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048.精霊術士とクラスチェンジ

 それから3日後のことだ。

 僕ら、極光の歌姫は、聖塔の南側に聳え立つ、教会へとやってきていた。

 白亜の聖塔の直下にあるだけあって、デザインラインなんかは、かなり寄せて作られている。

 初めて見た人は、もしかしたら、この教会の建物も聖塔の一部なんじゃないかと錯覚してしまうほどだ。

 そんな厳かな雰囲気の礼拝堂の中、レッドカーペットの上を今日の主役である2人が歩いていく。

 チェルとコロモだ。

 2人は、いつもの冒険時の装備をつけたまま、ゆっくりと中央通路を進み、やがて、膝をついてかしこまった。

 その前には、福々しい顔をした司祭様が、錫杖を持って立っている。


「女神に与えられし職業(クラス)、剣士を持つ者、チェルシー」

「はい」

「同じく女神に与えられし職業(クラス)、魔術師を持つ者、コロモ」

「は、はい」

「これより、この者たちのクラスチェンジの儀を執り行う」


 司祭様が錫杖を床に着くと、リィーンと清浄な音が空間を支配した。


「クラスチェンジとは、全能なる女神様から、新たな職業(クラス)を賜るもの。すなわち、これは一つの生まれ変わりを意味する。それを受け入れる覚悟はあるか?」

「もちろんです」

「は、はい! 私も!」

「良かろう。では、剣士チェルシーよ。前へ」


 司祭様に促されたチェルは、立ち上がると一歩前へと進み出た。

 立ち振る舞いはエリゼと練習済みだ。


「これより、女神様からの神託を授かる。瞳を閉じ、祈りを捧げよ」

「ええ」


 言われた通りに、瞳を閉じ、両の手を結ぶチェル。

 静寂に包まれた中、司祭様が振り上げた錫杖の鈴だけが、澄んだ音を響かせた。

 あとは、神託が降りてくるかどうか。

 もし、チェルにクラスチェンジをする資格が無ければ、このまま何も起こることはない。

 だが、仮に、さらに上位の職業(クラス)へと進化するだけの器があれば、天より、女神様からの光が降り注ぐはず。

 固唾を飲んで見守る中、唐突に、僕の胸が焼け付くように熱くなった。


「なんだ……これ……?」


 思わず、膝をついて蹲る。


「ノ、ノル……?」


 エリゼが、僕の様子に気づいて、心配そうな表情を向けたその時だった。


「おお……」


 セシリアさんの感嘆の声に、僕とエリゼはチェルの方を向いた。

 ステンドグラス越しに、天より、真っ白な光の束が、チェルへと降り注ぐ。

 それは、あまりに清廉で、美しすぎる光景だった。


「おお……これは……」


 司祭様の口からそんな言葉が漏れた。

 やがて、光の奔流が収まると、チェルがゆっくりと目を開く。


「私は……」

「チェルシーよ。其方は女神様より、新たな職業(クラス)を授かった」

「ええ、わかります。私にも女神様の声が聞こえました。『"勇者"として目覚めよ』と」

「えっ……!?」


 思わず声が漏れた。

 チェルが……勇者?

 まさか、勇者は世界でも数人しかいないレア職業(クラス)だ。

 確かに、魔法と剣を同時に使えるという職業(クラス)の候補ではあったが、まだ、レベルもそれほど高くないチェルが、"勇者"という最強の職業(クラス)を得ることになるなんて……。

 僕の隣では、さすがのエリゼもセシリアも、驚いだ表情で、チェルの様子を見守っていた。


「ふむ、どうやら其方は、特別、女神様から好かれているらしい。御心のまま、新たな職業(クラス)で己の道を進むが良い」

「ええ、言われずとも。受け取った力は、きっと無駄にはしません」


 深々と首を垂れたチェルは、そのままこちらを振り向くと、一瞬だけにっかりと笑い、再び、赤い絨毯の上で膝をついた。


「では、続いて、魔術師コロモ、前へ」

「は、はい……!!」


 そして、コロモの番がやってきた。

 チェルシーが勇者になったことで、コロモにも動揺があるかもしれないと思っていたが、彼女は緊張こそしているものの、努めて冷静な表情で立ち上がると、祈りのポーズを取った。

 司祭様の錫杖が鳴り響く中、神託を待つ。

 しかし、10秒が経ち、20秒が経っても、彼女の周囲には何の変化も見られなかった。

 必死に祈りを捧げるコロモの表情が胸を打つ。

 彼女もチェルと変わらない。ずっと努力し続け、必死にみんなについて行こうと頑張った。

 2人のうち、彼女だけがクラスチェンジできないなんて、そんなこと、僕は到底受け入れられない。


(女神様、お願いです! 彼女にも……彼女にも、どうか力をお授け下さい!)


 心の中、あらん限りの力で訴える。

 静寂が場を支配し、ついに、司祭様が諦めて錫杖を下そうとしたその時だった。

 チェルの時と同様、僕の胸に熱い何かがこみ上げた。

 そして、次の瞬間……。


「あっ……」


 ぽつりとつぶやいたのは、誰の声だっただろうか。

 ステンドグラスを貫いて、光の帯が、コロモへと降り注いだ。

 学生服を着たコロモへと、光の粒子がキラキラと降り注ぐ。

 その姿は、さながら、神話の時代を描いた絵画のようだった。

 そして、わずかににじませた瞳をゆっくりと開いたコロモは、自分の中の新たな力を抱きしめるように、グッと胸の前で拳を握った。


「コロモよ。其方は女神より、新たな職業(クラス)を授かった。その力、自身で感じておるな」

「はい、司祭様。私の中に確かに新しい力を感じました。"大魔導士"という新たな力を」


 大魔導士……それは、賢者と並び立つ、魔術師系統で最強の職業(クラス)

 チェルに引き続き、コロモまでもが、自身のレベルを大きく超えるような新たな職業(クラス)を得た。

 僕は、エリゼやセシリアさんと顔を見合わせた。


「勇者チェルシー、大魔導士コロモ。両名に、女神の加護があらんことを」


 凛とした司祭様の声が響き渡る中、新たな職業(クラス)を得た2人は、誇らしげな表情で、天を見上げていたのだった。

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