092.精霊術士と仲間の力
僕は精霊憑依を使った。
精霊憑依は、僕に絶大な戦闘力を与えてくれる唯一無二の手段。
その力を振るえば、たいていの魔物は撃退することができる。
だが、今回の敵は、ダンジョンボス。しかも、タフネスに優れたドラゴン族の中でも、最高位に位置する存在だ。
いくら精霊憑依の力を振るおうとも、時間制限のある中で、奴を仕留められるとは、僕は最初から思ってはいなかった。
僕がやるべきことは、最初から"活路を開くこと"。
だから、今、魔力を全て失い、地面に立つのがやっとの状態なのも、想定の範囲内だ。
僕が消耗した分、奴も角の1本を失い、もう雷を制御できない。
残る2本の角にもそれぞれ罅が入っている。
さあ、あとは……。
「任せたよ。みんな」
そう、最後方でのサポートという禁を破った僕ではあるが、仲間達が全力で力を振るえるようにするという精霊術士の戦い方の本質は破っていない。
回避不能の攻撃を失った奴ならば、仲間達は、それを警戒せずに攻撃に全てのリソースを割くことができる。
チェルとセシリアさんは、僕を守るように立ち塞がると、振り下ろされた足に向かって、全力の攻撃を放った。
爆砕の魔力の籠もった魔法剣と闘気の籠もった槍。それぞれの攻撃は、踏み出した奴の脚の裏で、豪快な音を立てて炸裂した。
自身の体長のより遥かに小さな2人の女の子の攻撃に、ドラゴンの巨体が、徐々に傾いていく。
「ギィギャアアアアアアアアアア!!!」
さらに、体勢を立て直そうと踏み込んだ足の下から、大地がまるで壁のようにそそり立つ。
コロモのアースウォールだ。
平坦だった大地にいきなり現れた土の柱に足を取られ、ドラゴンの身体についに土がついた。
追撃を仕掛けにかかるチェルとセシリアさん。
それと同時に、僕は、びしょ濡れの両腕に抱きしめられた。
「30秒下さい!!」
僕を抱きしめた人物──エリゼは、力強くそう言った。
それだけで意図を察する仲間達。
エリゼのバフが一時中断した中でも、攻撃陣は体勢を崩したドラゴンに次々を攻撃を加えていく。
1本角を失ったことで、どうやら奴の身体を覆っていた魔力の膜とでもいった防御壁も弱化しているらしい。
仲間達の追撃に、ドラゴンが苦しそうな叫び声を上げる。
だが、さすがは特級ダンジョンのボスといったところか。
やがて、仲間達を振りほどいて強引に立ち上がると、首やしっぽを物凄い勢いで振り回し始めた。
氷炎の魔竜との戦いでも見た、ボスの恐慌状態。
凶暴性が増し、下手をすると、一撃でやられてしまいかねない状態。
だが、同時に、それだけ追い詰められているという証左でもある。
「ノエル!!」
「うん!!」
エリゼの腕が、僕から離れる。
ほんの30秒ほどの間に、最低限、僕の魔力が回復していた。
これなら、十分にアリエルに魔力を食わせることができる。
だが、精霊憑依を使って疲弊するのは、僕だけじゃない。アリエルもだ。
彼女に最後の力を振り絞ってもらうために、僕は、口を開いた。
紡いだのは歌。
彼女が大好きな、僕達の歌。
同時に、仲間達も一斉に歌い出す。
極光の歌姫だけに可能な、歌による精霊の鼓舞。
疲弊していたアリエルが、徐々に元気を取り戻す。
そして、アリエルが復調していくにつれ、全員の身体に、確かな力が満ち満ちていった。
「ファイヤーボール!!」
コロモが残り全ての魔法力を込めた火球を放った。
恐慌状態のドラゴンに直撃したそれは、今度こそ、奴の硬い鱗を緋色に染め上げる。
悲鳴を上げる最中、チェルとセシリアさんが飛び上がった。
狙うは、罅の入った2つの角。
「魔法剣"爆砕"!!」
「闘気解放! 螺旋穿孔!!」
火球で動きを止めたドラゴンの両の角に、2人の攻撃がクリティカルヒットした。
圧倒的な硬さを誇る、ドラゴンの角。
だが、アリエルの全力のバフを受けた2人の技の前に、その角は、脆くも崩れ去った。
「ギィギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
今度こそ、これまでで一番の絶叫を上げ、ドラゴンはその場へと倒れ伏せた。
角は魔力の源だ。
3つの角、すべてを失ったドラゴンは、それきり起き上がることはなく、やがて、光の粒となって宙へと溶けていった。
雨が止んだ。そして、空を覆っていた厚い暗雲が、にわかに晴れていく。
雨上がりの空には、一筋の虹がまるで、僕達の勝利を讃えるように架かっていた。
「なるほどね。天空の架橋の由来ってわけか……」
「最高の背景じゃないの。さあ、みんな」
チェルが、予備の魔動カメラを放り上げながら、言った。
「初の特級ダンジョンでの撃破ライブ! 楽しみましょう!!」
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