083.精霊術士、大賢者と出会う
ライブが終わった翌日。
日々のルーティーンをこなしつつもチェルは、まだ、次に攻略するダンジョンについて悩んでいるようだった。
上級ダンジョンまでであれば、それなりに攻略情報というのが、冒険者の間でも出回っているものだが、特級ダンジョンとなると、その情報は極端に少なくなる。
何せ、攻略に成功した冒険者の母数が少なすぎるのだ。
7つある特級ダンジョンは、全て冒険者によって踏破済みではあるものの、攻略情報と言うのは難易度の高いダンジョンほど価値があるものであり、積極的にダンジョンについての情報を開示しているパーティーはそれほどいない。
映像水晶の映像として記録が残っているものもほとんど存在せず、決め手となる情報に欠けているのは否めなかった。
こういうところは、新進気鋭であり、冒険者仲間というのがほとんどいない極光の歌姫の弱点とも言える部分であった。
そんな悶々とした時間が過ぎていく中、ある日、唐突にとある人物が事務所へとやってきた。
「お久しぶりですね。皆さん」
「えっ!? カングゥさん……?」
そう、それは、僕達との激しい攻略勝負を行った、あの呪術師、カングゥさんだった。
「お久しぶりって……。まだ、あれから、ひと月しか経ってないんだけど」
「こちらも色々ありましてね。今日は、用事があってきたのですよ。あっ、マネージャー、お茶いただけます?」
「てめぇ、くつろぎすぎだろ……」
家主のように、ソファに腰掛けるカングゥさん。
なんというか、最初にやってきたときの、あの只者ではない感じはどこへやら、といったところだ。
「で、用件は? まさか、侯爵様の説得に失敗したとか言うんじゃないでしょうね」
「いえいえ、そこは口八丁手八丁といったところで、なんとかあなたの冒険者活動は認めてもらえましたよ。まあ、本当はちょっと危なかったんですが、思わぬ手助けもありましてね」
「思わぬ手助け?」
「ええ、それが今日来た理由でもあるんですが……。実はあなた達に、会いたいと言っている人物がいるんですよ。ほら、入って来てOKですよ」
そう言って、カングゥさんが合図をすると、一人の少女が扉を開けて、事務所の中へと入ってきた。
幅広の魔女帽をかぶった、ほんの小さな少女。年齢は、せいぜい12,3歳といったところだろうか。
顔立ちは幼いが、将来は絶対に美人になるであろう整いっぷりだ。
色が抜け落ちたかのような真っ白い髪が、魔女のような服装に良く映えている。
その姿を見た途端、ガバッと立ち上がった人物がいた。
セシリアさんだ。
普段の冷静沈着な顔に、わずかばかりの驚きをにじませた彼女は言った。
「叔母様……!」
「えっ!?」
叔母様? この小さな女の子が、セシリアさんの叔母さんだって……?
少女の方は、無表情を崩さずに、こくりと頷いた。
「リア。久しゅう」
「なぜ、ここに……」
「あんたらに会いに来た」
少女は軽く会釈をするとこう言った。
「うちの名前は、メロキュア。元漆黒の十字軍の大賢者で、リアの叔母や」
独特のイントネーションで話す、どう見ても、まだ10代前半にしか見えない少女、メロキュア。
だが、彼女は、その見た目に反して、王都で確固たる地位を築いている大賢者であり、現在は、王室直属の研究施設で、室長を務めているらしい。
しかも、セシリアさんの叔母……いや、年齢的に、とてもそうは見えないのだが。
「リアの仲間、極光の歌姫。うちは、直接君らに会いたくて、カングゥに仲介してもろたんや」
「なんで僕らに……?」
「君らは、うちにとって、興味深い観察対象やったからや。元暁の翼のノル」
「えっ……!?」
この人、僕の事を知ってる……?
「うちにも精霊が見えるからな。同じ精霊を連れて、同じ戦い方をする人間を見たら、同一人物やと思うのも当然やろ」
「メロキュアから聞いた時は驚きましたよ。ノエルさん。あなたが、まさか、暁の翼のノルだったなんてね。完全に女の子だと思っていました」
「あ、いや、すみません。だますような形になってしまって……」
「構いませんよ。性別なんて、些細な問題です。あなたが優秀な精霊術士であることには、変わりありませんからね。もっとも、あの勇者リオンの事を考えると、心中複雑ではありますが……」
「何か言いました?」
「いえ、気づいていないなら、そのままの方が良いかもしれません」
「?」
ごほんと、咳払いすると、カングゥさんは仕切り直すように、口を開く。
「実は、侯爵様の説得に力を貸してくれたのは、このメロキュアなのですよ。彼女は、君達に聖塔を攻略してもらうことの有用性を侯爵様に示してくれたのです」
「どういうことですか……?」
「うちは、君達が、この世で唯一聖塔を攻略できる可能性があるパーティーやと思うとる」
メロキュアさんは、無表情ながらも、断固として口調でそう言った。
「だから、あの豚親父を説得した」
「えーと……」
「叔母様、相変わらず、言葉が足りていませんよ」
セシリアさんが、そう言うと、一瞬、思案深げに首を傾げたメロキュアさんは、ぽんと手を叩いた。
「少しだけ長い話になる。それでもええか?」
メロキュアさんの問いに、僕達は深く頷いた。
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