064.勇者パーティー、火山の主と戦う
岩場から洞窟を抜け、山頂へと続く山道を登っていく。
攻略はそれなりに順調だ。
リオンを含む暁の翼の面々の能力は、所詮コピー。それゆえ、当時の漆黒の十字軍そのものとまではなかなかいかないが、それでも、このダンジョンの魔物達を駆逐する程度ならわけなかった。
クーリエの調子もすこぶる良いようで、連戦が続いても、動きのキレが鈍ることもない。
私の呪力にも、まだ、十分余力があり、この分だと、ボスフロアへの到達もそう時間はかからない。
「とはいえ、さすがに上級の中でも、かなり上位に位置するダンジョンではありますね」
「あれれぇ、ちょっと弱気?」
「まさか。心配しているのは、彼らの耐久度ですよ」
人の魂を宿された肉体には、大きな負担がかかる。
これまでかなりの戦闘回数を経たことで、限界に差し掛かりつつある肉体は、徐々に動きの精彩を欠き始めていた。
「情けないなぁ」
「取り立てて優秀な素体というわけでもないですからね」
もっとも勇者リオンだけは、万全の状態であれば、それなりに使える素体だっただろう。
ただし、心神喪失に近い状態にあった彼は、肉体的にも大きく疲弊していた。
「10分だけ小休止と行きましょう」
「グゥってば、相変わらず優しいねぇ。いいの? スピード勝負でしょ?」
「急いては事を仕損じる、ですよ」
それに、ここまでの攻略進度を考えれば、この程度の小休止ならば、問題にはならない。
この後のボスに、万全の態勢で挑むためにも、必要な休息は取っておくべきだった。
「クーリエ、あなた甘党だったでしょう。お饅頭食べますか?」
「食べるぅ!! 用意良いなぁ!!」
もぐもぐとお饅頭を咀嚼するクーリエの笑顔を眺めながら、自身も水分補給をしておく。
なにせ、このダンジョンは暑い。脱水症状を避ける意味でも、しっかり水分を摂っておかねば。
本人の魂が表面に出ていない彼らにも、水筒から水を飲ませた。
「けど、やっぱり楽しいなぁ!!」
「ダンジョン攻略ですか?」
「うん! ひっさしぶりにやってみるとさ。なんだか懐かしい気分になっちゃう」
「そうですね」
私自身、久々のダンジョン、それも、かつての仲間との攻略に、確かな高揚感を感じていた。
あの時、みんなで話し合って決めた冒険者引退。その決断については、後悔していない。
でも、こうやって、改めてダンジョン攻略をしてみると、少しだけ未練が湧いてしまう自分もいた。
けれど、もうあのメンバーが集まることはない。
剣聖ユリアと守護騎士ジニアスはすでに結婚して、2児の母と父だ。
大賢者メロキュアは、王都で研究者として確かな地位にある。
クーリエは白狼族の族長として忙しく、そう頻繁には、会えないし、かくいう私も、筆頭貴族である侯爵様の護衛役だ。
今はひと時の夢を見ているだけ。これが、終われば、また、元の退屈な生活に逆戻りだ。
だが、それも自分たちが選んだこと。
これは、彼女と共に、自分自身の冒険者への未練を絶つための攻略なのかもしれない。
「さて、そろそろ行くとしましょうか」
「うん! バッチリ回復できたしね!」
それから、休憩したのと同じくらいの時間、山肌を上り続け、やがて、私達は、山頂へとたどり着いた。
火口の中央、中ボスがいたマグマのエリアにも似た、円形のバトルステージに足を踏み入れた途端、重たい空気が身体にグッと伸し掛かった。
巨大な生物だけが持つ、圧倒的な"霊圧"とでもいうべきものが、首の後ろ辺りをピリピリと震えさせる。
このダンジョンのボス、それは……。
「うわぁ!! ドラゴンじゃん!!」
氷炎の魔竜。それがこのドラゴンにつけられた名称だ。
身体の中央から左側が氷、右側が炎としての性質を持っており、それぞれの魔力を持っている。
上級ダンジョンのボスとしては、1,2を争うほどの強敵であり、当然であるが、中ボスである氷鬼や炎鬼よりも圧倒的に強い。
飛翔する魔竜は、飛来するや否や、こちらに頭をもたげた。
「ブレスが来ますよ」
「氷、炎、どっち!?」
「出るまでわかりません。だから、どちらでもいけるよう対策します」
私は、大賢者メロキュアの魂を移植したメグへと指示を出す。
メロキュアは、歩く魔法辞典とも評されるほどの多種多様の魔法を使いこなす賢人だ。
そんな彼女の得意技は、瞬時の魔法属性の切り替え。
純粋な魔力だけを練っておき、発動する際に、属性だけを変更して放つことができる。
つまり、炎の魔法を出すと見せかけて、氷の魔法を出す、なんて芸当もできるわけであり、今回のように、相手の出方次第で、こちらの使う魔法を変更しなければいけない場合でも、その対処は容易だ。
魔竜が口を開く。口内に集中する魔力は……炎。
「氷魔法です!」
炎のブレスがこちらへと発射された瞬間、メロキュアは、氷魔法をぶつける。
激しい魔力と魔力のぶつかり合い。
おそらく、メロキュア本人であれば、押し勝つことができる。
だが、素体となったメグには、それほどの魔力はない。無理やりに引き出しても、せいぜい、本人の6から7割といったところか。
やや押し負けたところで、今度は守護騎士ジニアスが、光の盾を展開する。
あらゆる魔法攻撃を軽減する光の壁に阻まれ、かろうじて押し勝ったブレスも、完全にその勢いを削がれた。
その瞬間を狙って、ユリアとクーリエが飛びかかる。
同時に、私はデバフをかける。
さすがにドラゴン系のモンスターが相手では、デバフの通りも悪い。
それでも、防御力を下げるくらいのことはできる。
黒い靄のまとわりついたドラゴンに向けて、ユリアの剣とクーリエの拳が迫る。
しかし、ドラゴンはその大きな翼で、羽ばたくと、風圧で、2人を打ち落とした。
「さすがに一筋縄ではいかないねぇ!!」
「そのようです」
長期戦を覚悟した私は、ドラゴンの攻撃へと対処せんと、コピー達にそれぞれ指示を出したのであった。
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