084.精霊術士と3つの条件
かつて、最強の冒険者パーティーと呼ばれた"漆黒の十字軍"。
彼らは、かの7つの特級ダンジョンの全てを攻略し、いよいよ聖塔へとチャレンジをした。
入念な準備を整え、挑戦した聖塔の攻略、しかし、彼らはその頂までたどり着くことができなかった。
「うちらが攻略できたのは全60層のうちの50層まで。そこには、大きな壁があったんや」
「大きな壁?」
「ああ。少なくとも、当時のうちら……いや、どんなパーティーにも、それは超えられそうもない壁やった」
その壁のせいで、残る10層の攻略を断念せねばならなかったメロキュアさん達。
やがて、剣聖ユリアと守護騎士ジニアスが結ばれ、2人が子どもを授かると、パーティーは解散という流れになったそうだ。
メロキュアさんにも、他にやりたいことがあり、族長への就任の話も出ていたクーリエさんも含めて、解散するにはこのタイミングしかないだろうということだった。
「もっとも、カングゥには悪いことしたかもしれんけど」
「未練が無かったと言えば嘘になりますがね。とはいえ、十分過ぎるほどに、みんなからは、充実した時間をいただけましたので」
「そう? そやったらええけど」
「それよりも、話の続きを」
「あー、すまん」
さて、メロキュアさん達は、50層で攻略を断念したものの、得たものもあった。
それは、50層のボスを倒したときに現れた宝箱に入っていたものだ。
純粋水晶というらしい。魔力によって、様々な機能を付与することができる万能水晶。
このユニークアイテムを持ち帰り、解析したことで、メロキュアさんは、人々の生活を大きく変えるとある魔道具を作り出した。
「もしかして、映像水晶……ですか?」
「そうや。あれは、うちが開発した」
映像水晶が普及し出したのは10年ほど前。
ちょうど、メロキュアさん達が攻略を断念した時期とも符合する。でたらめではないだろう。
まさか、映像水晶を作った本人に会えるなんて、思っても見なかった。
映像水晶だけじゃない。おそらく、音響水晶や魔力通信機などを開発したのも、彼女に違いない。
王都の研究施設の室長だとは聞いていたが、それも納得できるほど、ものすごい功績だ。
「うちが映像水晶や音響水晶を作ったんは、いろんな理由があるけども、その一つは聖塔攻略への布石や。いずれ、再び、聖塔の頂に挑戦する者が現れたとき、必要になるものやと踏んだからや。だから、うちは、その場では素直に冒険者から身を退いた」
「どういう……ことですか?」
「これ以上を話すのは、こっちとしてもリスクを伴う。それほど、聖塔の存在そのものに関わる事実やからや」
「な、なんだか、話がよくわからなくなってきました……」
「もしかして、その壁っていうのは、あの冒険日誌にも書いていた。"女神からの試し"というものですか?」
攻略勝負の後、カングゥさんから受け取った冒険日誌。
そこの50層の記述には、ボスの詳細についてのことしか書かれてはいなかった。
しかし、その次のページ、日誌の最後には、こう書かれていたのだ。
『"女神からの試し"は何者にも超えることはできない。だから、我々は、聖塔の攻略を断念した』
と。
「グゥ……。もしかして、あれ、すでに渡したんか?」
「ええ、僕から見れば、彼らは十分聖塔に挑戦する実力があると見えたものですから」
「……ふぅ、そやったら話は早い。その"女神からの試し"の詳細と攻略法、うちは、この10年で、それなりの結論に至った。それを君らに伝えてもええ」
「ほ、本当ですか!?」
聖塔の50層以降に存在するという大きな試練、そして、その試練を乗り越えるために、大賢者が10年をかけて考え出した攻略法。
もし、その事実を知ることができたならば、聖塔の完全攻略への道が大きく開けるのは間違いない。
「ただし、条件がある」
メロキュアさんが、僕らの前で、3本の指を立てた。
「これからうちが提示する3つの条件、それを全て飲み込むことができたなら、うちは自分の全てをかけて、あんたらの聖塔攻略に手を貸す」
「そ、その条件って……」
「1つ目は、あんたらの冒険者とは別の顔、アイドル活動を続けることや」
アイドル活動を続けること。それが聖塔攻略とどうつながるだろうか……?
疑問は残るが、そもそも、僕らは、アイドル活動を止める気などないので、この条件は簡単に満たせる。
「言われるまでもないわ」
「2つ目は、特級ダンジョンの1つ、天空の架橋を攻略すること」
天空の架橋……チェルが候補に挙げた3つの特級ダンジョンのうちの1つだ。
確か、攻略にかなりの時間を要するダンジョンだったはず。
リスクはあるが、元々候補だったこともあり、この条件を飲むことも問題はないだろう。
「それも、飲めるわ」
「3つ目、この条件が最も難しい」
「前置きはいいから、教えて」
「最後の条件……それは、とあるアイテムを手に入れ、こちらに引き渡すことや」
「そのとあるアイテムって……」
メロキュアは、一度深く目を閉じると、カッと見開きながら言った。
「そのアイテムの名は、"人魚の肉"。不老不死を齎す、究極のアイテムの1つや!!」
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