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鎧魔装者のこもり場所  作者: マーシャルヒューミ・サートゥン
間章~ぺーチノー王国にひきこもろう?~
16/22

「ちょっと火山に行ってくる!!」

間章の始まりです。

 『殺されたと噂されていた第二王女様が帰ってきた』


 エルリーナがぺーチノー王国に帰国し、その情報があっという間に国内に広がった。もう城下町はお祭り気分だ。実際にお祭りをやっている。

 そして今の時の人エルリーナは父親の国王と玉座の間で会見し、これまでのとんでもな経緯を自分の父に話していた。


「へー、魔獣召喚の研究ねー。そんな事があったんだー。大変だったねエルリーナ」

「お父様、それでウーラ伯爵は捕まりましたか?」

 エルリーナは玉座に座る十代半ばの容姿をした銀髪の父に尋ねてみる。

「はっはっは、ウーラはもう伯爵じゃないよ。しかし彼も必死に抵抗したみたいでねー。取り逃しちゃった」

 残念残念。と呟きながら国王の威厳を感じさせないオーラを漂わせ、玉座からピョンと飛び下りる。

「それでー?男の子連れ込んだんだってー?彼氏なんてお父さん許しませんよー?先ずは交換日記から始めなさーい」

「かっ彼氏なんかじゃありません!それにこここ交換日記だなんて……。そんな関係…!!」

「いーや、僕には分かるねー。顔が恋する可愛い乙女、ワイバーンから助けられた時にきゅんと来ちゃったのかい?それとも上質なワンピースをプレゼントされた時かな?まるで出会いたてのお前の母さんを思い出すねー。ミリーは今でも十分可愛いが」

「交換日記はまだ心の準備が……」

 顔を赤く染め手を頬に当ててヤンヤン唸っている自分の娘に国王は、やれやれだぜ、と首をふる。

「今そのウィンシーさんとやらは何処にいるのー?……おーい聞いてるー?」

 先ずは伝書鳩から……いえ、それでははしたないかも……。と聞こえる呟きに国王は嘆息する。

「ダメだこりゃ。誰かー、誰かいるかー?」

 国王が使用人を呼ぶためパンパンと手を叩く。

「お呼びですか」

 亜麻色のショートヘアーをした若いメイドが一人中に入ってくる。

「ああ、ミラルダメイド長。君が来てくれると信じてたよー。僕嬉しー」


「さっさと御用件を仰って下さい。クズ国王様」


 ミラルダと呼ばれたメイドは絶対に人には向けていけない醒めた目線を国王に浴びせる。決して一国の王に向けて良い物ではない。

「あぁ…ゴメンよ……。クズの僕にウィンシーさんとやらの居場所を教えとくれ……」

 部下の暴言に怒らず、相手を立てる精神。この王はクズ呼ばわりされる人ではないのかもしれない。

「ウィンシー様は今お客様用の宿泊室で黒甲冑のまま寝ています。後、まだ私に言うべき事が有るのでは?」


「……………。え、えーっと、その~、……お祭りを開催するスポンサー勝手に国費予算でやっちゃってごめん、なさい……。その書類関係の仕事を押し付けてごめんなさい……。でもあいつ等逞しすぎんだろー……ハハハ、ケツ毛までむしり取られる気分だった!僕はこんな屈強な国民を持って幸せだー!」


 やっぱりコイツはクズかもしれない。

「チッ。エルリーナ様、妄想をしている場合ではありません。早くこのクズからの視線から(のが)れましょう。ちなみに殿方は朝起きられて直ぐ目に入る女性に好感を持つらしいですよ」

 舌打ちを国王にかまし、エルリーナにサラッと嘘をつきこの玉座の間から出るように促す。

「そうなのですか!?こうしてはいられません!!」

「起こしに行くんなら連れてきてねー」

 小走りで玉座の間から去っていくエルリーナに国王は微笑ましい笑みを浮かべ呟く。

「花も恥じらう十四才、青春だねー」

「青い春ですか、そういう貴方の頭の中は年中お花畑ですよね」

「はっはっは!酷いねまったく!」

 毒舌が過ぎるメイドの言葉を笑って受け流し、娘から聞いたウィンシーの特徴を思い出す。


「神話時代の人、ね」


「彼を味方に引き込むつもりですか?」

 そんな事が出来るのか?と言いたげな視線に国王は自信たっぷりに頷く。


「ああ、とっておきの秘策があるからねー」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「待て!それは竹輪じゃない!!


ガバッ!!!


 ちくわぶだよぉ!!!……ここどこ?」

 今の竹輪云々の台詞、信じられないかもしれないがウィンシーの寝言である。夢では有り得ない事も現実的に感じてしまう物なのだ。叫んでしまうのも無理はない……。ウィンシーは周りを見渡し、豪華な部屋で寝ていた事が解った。

「なんだ…夢か……。……そうだ、俺気絶してたのか。気絶で夢って見れるのか…」

 自分が気絶していたことに気づき、その原因を思い出していく。


 森中で突然降って抱きついてくる女性。大声を出し近づく気配。テンパるウィンシー。生きる魔装発動。


「あ、あぁ、やってしまったぁ……。お、御詫びをしないと…」

 ガチャガチャとヘルムを抱える。

 一頻(ひとしき)り後悔した後、取り敢えず現在地を調べる為にステータスウィンドウを開きマップを選択する。

 しかしそこに(しる)されたのはジェイミス山脈が見える程度に距離があるペロチノ平原と表されていて、このような豪華な部屋が有りそうな街や家は見当たらない。


「んー、んん?うん。これは幻覚か幻術か」

 しかし、ウィンシーが【覚醒】、【看破】や【気配察知】を行っても風景が崩れたり術者の気配は感じ取れなかった。【覚醒】ついでに何か気の力みたいな薄黄色い物が身体をシュウィンシュウィン取り巻く。


「うむ、この調度品は……微妙」

 取り敢えず部屋を調べ始める。

 【鑑定】やら【観察眼】を発動させて寝ていたベッドやら灯りを灯すランプやら飾られている壺や絵を品定めさせていく。

「こっこれは……!?」

 そんな中とある青空の絵を見て驚いた。

「†ハァバ★ネロ†さんの作品【覚めない青空】じゃないか……!?本物だぁ!!すごい!!」

 †ハァバ★ネロ†、目の見えない彼が仮想世界で描いた青空の絵。彼は言った。『青色とはこの様な色だったんだな。私は今ならガガーリンの言葉の意味が分かる』。彼の作品の数々は高く評価され、その絵一つでリアルマネーが動いた程だ。

 この絵が二枚も描かれる訳がなく、写真には無い絵ならではの温もりを感じさせる作品が幻覚や罠で用意されて良い代物ではない。

 よってここは、

「ペロチノ平原上の建物の中か……。マップが古いのかな……。久しぶりに『書の森』に行こうかな」

 実は言うとウィンシーは自分が今いる時代が『リトルフリーダムオンライン』ゲーム時より五百年近く時が流れていることを知らない。五百年の歳月は色々と国家や地形を変化させていた。


コンコン


「ウィンシーさん。起きていらっしゃいますか?エルリーナです」

 彼が考え事をしている最中にドアから音がしてビクついたが聞き覚えのある声に緊張した身体を弛緩させる。

「うん、起きてるよ」

 ガチャリとドアを開けエルリーナが部屋に入ってくる。

「寝起きですか?」

「えっ、別に…」

「そうですか……。残念です……」

「ええっ!?」

「殿方はその……、やっぱり恥ずかしいですっ」

「えええっ!?」

 恥ずかしいとは何か、寝起きでないと残念なのは何か、これが見知らぬメイドの策略と解るまでウィンシーは十分くらいかかった。


「それで……、その……、ここは何所なの?」

「ここはぺーチノー王国の城内です。案内したい場所があるのでついてきて下さい」

 ウィンシー達は一旦部屋から出ることにした。

 赤い絨毯張りの廊下は客間の近くなのか装飾品の類いが多々見られる。そんな廊下を歩いていると、何が珍しいのかキョロキョロと田舎から出てきたおのぼりさん顔負けのウィンシーにエルリーナはくすくすと笑う。

「そんなに珍しいですか?」

「い、いやその……はい。(言えない…、片っぱしから【鑑定】かけているなんて……)」

 何気に失礼な事をしているウィンシ―。もはや職業柄身に付けた癖が遺憾なく発揮されていた。製作した人の心情まで分かるくらいだ。

 しかし流石王様の住む所。どれも王城に相応しい調度品や装飾品である。

「そうですか。これから慣れていって下さいね?」

「?」

 何か含まれた言葉にウィンシーは首を傾げる。

 十数分エルリーナに導かれるまま歩いたウィンシー。一体何処へ向かっているのか疑問に思っていると、

「そうです、言い忘れてました。今から父に会ってもらいます。」

「……へ?エルリーナさんのお父さんに?」

「はい」

 するとウィンシーはわたわたしだす。

「……怖くない?」

 心配する所が間違っている。

「怖くありません。父は……こう……ユルいです」

「うぅ…、本当に?王様ってあまり良い思い出なくて……」


~回想~ 


『朕の為に十万の軍勢を食い止めるのだ!一人で!!』by戦争都市の王


『俺様の娘に最高のプレゼントがしたい!今すぐ虹を作れ!一人で!!』by亡国の生き残りの魔王


『私に相応しいペットを捕まえて来なさい!一人で!!』by山頂の城に住む女王


『今から国作るから移民募集してきて。一人で!!』by国から追い出された王


『君、良い体してるねぇ…。どうだい?今夜二人で……』by美の国の王


~回想終わり~


 最後の回想で全身に寒気が走りビクビクするウィンシー。丁寧に断ったのは言うまでもない。

「何だか…胃が……」

「緊張せずに自然体でいれば大丈夫ですよ!」

「緊張じゃ…無い気がする……」

「あっ!ここの扉です」

 丈夫そうな扉が独りでに開かれる。

 玉座の間には一人だけポツンと銀髪の少年が座っていた。

「お父様、ウィンシー様をお連れしました」

「おー、きたきた。待ってたよー」

 手をヒラヒラ振る予想以上にフランクな国王に戸惑いを隠せないウィンシー。

「人が苦手だと聞いてねー。人払いも完璧だよ~」

 粋な計らいにより大臣に囲まれヒソヒソ攻撃を受けて逃げ出す事態にはならなかったようだ。

「え、えと。う…ウィンシー、です」

「うんうん。自己紹介は大事だよねー。僕はこのぺーチノー王国の国王だよー。名前は王族のしきたりによって無くなっちゃったからぺーチノーか国王って呼んでー」

「はぁ……」

 一応距離が開いているお陰か落ち着いて対応出来ている。

「早速なんだけどね、ウィンシーくん。君に頼みたい事があるんだよー」

 来るのか無茶ぶり!!と身構えるウィンシーは、一体何をやらされるのか戦慄していた。断れば良いのに結構律儀な性格であった。それか廃人魂のなせる技か。

「使用人経験があると聞きましたー」

「はっはい……!」

「それでですねー、戦闘経験も豊富だとかー」

「はい……」

「そして就いている職が無いとー」

「い、一応…そうです」

「うんうんそうですかー」

 なんだかバイトの面接みたいな会話が続く。


「よしっ。採用でーす!ウィンシーくん、君にはエルリーナの執事をやってもらいます!!」


「ほへっ…?」

 ウィンシーはウィンシーでもっと無理難題を吹っ掛けてくる物だと思っていたが、比較的マシな依頼だったので気の抜けた声を出してしまった。

 それをどう捉えたのか国王は続けざまに言う。


「これは”クエスト”だよー!」


 クエスト。それは神話時代の住民が様々な『プレイーヤ』を操る為に編み出したと言われている秘術。代償はそれに見あった報酬ですむ。とこの世界で伝えられている。

 これがぺーチノー国王の秘策。

 ポーン。とウィンシーだけが聞こえる音が鳴り、ウィンドウが表れる。


『クエストを受注しました!

 クエスト名 :【ドキドキ!使用人SP!!】

 クエスト内容:我が娘が命を狙われて心配なぺーチノー国王。その娘エルリーナの執事となり彼女を危険から守るのだ!

 クエスト報酬:国王の給料の一部


 このクエストを諦めますか?YES/NO』


「お父様!私その様なことは聞いてません!ウィンシーさんも突然の事で困ってしまいます!」

 自分の心よりウィンシーの心配をするエルリーナ。

「おや?いいのかなー。エルリーナの執事になれば、あんな事やこんな事が出来るよー?」


「ウィンシーさん!よろしくお願いしますね!!!」


 変わり身がとっても早かった。テンションアゲアゲである。

「う、うん……」

 急なテンションの上がり様についていけないウィンシーは取り敢えず報酬の話をすることにした。

「国王様…。質問、なんですけど……」

「うん?なんだい?」

「報酬が…、お金って事になっているんですが……」

「ああ、僕の自腹さー。可愛い娘の為だからねー、当然さ」

「その…、ぃ、言いにくいんですが……、お金は100T(テラ)以上持っていて……」

 一つの皮袋をウィンドウから取りだし、左手に持って国王に見せる。1T=1兆である。

「はっはっはー。実は言うとその硬貨、


 使えないんだよねー……」


「つっ、使えなぃ…………!?そんなぁ……」

 このお金、ウィンシーがコツコツ貯めてきた『リトルフリーダムオンライン』の共通硬貨だった。コツコツにも程がある。

「な、なんでぇ…?!」

 理由を尋ねるウィンシーに、国王は少し困った顔をして訳を話す。


「約五百年前にその硬貨のハイパーウルトラビックバン×3インフレが起きてね……。お金を投げ合う遊びが出来たくらい酷かったらしいよー」


 何とも経済的な話であった。

 しかし、ウィンシーにはもっと聞き逃せない言葉があった。


「ごひゃく、ねん…まえ…?」


 ウィンシーは頭の回転を早くして、今の言葉から今の自分が生きている時代を推測する。

「五百年、後……?」

 くいくいとエルリーナの袖を右手で引っ張るウィンシー。黒甲冑が無ければその顔は情けない物が見れただろう。

「そうですね。ウィンシーさんが活躍していた時代より五百年くらい後だと思います」

「五百年……」

 ウィンドウのマップが正確でない事や、ちょっとレアな素材が激レア扱いされている珍しい地方なのだろうと思っていたりもして納得してた事等が一つに繋がった。

 左手に持っている皮袋を見る。

「これどうしよう……」

「僕が知ってる文献によると火山に投げ入れたみたいだよー?」

 ウィンシーは火山という単語にピクリと反応する。

 硬貨を火山に投げ入れる→硬貨は熔けていく→その金属は自然に帰る→それは五百年前のこと→つまり、


「ちょっと火山行ってくる!!」

「いきなりどうしました!?」


 未知の金属があるかもしれない。そんな結論に達したウィンシーだが部屋から出ていこうとするとエルリーナに両手で掴まれ、無理にほどくと彼女が肉塊に変貌してしまうのでピタリと止まる。エルリーナに触れられて震えなくなる程度にはウィンシーは彼女に慣れてきたのだろう。成長したな…。

「待ってくださいウィンシーさん……」

「そうだよー。待ってよー


 火山に行くならこの後のパーティーが終わってからー、エルリーナも連れて行ってねー」


「……Party?」

 無駄に発音良く質問する。

「あーうん。勇者くん達と今回エルリーナを探してくれた人達だけでねー。他の貴族とかいないから楽な格好でいいよー」


 どうやら謝罪の機会が巡ってきたみたいだ。ウィンシーはアワワと謝罪内容を考える。

今回は五百年後の未来と気づかせる回にしたかったのですよ。

なんか中途半端な感じだが大丈夫です。

次回はレッツパーティー!!

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