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鎧魔装者のこもり場所  作者: マーシャルヒューミ・サートゥン
間章~ぺーチノー王国にひきこもろう?~
17/22

「イェーイ!ターッチ!」

5/5 脱字を訂正しました。

 闇が空を覆い、二つの月が昇りかける頃。

 パーティーの準備がまだだと言うので、ウィンシ―、国王、エルリーナの三人は玉座の間で再度報酬の話をしていた。


「そんじゃー、君の給料は一ヶ月金貨三枚分って事で良いかなー?」

「ぇ…そ、それは、えと…もぅちょっと……、ほ、ほしい……です…」

「ええ~?金貨三枚もあれば三ヶ月は暮らせるよー?」

 つまり金貨一枚で一ヶ月暮らせるということだ。

 一ヶ月で三ヶ月分だよー?と玉座に座っていた国王はピョンと飛び降りてウィンシーに近づく。

「ぅひぃ……?!」

 段々近づいて来る国王に、ウィンシーは後退り腰が抜けてガチャリと尻餅をついてしまう。

 その様を見て国王は手をワキワキさせながらニヤリニヤリと歩みを進める。この光景はまるで、やめてーウィンシーにひどいことするきでしょーどうじんしみたいにー、である。

「おんやー?どうかしたのかねー?ワイバーンの赤種を赤子の手を捻っちゃう様にスパッとやっつけちゃう君がー、そこらの兵士くらいしか力がないか弱い僕に、なーに怯えてるのかなー?」

 ゾンビさながらの不気味な歩みをする国王は近づく度に口角が上がっていく。


「お・と・う・さ・ま?」


ゾンッ!!!


 憎悪!それは圧倒的憎悪!!と言わんばかりに、事の顛末を端で見ていたエルリーナが女の子がしてはいけない顔で修羅悪鬼を背に浮かべる。悪意に敏感なウィンシーは自分に向けられた物で無いのに「ぁゎゎゎ……うっ!?」と魂の緒が抜けかかる。

 流石に不味いと思ったのか国王は言い訳を述べようと慌てだす。

「えー、そのー、なんと言うかー、調子に乗っちゃったー、……みたいな?」

 言い訳にすらなっていなかった。

 エルリーナの額に青筋が浮かぶ。しかしエルリーナは品が無いと思われたくないのか怒鳴らずにドスを効かした声でたしなめる。

「それ以上近いたらウィンシーさんは逃げてしまいますよ?」

「え、えー。エルリーナだけ触ってずるーい」

 動物園の動物にたまたま触れなかった子供みたいな事を言う国王。聞き分けがない子供か。

「ずるくありません。だってウィンシーさんは私の執事ですもの。ね、ウィンシーさん?」

「………………」

「ウィンシーさん?」

 ぴくりとも動かないウィンシー。

 これはチャンスだと国王が素早く動いてウィンシーにタッチしようとする。

「あっ!」

「イェーイ!ターッチ!!」


 しかしその手は空を切った。


「んな!?」

 そう、ウィンシーの姿はそこには無かった。

 ただ、

「……………………」

 ウィンシーは扉まであと数歩という所でうつ伏せに倒れていた。

 まさにミステリー。エルリーナと国王はこの難事件にハテナを浮かべた。


 それでは説明しよう!国王が近づいて来る事に対し逃げ出そうと決意したウィンシーは、腰が抜け尻餅をついた後黒靄を使い分身を作りだしてホウホウの(てい)で床を這いずり、扉まであと数歩という所でエルリーナの強力な憎悪により「ぁゎゎゎ……うっ!?」と気絶してしまったのだ!!…つまり止めを刺したのはエルリーナである。

 真実とはいつも一つなのだ。


 玉座の間の扉が開かれ、一人の亜麻色髪のメイドが入室してくる。

「パーティーの準備が出来ました……何ですか、これは?……気絶しているようですね。ふっ…!!」


ゲシッッッ!!!!


 気絶したウィンシーをメイドのミラルダは首目掛け【覚醒打法】を蹴りで叩きこむ!サッカーのPKであったらディフェンス選手ごとゴールイン間違い無しだ!

 その容赦無い蹴りはその場にいた二人の王族を青い顔にさせた。

「何をしてるのですか!?」

「そうだよー!?」


「何、と言われましても。起こしているのですが?」


 何を仰っているのやら……。と顔に書いた表情で二人を見るミラルダ。彼女、男性には天然的にドSな態度になってしまう困った性格をしている。国王には特にヒドイ。

「もっと他に良い方法あるでしょー!?」

 国王がまともな事を言う。

「ええそうですね。


 今のは私の方が痛かったので物を使う事にします。ふっ!!」


ブォンッ!!!


「「あああーーーーー!?」」

 アイテムボックスから取り出したのか、大きなハンマーを力強くふり下ろす。

 それもちがうやろー!?と心の中でつっこみ、王族二人は目を瞑り大きな音が鳴る心構えをする。だが何時まで経ってもけたたましい衝撃音はならなかった。エルリーナは薄く目を開けて様子を伺うと、


『お、今度は成功した……!それにしてもまったく。一方的にやられては耐久度が下がってしまう……。起きて下され、製作者ウィンシー殿。気絶している場合ではありませぬぞ』


 落ち着いた初老の男性の声が聞こる。黒甲冑がふり下ろされたハンマーを有り得ない角度に曲げた左腕で柔らかく受け止め、右手でヘルムをパシパシ叩いていた。

「……ん………んあ?」

『起きましたか』

「……あ、うん…ありがとう【黒靄……黒靄!?!!?」

『ではこれにて』

「えっ何?何なんだ?何で鎧が……今?それに腕が…」

 軽い混乱状態のウィンシー。鎧がアイテムボックス外で喋りかけてきたり、勝手に動くのは初めてで周りの状況が見えていない。

「起きられましたか。大丈夫ですか?」

 何時の間にかハンマーを仕舞って佇んでいるミラルダメイド長。お客様への粗相も無かった事のように錯覚してしまうほど堂々とした態度だ。これがメイド長の風格か。

 声をかけられやっと状況を少し掴んだウィンシー。

「ぁ…ぁぎゃ…、あり、がと…ぅ。だ、だいじょうぶ、…りぇす」

 一生懸命お礼を言う。

「いえ、お客様への気配りもメイドのたしなみです」

 嘘だっ!!と言いたげに王族二人は目を見開く。気配りが出る事はなく、蹴りが出てきたのを目の当たりにしているのでこの反応は当然であろう。

 しかしウィンシーは大した痛みも感じていなかったので二人の様子にハテナを浮かべるだけだった。


「さて、パーティー会場に案内致しますので皆様はついてきて下さい」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「(ねーちゃん、今回の障害はあのエルフと赤髪の女でいいか?)」

「(いえ、オルスさんの近くにいる腕に包帯を巻き付けたレイミーちゃんにも気をつけないといけないわ)」

 第二王女救出成功を祝うパーティーの会場。里沙と遥は【目配せ(アイコンタクト)】で喋らず会話をしていた。会話内容は勿論ウィンシーに激しいアクションを起こすブラックリストの確認である。

「(そもそもウィンシーの奴はこんな大人数の居る所に来れんのか?)」

「(なるべくウィンシーさんのストレスにならない為にこの部屋、少し暗くなるように暗幕で窓を閉めて、テーブルの蝋燭の灯りだけにして、他人の目線をあまり感じない様にしてるのよ?本当は懺悔室みたくしたかったのだけど…)」

 果たして、暗くするだけで効果は有るのだろうか。そして懺悔する側はどちらになるのだろうか。

「(でも俺達みたく【夜目】を発動させてたら意味なくないか?)」

「(……、兎に角刺激を与えない様に皆様にも伝えているから少しはマシだと思いましょう)」

「(アイツ、大型ギルドに大人数で押し掛けられて武具製作依頼された時、ビビって【掃除屋さん】で五十人以上を一瞬で蜂の巣にしたって話があるんだぞ?)」

「(それってウィンシーさんが有名になり始めの頃だったし流石にそんな事態にはならないと思うけど……)」

 ちなみにその後、ウィンシーの取扱い条約がギルド間で決められ原則として一回で三人まで直接交渉できる事になった。

「(幸い竜麻は風邪ひいた実菜の看病で居ない、ウィンシーを除き全員で十二人……)」

「(四倍ね…。保険は仕掛けてあるけど心配だわ……)」

 緊張でドキがムネムネな二人。そんな二人の心配は余所に会場の扉が開かれる。

 先ずは国王が入ってきた。相変わらず若い。

 次にエルリーナ第二王女が入ってくる。二人は初めて彼女を見て少し見とれてしまった。手に何か掴んでいるようだ。


ジャラジャラ……         ジャラジャラ……         ジャラジャラ……


       ジャラジャラ……        ジャラジャラ……


 次に頭から上腕二等筋にかけて麻袋を被った、板状の手錠で手首が繋がれて、脚には鉄球の付いた拘束具を引き摺る人が入ってきた。


 会場にどよめきが伝播する。そんな中で一番反応したのは里沙と遥の二人。

「「(あっ、アレは……!?【初心者応援死刑囚】……っ!!)」」 

_____________________


名前:初心者応援死刑囚(ビギナーズラック)

製作者:ウィンシー

評価:89

防御力:自分のVIT分マイナス

耐久:自分の命

条件:なし

説明:そこら辺に生えている木や草とそこら辺に転がっている石や鉄屑、布切れを再利用したもの。着心地は最悪であるが、自然を近くに感じられる。ウィンシーが初心者にも挑戦する機会を作ろうと真心を込めて造った作品。四分の三は優しさで出来ている。四分の一は………。

効果:【武器使用不可】【能力激減】【鈍足】【視界半減】【弱力】【被ダメージ増大】【私の末路(デットシフト)】etc……

_____________________


「(ぐぅっ……!?トラウマが……っ!!)」

「(しっかりするのよ里沙!!!)」


 里沙は自分を抱いて寒さをこらえる様に震えている。そんな里沙を遥はそっと抱き寄せた。

「(大丈夫よ…大丈夫だからね……)」

「(…………。ありがとう、ねーちゃん…)」

 自分の姉に力無く微笑む。

 一体彼女の過去に何が起こったのだろうか。

 これから流れるのはとある動画サイトに投稿された一部である。


~題:「VSウィンシー【初心者応援死刑囚】」 投稿者:○○○~


 ラッキー、今噂の死刑囚じゃん。おいそこのお前ちゃんと撮っとけよ。んじゃまぁワンパンで決めちゃいますか!え?レベル?そりゃ最近190になったんだぜ!スゲーだろぉ。これを機に更にレベル上げていくぜ!よしっ気合いを入れた所で始めますか!おら!こい…よ………。な、なんだそれ…、「デットシフト」……?聞いてないぞそんな…うわっ、はなせっやめっうわぁぁぁぁぁあああああああああ!!腕がああああああっ!?血がぁぁぁぁああああ!!!ぁぁぁ……ま、まて…それは…やめろ……やめろ…やめて…ください…やめ


~end~


 この動画の完全版を里沙はウィンシー研究のため視てしまった。その映像を例えるなら丈夫な人程苦しみが長続きする技の数々。

 ビギナーには優しいが、エキスパートには厳しい、戦いたくない鎧ランキング第四位の対人型装備だった。

今回はパーテェ―回にしたかった。でも一応パーティー会場に入れたし良いですよね。……そこ、「予告詐欺」とか言わない。


ちなみに『リトル・フリーダム・オンライン』では十五歳以上で血の演出が設定できます。そして例の動画の血に関しては【オーバーリアクション】の応用によってウィンシ―が過剰に演出させていますので、相手側は驚愕してます。

ウィンシ―残酷やろ……と思う方もいるでしょうが、受けた勝負は真剣に取り組もうと必死で頑張った結果です。もちろん初心者には生きる魔装は使いません。使わなくてもテクニックでなんとかします。



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