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「施設長?さっき施設長会に行ったよ。今日は戻らないって」
「わぁ!!」
事務室にいた先輩介護士のフリントの言葉に、ブランは思わず悲鳴をあげた。元々あった会議ではあるのだが、体よく逃げられた感はいなめない。
「なんだよ〜」
仕方なくブランは、事務室で伝達ノートを読むと、今日の当番であるレクリエーション室の掃除に向かった。
「ブランちゃん」
ストレス解消の意味もこめて、一心不乱に部屋の掃除をしていたブランは、急に声をかけられて驚いた。振り返ると、入口のところにドロシーが立っていた。
ドロシーは、アリッサの隣の居室に住む背の小さな老女である。若草色の簡素なワンピースを身につけ、目が不自由なため、片手に杖を持っている。
「ちょっと折り紙をもらいに来たんだけど、お掃除中だったみたいね」
ドロシーは、申し訳なさそうに微笑む。彼女は、アリッサと対照的に非常におだやかな性格で、ブランが廊下で会うと、よくあめ玉をくれたりする。
対極にいるゆえか、アリッサとは馬が合うようで、『太陽の家』の入居者の中では、アリッサと最も仲の良い人物である。
「大丈夫ですよ。ちょうど、一区切りついたとこですから」
ブランは、ドロシーを中へ招き入れる。
「今日は、何を折るんですか?」
「蛙ちゃんでも折ってみようかと思ってねえ」
「ドロシーさんは、本当に折り紙がうまいですよね。前にもらった、ユニコーンの折り紙、今も事務室の机に飾ってありますよ」
「まあ、うれしい!!ブランちゃんはやさしいのねえ」
ドロシーと話しているうちに、くさくさしていたブランの気持ちは、次第にほぐれていった。