12
「アリッサちゃん、どっか出かけるのかい?」
「え?」
「さっきお部屋へ行ったら、何かガサゴソ準備していたからね」
「ああ、なるほど」
「また、悪い奴をやっつけに行くのね?」
「そうなんです。偉い人に頼まれて、悪者を倒しに行くんですよ」
ヒルダから、この件については、決して口外しないようにと強く言われていたので、事件の内容について話す事は当然できない。結果、ブランの言い回しは、童話じみたものになってしまった。
「また、ブランちゃんも一緒に行くんだろ?」
「え?そう…ですけど。何でわかったんですか?」
「そりゃ、アリッサちゃんがルンルンしてたからよ」
ブランには、あのふてぶてしい女性と「ルンルン」が、どうしても結びつかない。
「いや、僕が行こうが行くまいが、アリッサさんにとっては、たいした問題ではないと思いますよ」
「そんなことないわ」
ドロシーは、おだやかに微笑んだ。
「一見…って言っても、あたしは見えないんだけど。一見、ぶっきらぼうな態度をとるけど、アリッサちゃんは、とってもブランちゃんのことを頼りにしていると思うわよ」
「そうでしょうか?アリッサさん、とても元気だから、食事介助や入浴介助も必要ないですし、収入まで安定してるから、新人の僕の出る幕なんて完全にない気がするんですが」
ブランの悩みというのは、アリッサに迷惑をかけられることよりもむしろ、自分など、アリッサにとって必要ないのではないか、というものなのかもしれない。
「そうじゃなくて、気持ちの話よ」
「気持ちですか…」
それはなおさら、ブランには理解できなかった。 あの唯我独尊の道を行くアリッサに、自分はもとより、誰かに頼る、などということがあるのだろうか。
そんなブランの気持ちを察したかのように、ドロシーが言葉を紡ぐ。
「ブランちゃん。年をとるとね、どんなに強がっていても、心のどこかで、誰かにしがみつきたくなってしまうものなの。例え、どれだけ偉くても、お金があったとしてもね」
「う〜ん」
ブランは何とも言えない顔になる。ドロシーの言葉を飲み込みたいが、飲み込み方がわからないというかのようだ。