パブロフドール ドールの違い
小さなモニターが沢山と大きなメインモニターの前に僕達四人は座った。
モニターに映されているのは白い部屋だ。小型には各個人の部屋、大型には共有の広場が見えるようになっている。
「よし、五十嵐入れてくれ」
白い壁が開きそこから白い服を着たドールが次々入ってきた。胸と背中に番号が書かれている。
目隠しをされているせいだろう皆大人しく指示に従っているようだ。
最後に入ってきたのが五十嵐だった。彼は10体のドールの前に立った。彼の横には聞かされていない11体目のドールがいた。
「おい五十嵐なんだその11番は」
五十嵐はカメラに向って苦笑いをしていた。
「悪い悪い、こいつは『キメラドール』だ。斎条にも椎名にも許可を貰ってるからさ」
キメラドール。文字通り複数の遺伝子を持った子供のことだ。見た目からして普通のドールと変わらない。だが、キメラドールには普通のドールとは異なる身体能力を持っていることが多い。
「そんなイレギュラーな危険分子を実験に入れるな!」
「大丈夫よ。もしもの時はこれで」
椎名は数あるボタンの中の黒いボタンを押した。
「う!うぁああ、ぐがぁああ」
キメラドールは悲鳴を上げ体が複雑に曲がり不気味な音がし始めた。
「背骨に少し細工をしてあるから鎮圧は簡単なのね」
「ならいいけど…何故そんなものを入れた」
「調教期間が短いとは言え相手はアルドール。赤の刺激は強くしておいた方がいいでしょ」
この計画の全権は斎条に任せている。斎条がそう決めたならそれに従うだけだが……
「五十嵐君、5番の様子を見てもらえますか」
今まで黙って流れを見ていた御波がマイクを握った。
「お、おう」
全体に目隠しを取るように指示をだした。その中の5番だけ様子がおかしい。
「どうした5番」
「なんだよ今の悲鳴は、ここはどこだ。お前は誰だ!」
他のアルドールには見れない反応を見せた5番。僕はこれに似た反応を見たことがある。確か、アルドールを調教する当初の時だ。
「おい五十嵐、そいつ『ただのドール』じゃないのか」
「さすが修司。そ、あれはただのドール。そこらへんにいたのを拉致ってきたの」
平然と斎条が答えた。ただのドール。つまり一般人の子。もみ消すのは厄介だぞ。
「斎条分かってるのか」
僕はこいつらの上に立つ責任者だ。責任の重さよりもこいつらを守るという義務もある。
「分かってる。病院側には様態が安定していたけど急死したってことにしてもらった」
「親族は」
「ドナー登録していたから骨だけでいいって、二ヶ月待ってもらってる」
斎条は白衣のポケットに手を突っ込んで真剣にモニターを見ている。彼女の今回の実験に対する熱意は今までとは群を抜いて高かった。パブロフドールを完成させることが彼女にとってどれだけのものか知らないができるだけ助力しよう。
「飴舐める?特別にプリン味あげる」
「お前どこまでが本気か分からないよな」
「私はいつも本気だよ。それじゃあ五十嵐君出てくれるかな」
五十嵐が部屋を出て斎条がモニターの前に座った。
そして、実験が始まった。
「みんな私は桜よろしくね。これからここで生活してもらいます。こちらの指示に従ってもらうだけでよいので後は自由にしていてください。質問は?」
待っていたかのように5番が質問と言うより騒ぎ出した。
「おめーだれだよ。なんで連れて来たんだよ」
「君は物事とを理解しようとしないのか」
7番のアルドールが落ち着いた声で5番に問いたずねた。
「あぁ?」
「彼女は桜と名乗った。私達にここで生活してもらうために連れてきた。彼女は貴方の要求には既に答えていたということです」
3番が説明した。どうやら5番以外は本物のアルドールのようだ。
「お前らなに冷静になってるんだ!拉致されたんだぞ」
「騒いだ所で出してもらえるわけでもないだろうに」
「私も4番さんの意見に賛成ですね。桜さんとは初めてではないので彼女は情で動く人ではないと分かります」
1番は斎条のことを知っている。アルドール作りのとき斎条が立ち会うのは珍しいと思うがそれが来るとは…
「お前らおかしいぞ」
「はーい、5番君。騒ぐのはもう少し後にしてもらえるかな」
斎条の声に5番を含めた全員が固まった。当然だ、さっきの柔らかい声とは違って深く怒りがこもった斎条本気モードの声だからだ。
「D、聞いてる?」
Dと呼ばれて11番が顔を上げた。雌の高校生ぐらいだろう。他のアルドールとは違い目が赤い。それより目立つのが髪だ。生え際は白いのに毛先は赤い。癖だろうか指の関節をコリコリと鳴らしながら指を動かしている。その指から伸びる爪は鋭く長い。
「はい」
小さな声だがしっかりと聞こえた。それに満足した斎条は赤のボタンを押した。
白かった部屋は真っ赤に染められた。
「D、命令する。どれか一つ食え」
すぐだった。Dの隣にいた10番は喉から腹にかけて引き裂かれた。
Dは10番の心臓を取り出し犬歯をむき出しにしてそれを食べ始めた。
「な、なにやってるんだよこいつ」
驚いたのは5番だけだったようだ。
「Dはキメラドール。その中でも立ちの悪い人食の素質を持っているの。これから部屋が赤く染まった時、Dが一番近くにいたドールを狩ることになってるの」
斎条の説明中でもDは一心不乱に10番のものを食べ続けた。
それを見ていた5番が嗚咽し始め他のあるドールは何事もないかのようにそれを見ている。これが普通とあるドールの違いか…
「はーい、D、やめなさい」
斎条の命令を無視してDは食べるのを止めない。
「やめなさい」
「ぐぅ、あ、ああ、ぐはぁあ」
あの黒いボタンを押してようやくDは止まった。
Dは天を見上げたような姿勢で固まっていたが目に生気が戻った途端食べていたものを全て吐き出した。
「それではしばらくの間自由時間ね。ばいば〜い」
部屋を薄い黄色に染めて斎条はマイクのスイッチを切った。
黄色より白に近い部屋の真中には赤い穴が開いたかのようなあとが残っていた。
早くも一人…ですね。




