065.精霊術士、ボスフロアに到達する
「よし、みんな、準備はいい!?」
「オッケーよ。ノエル!」
場所は、氷鬼と戦った渓谷。
体力と魔力を回復したチェルと僕は、仲間達と合流し、正規のルートへと戻って来ていた。
随分時間を使ってしまった僕達は、逆転を賭けて、最後の手段に出る。
全員で乗るのは、近くの氷を砕いて作った氷塊だ。
渓流の流れを逆走していけば、やがて、山道へとたどり着ける。
つまり、氷の上を氷で滑ることで、一気に移動しようという作戦だ。
その動力源となるのは、チェルの魔法と僕の精霊術。
「しっかり掴まってるのよ!!」
チェルが後方へと全力のフレアバーストを放つ。
爆発魔法による勢いで、僕らの乗った氷塊が渓谷の奥へ向けて、一気に滑り出した。
加速と微調整は、僕とアリエルの役割だ。
アリエルに指示を出しながら、制御できるギリギリのスピードで、凍り付いた渓流を上っていく。
「速い!! 速いです!! 師匠!!」
「わわわっ!!! ちょっと怖いかも!!!」
「エリゼ、私の手を握っていろ。振り落とされんようにな」
「このまま一気にいっけぇ!!!」
仲間達の声を聞きながら、僕はさらに氷塊を加速させる。
そうこうしている内に、渓流を上り切ると、湖へとたどり着く。
同時に、目の前に聳え立っていた山が、どんどん近づいてきた。
「や、山肌にぶつかっちゃいますよ!!」
「もういっちょ行くわよ!!」
2度目のフレアバーストで、氷塊ごと僕らは宙へと舞った。
大きく蛇行した山道は、さすがにこのまま滑って上ることは不可能。
ならば、僕らは、"空の道"を行く。
「コロモ!!」
「ファイヤーボール!!」
全力のファイヤーボールが、眼下に広がる湖へと叩き込まれた。
灼熱の火球に焼かれ、凍っていた湖が、一気に溶け出す。
もうもうと湯気が立ち上り、温められた空気が上昇気流を発生させるがそれだけでは、人が5人も乗った氷塊を浮き上がらせることは不可能、徐々に落下し始める。
しかし、それは想定内。
すでに、コロモは2発目のファイヤーボールを撃つ態勢に入っていた。
先ほどよりもさらに魔力を込めた一撃が、氷から水になりかけている湖へと叩き込まれる。
火球が水面と接触したその瞬間、巨大な爆発が巻き起こった。
水蒸気爆発というらしい。かつて、意思の疎通の難しいアリエルを理解しようと、自然の中で起こる現象を調べていたときに、たまたま知った。
水に、超高熱の物体を放り込むことで、発生する大規模な自然現象。
巨大な湖全体がはじけ飛んだかのような大爆発に、僕らの乗った氷塊が、ものすごい勢いで山頂に向かって、上昇していく。
「このまま行くよ!!」
アリエルで、進路を微妙に調整しながら、やがて僕らは山頂を飛び越えた。
大きく口を開けた火口付近が眼下に広がる。
そこには、炎と氷の羽根を羽ばたかせた巨大な魔物──ドラゴンの姿があった。
「あれが、このダンジョンのボス!」
「ああ、氷炎の魔竜だ!」
「見てください!! すでに、暁の翼が戦っています!!」
ドラゴンの吐く冷気のブレスを彼らが炎の魔法で捌いている姿が見えた。
しかし、ずっと空中に浮かんだままのドラゴンとの戦いに、なかなか有効打を与えられていないようだ。
攻略勝負の勝敗は、どちらがボスにトドメを刺せたかで決まる。
僕達にも、まだ、チャンスはある。
「魔竜はこちらに気づいていない。背中から一気に攻めて、まずは、あいつを地面に落とす!!」
「行くわよ。みんな!!」
チェルの激励に、残る4人が、それぞれの獲物を握る腕に力を込めた。
「ふぅ、さすがに、少ししんどくなってきましたね」
ドラゴンとの戦い。
ある程度、想定はしていたが、思った以上に、長期戦を強いられている。
ブレスへの警戒で、メロキュアの魔法を攻撃に使えないということが、戦闘を長引かせている一番の理由だった。
ドラゴンはずっと空中に浮かんでいる。
前衛陣も、散発的な攻撃を繰り返してはいるが、やはり真空波の類や拳圧だけでは、決定的なダメージにはならず、じわじわとこちらは消耗させられていた。
メロキュア本人であれば、ブレスの警戒をしながら、圧倒的な魔法力で、攻撃にも転じることができるだろうが、メグの肉体で、そんなことをすれば、彼女の身体が壊れてしまう。
だが、このまま戦闘を長引かせてもジリ貧だ。
メロキュアの戦線離脱を覚悟で、攻撃魔法を撃たせるべきか、と考えたその時だった。
火口の外側に爆風が吹き上がった。
同時に何か、氷の塊のようなものが、ドラゴンの遥か上空へと飛来する。
「あれは……?」
にわかに落下してくる氷塊には、人の陰が見える。
間違いない。あれは、極光の歌姫。
「さすが、破天荒な方法を取るものだ」
お嬢様のじゃじゃ馬っぷりに、呆れつつも、その行動力に多少の感嘆の念を抱く。
雪山という攻略に時間を取られる環境をこれだけの速度で進んできた彼女達は、確かに、名声にたがわぬ冒険者達かもしれない。
もっとも、だからと言って、チェルシアナの活動を認めるわけにはいかないが。
「いいでしょう。ドラゴンを地面に引きずり下ろす役割、あなた達に任せます」
魔竜へ全力のデバフを叩き込みながら、私は、落下の勢いのままに迫る彼女らを眺めたのだった。
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