面倒な依頼⑦
おれはダンジョンにおれの部屋への扉を創ると、さっさと中に入った。
「カトリーヌ。戻ったぞ。妙薬エリクサーも手に入れた。」
「ほ、本当ですか⁉ オレ様!」
「神様。おかえりなさい。」
「げっ。渚⁉」
部屋に帰ったおれをカトリーヌと渚が出迎える。
「渚、帰ってたのかよ。」
「はい。神様はどちらにお出かけで?」
「いや、ちょっとクエストでダンジョンにな……。」
渚がいないうちにカトリーヌを連れて帰る作戦だったのに、想定外に時間がかかったせいで渚が戻ってきてしまった。おれがダンジョンに入ってからいったいどれくらい経った? まだ半日も経ってないと思うんだが。まあ、しょうがないな。それより今はクエストだ。カトリーヌに妙薬エリクサーを渡して街に帰れば達成のはずだ。
「渚、説明は後にさせてもらうぞ。それより、カトリーヌ。これが妙薬エリクサーだ。確認してくれ。」
おれはおれが創った妙薬エリクサーをカトリーヌに手渡した。
カトリーヌがじっと妙薬エリクサーを見つめる。
「どうだ?」
そういや、これが本物だってことは鑑定魔法があるおれにはわかるが、カトリーヌにもちゃんとわかるだろうか? カトリーヌはついさっき偽物を掴まされそうになったばかりだ。もしかしたらおれのことも疑うかもしれない。
だが、おれが渡した妙薬エリクサーはカトリーヌの手の中で確かに神秘的な存在感を放っていた。ジャスが持っていた偽物とは明らかに違う。
「……ありがとうございます……オレ様……。」
カトリーヌの目から涙がこぼれた。
「え⁉ どうした、カトリーヌ?」
「……正直に言うと、ジャスが用意したというエリクサーは、偽物の可能性が高いと思っていました……。エリクサーは伝説の中だけで、誰も手に入れたことがない幻のアイテムです……。私は母のため、ワラにもすがるほど必死でした……。」
涙で濡れたカトリーヌがおれの目を見て微笑む。
「ですが、あなたは本物を持ってきてくれた……。私にもわかります。これが本物のエリクサーだって。……オレ様。あなたは本当に神様なのですね……。」
「ああ? そう言っただろ?」
「はい……!」
おれとカトリーヌは少しの時間、見つめ合った。
あれ? もしかしてこれ、いけるんじゃねえか?
目をうるませて頬を赤く染め、唇を震わせる金髪の美女。そして胸が大きい。おれの手の届く距離にいる。ここはおれの部屋だ。ベッドもあるし、布団もある……。
「神様。カトリーヌさんはお帰りの時間ではないですか?」
「……渚。」
いや、渚がいるんだった。
それに下手を打って依頼主のカトリーヌに嫌われてクエスト失敗なんてことになったら、ここまでの苦労が水の泡だ。あぶねえぜ。また失敗するところだった。
「そうだな。カトリーヌ。急いだ方がいい。家まで送るか? それとも冒険者ギルドでいいか?」
「……はい。冒険者ギルドで大丈夫です。オレ様。」
自分で涙を拭って笑うカトリーヌの笑顔は晴れやかだ。
「じゃあ扉を繋げるぞ。」
おれは冒険者ギルドに部屋の扉を繋げた。
扉に手をかけ、ふとおれは思い出してカトリーヌに言った。
「そうだ。カトリーヌ。この部屋で見たことは誰にも言うなよ。」
「はい。オレ様。」
まあどれだけ意味があるかはわからんがカトリーヌに口止めはしておこう。今回のことで、おれが移動手段に扉を使ってるところまでは冒険者ギルドにいた連中にはバレただろうが。
おれが扉を開けると、そこは見慣れたいつもの冒険者ギルドだった。
カトリーヌが扉から外に出たとたん、身なりの整った白髪のおっさんが走り寄ってくる。どうやらカトリーヌの従者のようだな。ずっとここで待っていたのか?
「気をつけて帰れよ、カトリーヌ。」
「はい。オレ様も、どうか……。」
「ふっ。おれは神様だから大丈夫だ。」
「ふふっ。そうですね。」
まあ、これでおれがちゃんとクエストを達成したって伝わるだろう。
はあ……。本当に面倒な依頼だったぜ。
「ところで神様。先ほどの『げっ』とは何ですか?」
「渚。つい、声が出ただけだろうが。」
「カトリーヌさんのおっぱいが揉めなくて残念でしたね。部屋にまで入れたのに。」
「おい、おれはそんなつもりは全くなかったぞ?」
「でも、考えましたよね? 神様?」
「お前、またおれの心を読んだな?」
「読まなくても、神様の考えなんてわかりやすすぎですので。」
渚が宿へ帰る道でやたらとおれにつっかかる。
まあ、あの部屋はおれと渚だけの空間にするなんて言ってたのにカトリーヌを入れちまったからな。クエスト達成に必要だったとはいえ。
「それならこれをやるよ。」
おれは渚に一本の瓶を手渡した。
「なんですか、これ。」
「おれが創るのに失敗したエリクサーだ。本物はカトリーヌに渡した。だがそれだってそれなりの効果はあるはずだぞ。おれが創ったんだからな。」
「……ありがとうございます。神様。」
こうやって日の光の下で見ると失敗作でも綺麗じゃねえか?
一瞬、フッと渚が笑った気がした。
「あ〜! カミサマ! ナギサさん! おかえり!」
宿につくと、おれを見るなりアンナが大きく手を振った。
「お、アンナ? どうした?」
「なんか、今日ヘンリーさんが来てカミサマのこと探してたよ? 他にもいろいろ聞かれたりして。あとカトリーヌ様を見てないかって。……何かあったの?」
「ああ。そのことならさっき解決した。問題ない。」
アンナ可愛いぜ。おれの心配をしてくれたのか。
おれはアンナの目を見て手を握った。柔らかい手だ。
「え? え? カミサマ?」
「アンナに渡したいものがある。」
おれは王都で買ったネックレスを出してアンナの手のひらの中に入れた。
「ちょっとクエストで遠くまで行ったんでな。土産だ。」
「……! あ、ありがとう、カミサマ……!」
さっそくアンナがネックレスを自分の首につけようと手を後ろに回す。なんか慣れてない感じがいいな。
「うはは。どう、カミサマ? 似合うかな?」
「似合うぞ、アンナ。」
「えへへ。」
アンナが照れてるのか、はにかむように笑う。
いつの間にか渚の姿はなかった。




