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3. 第一王子


 ――私、ここでやっていけるのかしら。


 そんな不安を抱えたまま、次の瞬間。


 コンコン、と扉が軽くノックされる。


 今度は三回ではなく、二回。


 けれど、部屋の空気が一変した。


 さっきまで騒がしかった双子も、レビンも、ぴたりと動きを止める。


 セブルスさんがすっと背筋を伸ばし、静かに扉へと向かう。


 そして、恭しく扉を開いた。


「――お待たせ。」


 現れたのは、一人の少年。


 柔らかく揺れる淡い金の髪に、透き通るような翠の瞳。


 まだ10歳であるはずなのに、その佇まいはどこか完成されている。


 けれど同時に――どこか“危うい”。


 空気が、微かに揺らいだ気がした。


「第一王子、アルノルト・ロアニルダ様にございます。」


 セブルスさんの紹介に、私は慌てて頭を下げる。


「リーナ・トワイデルと申します。本日よりお仕えさせていただきます。」


「うん、よろしく。そんなに固くならなくていいよ。」


 軽やかな声。


 顔を上げると、彼はくすっと楽しそうに笑っていた。


「……へぇ。」


 じっと、見られる。


 その視線に、不思議と息が詰まりそうになる。


「面白そうな子が来たね。」


「“面白そう”はやめてくださいませ、殿下。新人が怯えます。」


「えー?だって事実でしょ、セレン。」


「否定はいたしませんが。」


「お前らな……」


 いつの間にか、またいつもの空気に戻っている。




「今回はどれだけ持つかな……。」


 アルノルト様が小さなため息とともにボソリと呟いた。



 その瞬間。


 ふわり、と。


 空気が歪んだ。


「っ……!」


 肌が粟立つ。


 目には見えないのに、“何か”が溢れているのが分かる。



 ――魔力?



 しかも、尋常じゃない量の。


 アルノルト様が、少しだけ困ったように笑う。


「殿下!」


 低く鋭い声で言ったのはラディウス様だった。


 同時に、すっとアルノルト様の前に立つ。


「ごめんごめん。自分でもいつ来るか分からなくて……。」


「そうですけど……。」


「大げさだなぁ。」


 軽く言うけれど、


 ラディウス様も、双子も、レビンも――


 全員の視線が、一気に鋭くなっていた。


 さっきまでの緩さが嘘みたいに消えている。


 私は、ただ立ち尽くすことしかできない。



 ――これが、“危うさ”の要因?



 そう思った瞬間。


 ふわり、と。


 その圧が、少しだけ和らいだ。


「……あれ?」


 自然と、手が伸びていた。


 自分でも理由は分からない。


 けれど、アルノルト様の周りに溢れていた“揺らぎ”が――


 まるで落ち着くように、静まっていく。




「……え?」


 アルノルト様が、目を見開いた。


 周囲の空気も、一瞬で凍りつく。


「……おい。」


 レビンが低く呟く。


「何した?」


「え、いや、私……何も……」


 本当に、何もしていない。


 ただ、触れただけで――





「「……リーナちゃん、すごいわ!!」」

「……お前すげえな!」

 

「うわっ、レビンと被るなんて最悪ですわ!」

「そうよ、そうよ!レビンは黙ってなさい!」


「はぁ〜?お前たちだって被ってるじゃねぇか!!」


「私たちは双子ですもの。」

「「ねぇー!!」」


 またもや喧嘩をし始める双子とレビン。


 王子は目を丸くして、自分の手を軽く握っている。

 



「リーナ様、少しよろしいでしょうか。」


 セブルスさんの声がやけに真剣だ。


「はい……?」


「第一王子殿下の“秘密”についてです。」


「“秘密”?」


「優秀なリーナ様はすでにお気づきかと思いますが、アルノルト様は魔力量が非常に多いのです。

 しかし、それが故にコントロールが難しい。


 先程のように魔力暴走とまではいきませんが魔力の揺らぎで周りに影響を及ぼしてしまうことも多々あります。

リーナ様は現在の王族の権力構成をご存知でしょうか?」


「一般の知識程度しか……」


「ではご説明いたしましょう。

 現在の王はアルノルト様のお祖父様、王太子はお父様でございます。

 実は一年ほど前から王は体調を崩されていまして、近々王太子様に王座を譲る方針となっているのですが……


 ここで問題となってくるのは継承権争いです。


 先王の妾が産んだ王弟殿下をご存知でしょうか?

 現王とは20ほども離れている王弟殿下は、現在王位継承権第二位です。


 王太子様が王となった場合、必然的にアルノルト様は第一継承権を獲得することになります。


 すると、王弟殿下は継承権を失ってしまう。

 以前から王太子殿下と対立関係にありましたが、アルノルト様が誕生されてからはその関係が激化しております。


 アルノルト様は暗殺を図られ、命の危機に晒されたこともありました。


 このような状況下で“魔力のコントロールの不可”。


 いくら魔力量が多いとあっても破滅の危険があるというのは不利になってしまうのです。


 王弟殿下は闇組織との関わりが深く、国内外にその仲間を増やし続けています。王弟殿下に知られた時には、王国を巻き込んだ争いが発生してしまうでしょう。


――誰にも知られてはならない。


アルノルト様が力を抑えられるまで、決して漏らしてはならないのです。」


 ここまで説明すると息をふぅと吐いて、今までの真剣な眼差しを和らげて、瞳をうるうるさせる。


 何故だろうすごく嫌な予感がする。


 ――いや、嫌な予感しかしない。


 


「リーナ様には地の魔法の教師とお伝えしておりましたが……リーナ様には、殿下の“専属の教師”としてお側に付いていただきます。」


「……はい?」


「教師はリーナ様のみでございます。なお、人手不足のため、掃除・洗濯・書類整理・給仕・護衛補助なども兼任となります。」


「多くないですか!?」


 つい、ツッコミを入れてしまうとセブルスさんは膝を床につき、悲しげな瞳で私を見上げてくる。

 

「リーナ様。どうか、どうか引き受けてくださいませんか?

 人手が全くと言っていいほどないのです。

 第一王子殿下の秘密を知る者は極々一部の限られたものだけに絞っています。


 王城内を広く行き来するメイドたちは噂の広がりも早いので雇えないのです。


 それに、魔力暴走した際に察される可能性もあるため、文官たちも出入りしていないのです。


リーナ様は学園でもかなり優秀な方とお聞きしました。

 そして、このきちがい人間たちの中で唯一の常識人!!

 どうか女神様と呼ぶお許しを。」


 手を合わせ、土下座しそうな予備の作動さをし始めるセブルスさんに、慌てて声をかける。


「あわわ、セブルスさん!顔を上げて、早く立ってください!!

 ひ、引き受けますから、そんなことしないで!!」


「引き受けてくださるのですか?!」


 了承した途端に瞳の中に潤っていた涙を引っ込め、素早く立ち上がるセブルスさん。


 ――あぁ、言ってしまった……


 私の思い描いていた平凡から遠ざかっていく。


 逃げ場はもうない。

 ゆっくりと、現実を噛みしめながら――


 心の中で、もう一度だけ呟いた。


 ――やっぱり私、ここでやっていける気がしない。

 

大騒ぎしている双子とレビン、それに便乗する王子、胃を抑えているセブルス。

 

 そんなみんなを見ている私は気づかなかった。




 


「ふーん、“何もしてない”……ね。」


 ――天使の微笑みに潜んだ悪魔を――

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