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鎧魔装者のこもり場所  作者: マーシャルヒューミ・サートゥン
間章~ぺーチノー王国にひきこもろう?~
18/22

「ぬぁはッ!!?!」

お久しぶりです。

ホントは4/30に投稿しようとしてたんですよ。ホントですよ?

 ウィンシーが会場に入ると同時に、部屋の中が少しざわついた。それもそうだろう、この世界の囚人の扱いより酷い格好の囚人が入ってきたのだから。ちなみにこの世界の普通の囚人服は横縞のツナギで統一されている。

 そんな世紀末もビックリな服装のウィンシーの前にフェイが歩み寄ってくる。里沙と遥は止めようにも過去のトラウマで動けない。

「……、ふっ!!」

 あと数歩という所でフェイはタックルをかますかのようにウィンシーに抱き付こうとする。……とにかく抱き付きたいだけなのだろう。パーティー前の里沙達の忠告などガン無視である。

「っ!!」

 ウィンシーは森では不覚をとったが【幻影楼歩(げんえいろうほ)】で対抗する。このスキルは残像と気配を誤魔化しながら、行きたい方向に足の動きとは関係無く移動する事の出来る体術系のスキル、簡単に言うと全方向ム○ンウォーク残像付きだ。しかし、【鈍足】が付いているため一定の速度でしか移動できていない。逃げ出さないように自分で戒めを付けて来たのが仇となったようだ。

 これは勝機だと悟ったフェイは笑みを深くし、抱き付きタックルを繰り返す!ウィンシーも負けじとプレイヤースキルの限りを尽くす!残像を使いフェイの視界の盲点を増やし、そこを突く。フェイからしたら突然消えた様に見えるだろう。しかし、フェイも過去の経験を元にタックルタックル!

 この意味不明な高レベルの攻防を周囲は興味深く見ていた。

「ほぅ。あの麻袋の者の足さばき…、スキルだけではない技術も使っておるな…。レイミー、よく見ておくのじゃぞ」

「……うん。あとわた、…我のことは邪滅脚神レイミーと呼んで。……右足が疼く。」

 足が疼くと言いながら包帯を巻いている右腕を掴むレイミー。それはよく酒帝のやっているポーズであった。

「スゲーのは足さばきだけじゃねーぜ……!腕についている手錠の鎖…、どうやら姫さんが持っているみたいだが絡む気配がまったくねぇ……!しかもフェイのヤローにも引っ掛からないよう気を利かせていやがる!」

「良かった…、いつものサディスだ。服がフリフリだから頭が壊れたかと思ったよ…」

 赤髪を揺らしながら解説してくれるゴスロリのサディスを見て、内心外心共に心配していたコンクルは安堵の息を漏らす。だが時々「姫さんの服可愛いなー」と呟いている。可愛いは正義だもんね。

 他の人達は良く観たいのか静観している。 

 周囲の視線を感じてかなり参っているウィンシーは、この笑顔でタックルしてくるエルフの事を考えた。


(何故だろう…。避けるたびにこの人の笑みが増している。しかも俺のフェイントも引っ掛からない。まるで昔から俺のやり方を知っているかのよう……、昔から?)


 そして、思い出される日々。


『ふん、パパめ。ヒューマンの召し使いなぞ雇って。おい、半径五メートル以内に近づくな。とりあえずテストだ、紅茶を持ってこい』

『(適当に文句言って解雇してやる…)…クピリ…。!?(美味し過ぎるぞこれは!香りが高く砂糖も入れていないのに私好みのほんのりとした甘味がする!!しかもそれだけじゃない、猫舌の私に気を使ってか飲みやすい適温じゃないか!……はっ!おのれ!!』


『おい、 散歩に行く。(危険な所へ行って置いてきてやる)付いて来い。』

『何?そっちは危険だ?ふん、知っている。……え、囲まれた?…ブルービックスネーク!?』

『怖かったよぉぉぉ!!えぇぇぇええん!!』 

『くそぅ…。とんだ恥をかいた…。パパにも怒られたし……。これも貴様が来たからだ!このこの!避けるな!軟弱な性格していて何故強い!』


『おい貴様、人に触られるのが苦手な様だな。ふっふっふっ、かくごぉ!!』

『捕まらない…何故だ!!』


『今日こそ抱き付いてやるぞ覚悟しろ!ええい!そんな軟弱な声をあげるな!』

『うぅ……。きょ今日はこれくらいにしてやる(二時間全力で捕まえようとしたのにコイツは息すら上がっていない……)』


『おいウィンシー!私を鍛えろ!』

『ダンジョンだ!ダンジョンに行こう!』

『次はラグゾビュートを懲らしめてやろう!!』

『なんだ?このナイフ。貰っていいのか?やったぁ!!』


『辞めるなんて聞いてないぞ!いやだ!お前はずっと私に仕えて欲しい!』


『最後の日だな…。えいっ。ふふっ、やっと捕まえたぞ』


『また遊びに来るよな?最後にその見えない顔を見せてくれ。…嫌だと?それに一回だけ見るチャンスがあっただと?あっおい待て逃げるな!』


 あの二年間を思いだし、ウィンシーの逃げる足が止まり、そしてゆっくりとフェイはウィンシーに抱き付く。まだ触られるのに慣れてないのでウィンシーは軽くビクついた。

「ふぇ、フェイお嬢…様……?」

 おずおずとウィンシーは問う。

「やっと思い出したのか、……馬鹿者め」

 耳元でフェイは応える。

「ご立派に…なられたね……」

「五百年以上経ったんだ。当然だ」

「……。…ご、ごめん…、そろそろ離して…」

 何かしらの嫉妬の味をした悪意がウィンシーの悪意メーターに蓄積されていく。

「嫌だ」

 フェイはまるで誰かに見せつけるかのように、さらに強く抱き付いて匂いをマキーングするかの如く体を擦り付ける。

「ななな、なにをしてるんですか!ハレンチです!」

 嫉妬の化身エルリーナが割って間に入ろうとする。しかし、基本ステータスの差が大きい為ピクリともしない。

「ふっふっふ、私とウィンシーの間に入れると思ったのか愚か者め」

 フェイはニヤリとエルリーナに挑発し、少しウィンシーが震え出している。

「ぐぬぬ……!!かくなる上は!」

 ウィンシーの後ろに回り込みエルリーナも負けじとウィンシーに抱き付く。震えボルテージがまた上がる。 ぎゅうぎゅうと乙女の柔肌を押し付けられ、まったくけしからん状態のウィンシーは勿論そんな余裕は無く、とうとう限界を迎える。


「【脱皮】!!」

ムルンリッ!!


 謎の音を鳴らしながらモンスター等の締め付け攻撃を抜け出す際に使われる【脱皮】を行い、服を脱ぎ捨て拘束から脱し、素早く【早着替え】をして【貴方はだぁれ?な燕尾服】に着替え、気持ちも少し切り替える。

「お、お嬢様方…、人の目が有ります…ので、お止めっ、てぇ……」

 丁寧におどおどたしなめるウィンシー。顔がボヤけていなければ顔が真っ赤に染まっていただろう。

 そんなウィンシーの言葉を気にせず【初心者応援囚人服】をエルリーナと抱き合っているフェイは懐かしむようにうんうんと頷く。

「やはりその姿は変わらないな…。紅茶を頼みたくなる」

「は、はい。只今」

 昔の癖で、コトリコトリと人数分のティーセットを取り出し丁寧に紅茶を淹れる。皆まじまじと見ているので緊張してしまうが、失敗する様子はない。

「ど、どうぞ……」

「うわっ」「ぬおっ」「えっ」「おぉ?」

 いつの間にか皆の手にティーカップが添えられていて数人が驚き溢しそうになる。

 そして、一口。

 その紅い液体は体中に染み渡り、五臓六腑を駆け巡る。


「ほぅ…」


 誰もが無意識に息をついてしまう。誰もが口にしたことの無いような心地よい味わいであった。

「んー、いい香りだよねー。ちょうどいい。君たち注目だよー」

 皆が和んでいる時、国王が声をかけて会場の視線を集めた。

「今、この紅茶を振る舞ってくれたウィンシーくんがねー、なんと皆に景品をくれるそうだよー?」

 景品?と何故景品を貰えるのか分からない一同。

 んっふっふー、と国王は懐から紙を取り出し読み上げる。

「えーとなになに?

『皆様、森で粗相をしてしまい申し訳ございませんでした。此度の戦闘参加者につきましては、私、ウィンシーから武器、防具、スキルのいずれか二つを贈りたいと思います。他にも欲しいアイテム、修理して欲しい物、悩み事等でも構いません』

 だってさ」

「ご、ごめんなしゃい!……うひゃっ!?」

 謝る際に視線を浴び変な悲鳴をあげてしまう。あ、やべっ、と皆は目を逸らす。

 今の紙の内容を聞いて、目を輝かせる者が約二人。

「ねーちゃん、これはチャンスだな……!」

「ええ、ここで戦力を上げれるとは思ってなかったわ……!」

 そう里沙と遥は心底嬉しそうに笑っていた。


「えー、明後日までに考えてくれよー。じゃ!今はパーティーを楽しもーう!」

 国王の声が合図となり各自料理に手をつけ始める。

「うぅ…、部屋に戻って良いかな……?」

 ウィンシーはただでさえ認識人数(キャパ)オーバーなだけに部屋の角で膝を抱えて座っている。エルリーナはパーティーの参加者達にお礼の挨拶をしに各々の面々に声をかけ回って談笑している。

「駄目だ。もう少し話でもしよう」

 フェイはウィンシーから付かず離れずの距離を保ってウィンシーの退路をブロック。彼に逃げ場はない。

「う、うん。じゃあフェイお嬢様は……」

「おい、ウィンシー。私は今、お前の雇用主じゃない。だから…その……名前だけでだな…」

「………フェイ?」


「ぬぁはッ!!?!」


 謎の衝撃を受け、女の子が発するとは思えない奇鳴を上げ、思い切りにやける顔を隠す為に手を口に当ててそっぽを向くフェイ。

(不味いな……これ程に嬉しいとは……!!体が…熱くなってきた……)

「ちょ、ちょっと酒を飲み過ぎたようだ!外で醒ましてくる……!!」

「あっ……」

 今、まともに話せそうに無いと判断したフェイはそそくさと逃げる様にパーティー会場から退場していく。自分から話を強要しておいてこのザマである。

 ウィンシーは名前を呼んだだけなのに怒って逃げられたと思い、けっこうショックを受けていた。

 そんなウィンシーが沈んでいる最中、里沙と遥がフェイのしていた事と同じくウィンシーの退路をダブルブロックしながら近づく。

「久しぶりだなウィンシー」

「……だ、誰?」

「ああ~…、顔は弄って無かったけどわかんねーか。ジーマリサだよ」

「え?」

「私はジーマルナよ。覚えてくれてると嬉しいのだけれど……」

「え?う、うん」

 両方共何度も鎧を注文してくれた人達だ。もちろんウィンシーは覚えている。しかし、二人がこの世界に何故居るのか分からず混乱する。

(まさか…、二人とも死んでしまって…)

「お前も災難だよな、いきなり召喚されるなんてな」

「……」

 だがウィンシーの思った事と違い、自分とは違う過程でこの世界に来たことを知り、安堵すると同時に自分の過去が脳裏に(よぎ)る。

「お、俺は……」

「あん?」

「……俺は、殺されたら、ここ…に……」

 刺された時の事を思い出し、ウィンシーの顔が青くなる。

「大丈夫ですかっ?!ボヤけていても分かるくらい顔色が悪いですよっ!」

「ポーション飲め!ポーション!」

 深呼吸を繰り返し、ポーションをイッキ飲みし落ち着きを取り戻す。

「はぁ…はぁ…、もう、大丈夫で、す」

「そ、そうか。…そうだ、今回の参加報酬で話があんだ」

 どのようにこの世界に来たかは、これ以上話さない方が良いと判断した里沙達は本題に入る事にする。

「オレ達は普通の人間と変わらないステータスになっちまってな……、見たところお前はちげーみたいだし生き残る為に少し手伝ってくれ」

「お願いします。ウィンシーさん…」

 二人とも頭を下げてウィンシーにお願いするのでウィンシーは慌てて頭を上げるように言う。

「…良いげど…それで、一から……?」

「ああ、中、上位の必修スキル全般を頼む」

「過剰報酬ならこちらで対価を用意しているのですけど…」

「…いや……必修スキルを教えるのは、経験者の義務のようなだから…、それも含めて別の景品を言っても良いよ……」

「ホントかっ!?」「本当ですかっ!?」

 里沙と遥はウィンシーの太っ腹さに感激してつい大声を上げてしまう。

 ベコリ、と音が鳴ったと思ったら既にウィンシーの姿は消えていた。ただ、部屋の角には、周りの壁より真新しい、ちょうど膝を抱えて座っている人間位の大きさの跡が残っているだけだった……。


「……、逃げられたな」

「そうみたいね。気をつけないと」


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