最終話・夢から覚めて
劉備軍の張飛と俺の陣営のチャンフェイが戦い結果としては俺達が勝利した。
戦力さえ整えておけば負けないのがソシャゲの戦闘というものだから当然ではあるな。
「はっはっは、私の偽物も倒しましたし、先に進み劉備を倒しましょう」
チャンフェイがそういうがどうも俺は違和感を禁じ得なかった。
「お前さんの主君は本当はその劉備じゃなかったっけ?」
チャンフェイは笑いながら言う。
「いえ、私の主はあなた様だけでございますよ」
うん、ゲームとしてはそれは正しいのだろうけど何かがおかしいんだよな。
あらゆる面で清潔すぎる世界、働かなくても衣食住の揃った世界、適当に中だるみしない程度に揃えられて倒されていく”敵”の存在、俺にとってこの世界はあまりにも都合が良すぎないだろうか。
いや、そもそもゲームというのはそういう世界ではあるのだろうけども。
ソシャゲだと課金やランキングのせいで競争が煽られる部分もあるけど、ドラクエみたいなRPGというのはある程度時間をかければ失敗せずに達成感や全能感を得られる存在であるように思う。
何らかの行動を行えば基本的にはそれが必ず成功して成果と優越感を得られる世界。
コンシューマゲームの世界と言うのはそういうものだったように思うのだ。
チャンフェイが首を傾げながら俺に聞いてきた。
「我が君?いったい何が不満なのでしょうか?」
その言葉に俺は首を振る。
「いや、別に不満があるわけじゃないんだ。
むしろ不満が一切なくて快適すぎる。
ただ、この世界は俺に都合が良すぎると思うだけだ」
チャンフェイは俺の言葉を聞いて首を傾げた。
「それではよろしくないと?」
「いや、悪いことはないんだがやっぱり不自然だろ」
「不自然でございますか」
「ああ、世界ってそんなに優しいわけじゃないはずなんだよ」
「なるほど、そういうものかもしれませんな。
誠に残念なことでございます」
「それは一体どうういう意味だ?」
「残念ながらあなたをこの世界に引き込むことが
できなかったようですゆえ」
そういうチャンフェイは何か寂しげだった。
「それではお渡れでございます、我が主」
俺の意識は急激に遠くなっていった。
・・・・
目が覚めるとそこは清潔な病室のベッドの上だった。
「……ここは?」
「ああ、よかった気がついたのね」
俺の顔を覗き込んでいるのは……母さん?。
「母さん、一体何が?」
「それはね……」
どうやら俺は通勤中に交通事故にあったらしい。
俺は信号が青になってからスクーターを発信させたのだがそこに横からライトバンが突っ込んできて俺はスクーターごと吹き飛ばされ、ヘルメットをかぶっていなければ即死していただろうとのことだった。
最も相手側も居眠り運転で俺をはねとょばした後電柱に突っ込んで重体を負ったたらしい。
幸い相手側の保険で俺の医療費とかは支払えていたらしいので借金とかの心配はしなくてもいいらしい。
相手側の方は知らんけど。
俺が被害者になった交通事故の記事が乗った新聞を読むと自己を起こした相手は長谷川祥之という名前だったらしい、もしかして”よしくん”はこいつかな?。
そして事故の後半年くらい寝たきりになっていた俺は当然筋力が落ちて歩くこともままならない状態であったの歩くためにリハビリをしなければならなかった。
「うく……やっぱ現実は甘くないよな」
リハビリはきつい、そして運動能力を完全に取り戻すのはおそらく無理だろう。
歩くことはできても走ることはもうできないだろうな。
四肢を欠損したり麻痺して動かなくなったりしなかっただけ良かったとも思うが。
あの世界、清潔で、何もせずに衣食住の揃った世界は一体何だったのだろう。
俺の願望を繁栄した夢だったのだろうか?
それとも良くあるネット小説のように死にかけた俺を神様が送り込んだ異世界だったのだろうか?
「いずれにせよ俺はあの世界から戻ってきたんだし
この世界も悪くはないさ」
目を覚まさずにあの世界にそのまま残っていたほうがきっとずっと楽であったろう。
でも、俺は戻ってきたし、もう一度行くこともできないだろう。
この世界が不便で望んだことが叶うことが少なくて悪意に満ちた世界であってもそれだけしかないわけじゃない。
だから自分なりに精一杯生きていけばいいんだ。




