売ったのか?]

 「誇りだと。そんなもののためにお前は実の兄と妹を見殺しにしたのか」

 [・・・なにが言いたい]

 「兄弟を助けたかったのなら、3人で一緒に逃げるべきだった。私のように」

 [そんな恥さらしなマネが・・・]

 「この世に命より大切なものはない。生きていれば、生きていさえすれば必ずやり直せる。大切な命を守るために逃げることは恥でもなんでもない。お前は逃げなきゃいけなかったんだ」

 [ほざくなっ。下等な奴隷の分際で。貴様だけは絶対に許さん。いいことを教えてやろう。]

 「なに?」

 [このプラントの制御ユニットは私。この私自身が生体スイッチだ。私が死ねば、このプラントは制御不能となり暴走する。何もかも消えてなくなる]

 そう叫ぶと同時に、膨張する光に呑み込まれ、ヘハマの身体は消滅した。

 ブオオオオオオオォォォォォンっ。

 それと同時に、それまで規則正しく回転していた33枚のリングが、一斉にでたらめな方向に回転し始めた。

 そして、それに呼応するかのようにそれは起こった。

 リングの周りの空間が歪んでいくのだ。

 空間を浸食していくその歪みから、ディとハルムベルテは全速力で逃げていた。

「ディ。何が起きるんだ?」

『暴走だ。あのリングそのものが周りの空間ごと異次元にワープする。

 巻き込まれたらすぐには帰って来れないぞ』

 大気との摩擦で炎が飛び散るほどの速度で急降下しているにもかかわらず、空間を浸食する歪みはあっけなくカエデたちを追い越して行く。

 そして、全てが消えた。


                    


                          〈つつ゛く〉



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