異世界No.2―ノクターナル―29
今私の目の前には世にも奇妙な―――世にも珍しいシマシマライオンが豪奢な王冠を被り同じく豪奢で威厳がある玉座に座り高い位置に居るためか(私は立っていても背が低いがな!)かなり高い場所から見下ろしている。
周りには家臣達に位の高そうな武人達(勿論皆さん2mオーバーだ)が鋭い目で 一分の隙もなく私を見張っている。何かあれば私は三枚下ろしにされると皆さん腰に下げた武器に手をかけている。勿論私は手ぶらで玉座からかなり離れているので王に奇襲も何も出来るはずはないんどけどね。あれだ、ネロ暴走事件と施錠していた部屋から出たのが彼らの何かに触れたのだろう。
だとしたらこっちは良い迷惑だ。
疲れて(そこまで自覚してなかったけど、ここまで強行軍だったし)のぼせて倒れて目が覚めたら独りで知らぬ部屋に閉じ込められて、愛馬は暴れていて・・・私の方が説明してほしいよ。しかも私に了承も無しに勝手に連れてきて、何がしたいの?
「・・・・」
「・・・・」
シマシマライオン(これからはシマ王と言おう)は私をジーっと見つめて無言のまま動かなくなった。そして私も何も言うことも思い付かないので黙っている。
ネロ暴走事件は一段落して騒動の張本人(馬)ネロは馬屋で大人しく用意されたリンゴを食べることに夢中です。クラウドの報告によるとまたあの王子がニンジン片手にネロに近付こうとしたようだが御付きの人達に揉みくちゃにされながら連れていかれて難を逃れました。
そして額にネロの歯形がくっきり付いてしまった兄弟子は歯形を隠すためにバンダナをして私の後ろで膝をついている。後ろを振り向けないからクラウドに教えてもらっただけだが、緊張で胃が痛くなってきているようだ。お前も精神的な胃痛持ちか。
そしてこうして思考を明後日の方向に向け現実逃避をしている最中もシマ王は無言で睨んでくる。睨んでいる自覚があるのか知らんが、私からしたら充分睨んでる。眉間に皺がよってるし、不機嫌そうだ。
「・・・似ていない」
「・・・そうですか」
「・・・・・」
ボソッと呟いたシマ王の似てない発言に全面的に同意する。
それにしても私の母親はどうしたのだろうか?私の生い立ちから見て愛されていないのは何となく、何となく勘づいてはいる。てか、私の転生条件は愛情の無い家庭或いは家族の居ない人物であったので別に不思議でもない。
クラウドが城中から集めた情報によると(ホントに何でもありですねクラウドさん)、どうも私の母親はこの城には居ないらしい。うん、予想してた。
「陛下、そう睨まれては相手は畏縮しますわ」
「・・・・・」
シマ王の隣の椅子に座る(多分)王妃と思われる女性がシマ王に優しく注意するが、彼女の目は此方を鋭く見詰めたままなので“お前が言うな”状態だ。彼女も獣人の例に漏れず眼光鋭く例え見詰めているだけでも充分恐ろしげだ。が、最近心臓に毛が生えたと自覚がある私には然して効果はない。言うなれば一般論からそう例えただけの話だ。
王妃(推定)黄色ともオレンジともつかない色(つまり一般的な虎の色)の虎柄の獣人で目は縦の瞳孔鋭い琥珀。獣人から見れば大変な美人(クラウド情報)でシマ王からは大変な寵愛を受け、他の側室方の追随を許さない程王宮では権力を持つ。現に側室方は子供が一人ずつなのに対して彼女は三人も子供をもうけているあたりそれも頷ける。と言うより、彼女が実質実権を握っているようにも見えなくもない。彼女には最低限逆らわないようにした方が無難だろう。
と、考えてみたが、どちらにしても私に今なんの権利も無いのは明らかで、
「(発言権も今のところ無いんだよね)」
質問されれば答えるが、それ以外での発言は許可せれていない実状、私は何も出来ずただ沈黙する以外何も出来ないのだから。
心の中では饒舌だけどな。
私が何も喋らないので(だって発言権も貰っていないし)相手も私の出方を見計らっているのか、未だに話が進まない。
暇なので無言を貫きつつ、クラウドからの調査結果を聞くことにする。
勿論、王サイドが話しかけて来たら直ぐに意識をそちらに戻すけどね。
《では、調査結果をご報告致します。》
(なるたけ解りやすくお願いします)
《了解です。先ず、先程もご報告致しましたが今生のマスターのお母様はこの城には住んでおりませんでした。後宮はおろか離宮やご実家にも居ないご様子。王側も所在が掴めない様ですね。》
(ふーん。原因は?)
側室が所在不明だなんてあり得ない話だ。彼女等側室は後宮に入れば離縁されるまで外には実質出られない。にもかかわらず居ないのであれば余程の事があったか、ここの後宮の警備が弛いのか、それとも秘密裏に・・・消されてたか?
でも何故?
そもそも私を今更呼び寄せたのはなぜだ?
《今生のお母様は王妃付きの侍女として城に上がられた様で、》
(あ、何となく解ったかも)
つまり、王の御手付きになって側室に上がり、王妃に消された?
《それはないかと。侍女時代から王妃とは大変に仲が良く姉妹の様に育っておられます》
(でもね、クラウドさん。女ってのは元来嫉妬って感情が強いからね、例え昔仲が良くてもそこに男が絡むと好意が殺意に成るなんて良くあることだよ。特に後宮なんて伏魔殿だし、女性は男よりも相手の女性に噛みつく質だからね)
例え相手の女性に非がなくても、夫(ないし彼氏など)よりも相手の女性を攻撃する。手を出したのが男の方でも、頭では理性では解っていてもそうするらしい。理不尽だが。それに権力は人を容易に変えてしまう事もある。
かく言う私も、もしも藍苺が浮気でもしたならば・・・どうだろ、それよりも前世で考えてみれば良いかな?
私がベルの時、もしもジンが浮気をしていたら・・・う~ん、相手に事情聴取して白(浮気と知らなかった場合)は厳重注意で破局させるな。・・・もしも相手も黒(浮気と知りながら付き合っていた場合)ならばジン共々悲惨な目に遇わせていただろう。勿論私は即別れる。復縁、元鞘はあり得ん。1度許せば味をしめてまたいつかは繰り返すだろう。そんなことに付き合ってなんか要られない。無慈悲?心が小さい?ソウデスケドナニカ?
《マスター、マスター!黒いオーラを纏ってます!皆さん青ざめてますから抑えて抑えて》
(ん?あぁゴメン。有り得なかった未来を想像してたら暗黒面に堕ちそうになった)
ジン改め藍苺よ、浮気しなくて良かったな。私結構容赦ないわ、あはははは。
《報告の続きを聞きますか?》
(うん、続けて)
私の突然の黒いオーラ(幻です本当には見えてません)に驚いていたかもしれない外野は無視して(失礼かもしれないけど)クラウドの報告の続きを聞く。
《噂の域は出ませんが二通り、お母様に関する噂がございます。一つは王妃による抹殺説、もう一つは王妃による逃亡支援説です。》
両方とも王妃絡みで両極端だね。でも解ったことはあるよ。
(つまりはシマ王の貞操無しの浮気者が原因って訳でOK?)
《その件に関して異論ございません。現に後宮に住まう半数は王の御手付きですし》
うん、一言言いたい。
「もげろ貞操無し(ボソッ)」
「Σ(O_O;)(え?どうしたのノワールさん!?え?えぇ?今の何処にもげろ要素があったの?ん?でも確かに王の不手際(も言うよりも手癖の悪さ(主に女癖))は他国まで広がっているレベルで悪いけど、此処でボソッと言うこと!?)」
後ろから少々焦った様な感じが染み出ているがどうしたのだろうか?
・・・あれ?もしかして口に出してた?
(もしかして口に出してた?)
《ええ、後ろの兄弟子さんの耳に届く程には》
うん、それって五感の鋭い獣人の人達にはバッチリ聞こえてるよねそれ。
そう思い周りを見渡すとやはり皆さん耳に入っていたようで、やっちまったな私よ。顔文字にすると/(^o^)\だ。いや、まだ無表情もままだしこんな格好してないけどね。心境としてはこれだね。
「本当にそうですわ。手当たり次第に種を蒔かれると後始末をする身としては迷惑極まりないですわ」
「・・・・(汗)」
うん、バッチリ王妃に聞こえていた。てか賛同された。王妃は鋭い犬歯を見せながら王にニッコリと嫌味を言い、王は冷や汗を欠きながら無言を貫いている。うん、ここで何か反論しようものなら倍に返されて返り討ちにあうね絶対。それにしても王妃様は男前な笑顔であった。
「さて、陛下に任せていると保身のために黙りを続けて埒が明かないでしょうからわたくしが話を進めても良いでしょ?ねえ?」
「・・・!?(焦り)」
「あら、今更威厳を保ちたいなど愚かなことは言いませんわよね? へ・い・か・?」
「コクコクコクコクコ・・(∞)」
民芸品の赤べこよろしく頷いているシマ王を見てやっぱりあの王妃に逆らうのは危険と思った私であった。
「あら、わたくしが何も知らないとでも思ったの? 貴方の行動は筒抜けですわよ。このノワールちゃんの母親、わたくしの大事な親友にしてきた失態の数々・・わたくしが知らないなど思いませんことね、ねえ?」
「・・・・!!!!(絶句)」
シマ王は冷や汗を通り越して滝のように汗を欠いている。王妃は一見すると優しそうな微笑みで王を見ているが、目は少しも笑っていなかった。
しかし、猫科の動物は汗を欠かない者が殆んどらしいけど、獣人は関係無いらしい。やっぱり人なんだね。
それにしてもどうやら二つの噂は現状「逃亡支援説」が濃厚か?
「わたくしもう我慢の限界ですわ。この際離婚致しましょう」
「はぁ!?」
「何です、その驚き様は」
ついにシマ王は先程の似てない発言以外に言葉を発した。それはそれは驚いた様子に此方が驚く。
「「(いやいや、それくらい浮気してらそりゃ離婚されるって)」」
私と兄弟子の心がまた1つ通じあった瞬間であった。
いくら血を残す事が王族の義務であるが、やり過ぎなのは明白。手当たり次第に食い荒らしては後処理を王妃にさせていれば愛想を尽かされて当たり前だろう。どうも出会う王族や高位の男連中は(ジンおよび女だが藍苺、それと家族(ギリギリ義理の兄である殿下含む)は論外)何をしても許されると思っている節が有るようだ。例外もあるが概ねそうだった気がする。
それにしても王妃も思い切った事を言うものだ。てか、私が此処に呼ばれた理由が未だに分からないのですが?
「そうそう、ノワールちゃん。顔を上げてもっと顔を見せて・・・・・あぁ、懐かしい面影ね。また会いたかった・・」
「・・・・(意気消沈)」
気絶寸前のシマ王はさて置き、私の顔をまじまじと見詰めた王妃は昔を懐かしむように呟いた。“また会いたかった”とはまるで・・・あぁやはり今生の母親は―――――
「彼女にもう一度会って謝りたかった。私の侍女にしてしまったばかりに、こんなダメ男に手を出されて挙げ句冷遇されるなんて、しかも私には巧妙に周りが隠していたなんて、考えられますか?ダメ男の代表者さん?」
「・・・何故俺を見るのだ。」
「あら、さして才能も平凡な王にも成れないダメ男が何を世迷い言を言うのかしら。誰のお陰で未だに玉座に腰を下ろせると思っているの?」
えぇ、それ言っても良いの王妃様。直球、直球過ぎるよ。オブラートに包みもしないのね。それだけ頭にきてるのね。それと被っていたと思われる猫(猫と言うより虎だけど)がどっかに飛んでいってますよ~。戻ってきて猫の皮!君がいないと王妃の覇気で皆さん気絶しますよ、なんて現実逃避してみてり。
王妃は続けた。
「それに、何です。傾きかけた隣国に脅しを掛けてまで平穏に暮らしていたノワールちゃんを問答無用で連れてこさせるように圧力を掛けるとは。貴方が会いたければそれなりの敬意と手順を踏みなさい。それに貴方は息子達を甘やかしすぎです。王族たる者、甘ったれの木偶の坊では皆に示しがつきませんよ。王位につかぬ者でも自身の在り方を考えるべきですわ。それなのに側室方と共に甘やかし放題、それでいて困った時は側室方の所為にしてご自分は我関せず・・お陰さまで我が子以外の子達は我が儘放題。彼らのこれからの人生をどうする気ですか?あの子達に全ての責任を押し付けるのですか?そう貴方達が育てたのに?私の言葉は聞かない、知らぬ間に悪者扱いされていて―――(くどくど∞)」
かなりお小言を長い間続けたが一度深呼吸をしてこら王妃はもう一度言葉を続けた。
「私も最善は尽くしました。けれど私とて万能ではないのですよ。一人で三人の我が子の躾でも大変なのに、血の繋がらない子達にも目をかける暇は悪いですがあまりありませんのよ。私だけが公務をして貴方は側室方と贅沢放題―――正直もう疲れました
あら、話が逸れてしまいましたわ。」
うん、今までの鬱憤が溜まっていたのね。気苦労の絶えない役職だよね王妃は。いくぶん気楽で義務も軽い(その分権限も弱いが)側室たちとは比べ物にならない責任が両肩にのし掛かっているのだろう。当事者ではない私には解らないが、少しの間でも眷属の長の息子として母親を見ていた紅蓮の時に母親の責任の重さを感じた事は多々あった。それよりも多くの民の命を預かっている王妃の責任の重さは一体どれ程思いのだろうか見当もつかない。
「貴方は何も話さなければバレないと高を括っているようだけど、そうは逝きませんよ―――」
王妃様、いきませんよの漢字が間違ってます。いえ、シマ王が今後どうなろうが知ったこっちゃないんですが、出来れば私の居ないところでどうこうしちゃってくださいな。今夜のご飯が不味くなりますし。
《そこなんですか?そこなんですかマスター・・・》
(異世界で生き残る方法はうまい飯を食べれるかそうじゃないかの違いだと私は思う)
《確かに美味しいご飯が有ると無いとでは―――美味しいご飯があった方が良いですが》
何か違うように思います。と呟くクラウドの声に結構本気だったんどけど、と呟く私であった。
あ、その間も王妃による王妃の為の王妃の愚痴は未だに続いてます。断罪?されているシマ王とそういえば居たのね―――な側室達がこの世の終わりの様な顔で固まっていたのを此処に書き足しておこう。
遠い空の父母、藍苺と私の眷属達。
私は今日も元気です。
―――――――お腹が空いてますけど




