2 ~ナオミ・サクライの場合~
大学を出てすぐに入った会社は最悪だった。
まずひとつは私の話し方をバカにしてくる上司たち。名前は日本人だけどマサチューセッツ州アーカムから出た事のない私に日本語はほぼ話せない。文句あるか。
名札には漢字で『櫻井直美』とある。名前自体は好きだ。祖母がつけてくれたのだとママが教えてくれた。正直で美しい行いをするように、という意味がこもっているらしい。そして、ファミリーネームの「サクラ」の字が、私はとびっきり好きだ。
そんな和風な名前の人間が、定型文は結構な数覚え、イントネーションとか、書く文章で言う句読点の位置とか、どうしても『外人さん』にしかならないところが面白おかしいというのは、千歩くらい譲ったら、分からないでもないけど。
ふたつめはセクハラの横行だ。結婚している同僚に子供が出来たら、その同僚には祝福の言葉を掛けるのに、彼女が居ないところではあれが頼めないこれが出来ない、と文句を垂れている。嫌がっているのに彼女の胸を触るクソオヤジがいたのでぶんなぐった。そいつが取引先の上司だったために私は解雇された。
私の日本暮らしは3ヶ月で終わった。
よく使うボストンの空港とかではなく、アーカムから少し離れた都市の空港に降り立った私は、気晴らしと時間つぶしの観光のために街へ出て、とても身なりが整った壮年の男性が配っているポスターを受け取った。
レインボウスプレッド市というそこそこ発展した街にある土地を買いませんか、ということが書かれている。買い取ってすぐなら、森のある程度の開墾や住居の建設の代金などは地主が全部払ってくれるらしい。私の次の職場になる会社も近い。少なくともアーカムから通うよりは現実的な距離だ。
ママがいなくなってから、パパは日本に帰ってしまい、私も一緒に住もうと誘われている。でも、一緒に住むとなると日本語を覚えなくちゃいけない。どうせ覚えるなら私は中国語や広東語を覚えて、吹き替えナシで香港映画が見たいわね。
話が反れたけど、土地を買うことに興味を覚えた私はホテルに戻る前にポスターの連絡先に電話してみた。若い秘書さんが日時を教えてくれたがもう一週間くらいしか日付がなかった。私はすぐにアーカムを目指すと、パパと行く予約を入れていたレストランに取り消しの電話を入れ、荷造りを始めた。




