異世界No.2―ノクターナル―2
Q,知らない世界で生きていくのに必要なのは?
本気で隠れたら誰も見付けてくれなくてちょっぴり悲しくなったボッチ予備軍の猫系獣人族のお子様ノワールです。
はい。名前を貰いました~ドンドンパフパフ~
黒い毛並みで暗闇に隠れると中々見つからないところからつけられました。名付け親は村長のちまっこいおじいちゃんです。名前は……ゴメン分かんない。みんな村長呼びだから……今度聞いてみるわ。
ちなみに町なのに村長呼びなのは昔は村で、他の壊滅した村から生き延びた人達も加わり大きくなったので町になったそうだ。その当時から村長だったのでいまだに村長と呼ばれている……とか。
・・・本人曰く「町長よりも村長の方が偉そうに聞こえるじゃろ?」らしいです。
「……きゅるるる……」
はい、ただいまお腹を空かせています。私はどうやら大食漢過ぎるようで、子供が食べる量では足りません……多分普通の大人よりも食べるかも。
ゆゆしき事態だ。腹がへってはなんとやら。これでは手伝いも出来ず餓死する……それだけは回避しなければ!
……小さな子供なら正直にお腹すいたと言ったりするだろう。しかし、なまじ精神が子供でもないので言い出せないでいる。それに大きいと言っても田舎町。肉なんて早々食べれない。狩人があまりいないらしい。居てもヨボヨボのじいさん達。それと申し訳程度の門番と兵士……あと初老の鍛冶屋の親父に道具屋のオッサン。
何でも、若者達は「オラこんなド田舎嫌だ!」と言って出ていってしまった。特に戦争とかキナ臭い噂もあったりしたのか軍が残っていた若者も根こそぎ連れていってしまった……よくある話だ。
そんな寂れぎみの町でしかもマトモに闘えるのは門番二人と10人にも満たない兵士……後は女性と子供におじいちゃんおばあちゃんばかり……遠慮するなって方が無理だ。
軍も一応は防衛の為に兵士を配置してくれているだけでもありがたいそうだ。もっと小さい村は兵士も居ない。
特に、置いてもらっている身としては、親切なジジババ達にこれ以上飯をタカるのは悪い。
あ、ジジババってのはこの町で子供達が愛敬を込めて言ってるあだ名だからね。貶してないよ。どちらも合わせるとジジババになるだけで本来はじーじとばーば呼びだから。
ハァ……何処かに食べれる草とか木の実とか無いかなぁ……でも町の外には出るなって言われてるし……でも腹へってヘトヘト……
「おんやまぁ……どうした坊ぉ?」
「……かくれんぼ」
「そかぁ……んでもぉ…他の子達どこさ行ったんだぁ?」
「……隠密スキル高いから見つからないのかも」
「そかぁ…そかぁ……」
勿論別に隠れているわけじゃない。こうして直ぐに見つかるところになんてかくれんぼなら居ないだろうし。
この町の子供は少ない。若い人が居ないから最もだけど、それが理由からか子供にはみんな何らかの形で関わりたいようだ。だからこうして誰も来ないような裏庭でじっとしていても誰かに声を掛けられる。本気で隠れても良いのだが……姿が見えないと心配されて大騒ぎになるので自重した。
心配性……なのかお人好し…基本的にいい人達だ。それに子供はみんな孫みたいなものらしい。
良かったよ。この町で保護されて。
まあ、お腹が空くのはどうにかしないといけないけど。
―――――てな訳で……
(教えて偉い人ー!)
『ふむ……こんなときはクラウドに任せれば万事解決だ!』
《私の機能は健在です。元はマスターのボディの機能なのですが私が全面的にサポートするために白神さんにお願いしたら割と簡単に実現してもらえました。》
(言ってみるもんだね)
《条件付きですが》
『バランスを調節する側が崩しては元も子もないからな。』
そしてお馴染みのクラウドのスキャンで誰にも気付かれずの外にて出れそうな場所を見つけて森に入り、お腹いっぱいに木の実を貪りましたとさ。切実に肉が食いたい……
前の身体ならもう大人の体格だったので苦労しなかったが、今度はどう考えても10歳程度の身体。どうにも狩りには向いていない。それにこの世界の動物って結構凶暴で恐ろしい。熊とか狼とか巨大蜘蛛にドラゴンまでいるから……本当に危険大だわ。
そして最近はネズミまで大きくなり始めた……らしい。風の噂では主要都市の下水道では問題になってきた様だ。ペストが怖いですね。これを期に猫も大きくならないとネズミ問題はダメかもしれん。逆に猫が殺られる。
……スノーベリーウマウマ♪
このスノーベリー……名前の通り雪のように白く、見た目と反した甘さと香りが癖になる味だ。粒自体は大きめのブルーベリー程の大きさで、細い枝にいっぱい実っていて緑あふれる林の中ではそこだけ雪が積もっているようにも見える。つまりはよく目立って見つけやすいってこと。一杯成るから食べ尽くすこともない。
今の私のペコペコなお腹には到底足りないけど(お腹は一杯になるけど消化にいいのか直ぐにまた減る)、無いよりはマシだ。それにしても季節的には春頃らしいから実自体は生っている植物が少なくて泣けるぜ……見つけた実を今日全て食べてしまっては森の生態系に異変を来すレベルだ。
これは益々蛇でもカエルでも何らかの動物を狩らないとダメかもしれない……それも一頭で何日か満足出来るレベルの……そんな都合よくいかないがな。
こうなったらヨボヨボでも腕は確か(ぎっくり腰持ち)な凄腕の狩人じーじに頼んで狩りの腕でも磨いた方がいいかもしれん。チートな能力で獲っても良いのだが……後が大変そうなので却下する。
『回りくどいが確実な提案だな…』
《この町の周り一帯は自然豊かですから、動物を狩るならもってこいですね……主にウサギから鹿まで多くの草食動物が居るようです……》
それを捕食する大型の肉食獣も沢山居るんですね分かります。
そんなわけで、スノーベリーだけではお腹を満たすのは無理だと早々に見切りをつけた私は町一番の狩人に弟子入りして食料確保しようと将来的に有利な方を選ぶことにした。
このスノーベリー……生では保存できないし、ジャムにしても色的によくない見た目から結構不人気で誰も食べない(動物は食べるよ)事を知るのはもう少し後のことだった。
「目指せ!お腹いっぱいの日々!!」
「なんじゃノワール……腹減っとんたんか?」
「表情が表に出にくい子ですからねぇ~お爺さん」
「俺は狩人になる。」
「分かった、分かった……じゃが今は目一杯食べなさい……ほれ、スノーヤムのスープじゃ」
「たんとお食べノワールや」
スノーヤムってのは豪雪が降り積もる冬が収穫時って珍しいこの地方特有の芋のこと。一メートルを越える雪を退かして収穫するのは骨が折れるが、大して人気もない……野菜である。味はジャガイモに似ているが、皮から中身まで真っ白の身はスリ卸すとジャガイモのポタージュの様にクリーミーな味わいを出すのでスープにするととても美味しい。
人気がないのは生産者が近年その収穫に苦労して激減しているせいでもあるのだろう。美味しいのに……
お世話になっているこの村長夫妻は子供が独り立ちして久しく(と言っても町に息子夫妻が住んでいる)、他に比べれば裕福なので私を引き取ることに異論はなかった。見た目は腰の曲がった……と言うよりはミニマムになっているのかとても小さく縮んだ様に小さい。
私の身長が120㎝程なら彼らは100㎝あるかどうかさえ怪しい。年を取るとこうも縮むものなのか?
年は70歳近いそうだが……もっと上にも見える。普段は陽当たりの良い庭で椅子に座りながらお茶を飲んでいるのほほん老夫妻だが、町の相談役として結構来客が多い。ま、そのお陰で私は町を抜け出して森とかに食べ物探しに行けるんだけどね。
「ほれ、今日は奮発じゃて。雉肉の香草焼きじゃぞ。婆さんの作る香草焼きは旨いぞぉ」
「誉めてもお酒は出しませんよ爺さん」
「……むむぅぅ…冷たいのぉ~」
……と、まぁ。仲は頗る良いですこの二人。
「それにしても……狩人になりたいか……ジートが了承しとくれるかのぉ?」
「どうでしょうねぇ……あの頑固者は子供が周りをうろちょろするのは我慢できないかも知れませんよ」
「頑固者?」
何でも町一番の狩人じーじコト、ジートさんは息子さんがお孫さんを連れて出て行ってから益々頑固になって頑なになったらしい。私の他にも狩人になりたいと言った子供(0歳~13歳未満の子供は10人ほど町には居るそうだ)に“子供が側にいると気が散って仕事にならない”と言って撥ね付けたらしい。それって危険だから断ったんじゃないの?
だってその狩人になりたいって言った子供は当時5歳でしょ。それも体格が平均のヒューム族。5歳は無理でしょ。
私は生まれ持った隠密スキルの高さと獣人族にしては小柄だけど、ヒュームの10歳程の体格でまだマシかもしれないけど……ヒューム族の5歳はホントに小さいでしょ。でも、格好いいとかって理由じゃないのが偉いよね。その子の理由が“弟と妹に腹一杯食べさせたい”だってんだから確りしてるよね。そうせざるを得ない状況が今の世界の状況か。
まぁ……ジジババ二人とも反対してるわけでもないので……多分良いんじゃないかな?
次の日に狩人のジートさんに弟子入りしてみることに……一応決断した。突っ放されたら自分でどうにかしないと……ね。
ショッキングな出来事よりも空腹に心が折れそうな私であった。
A,食べ物関係を充実させると案外楽かもしれない。
はい。自分が割りとそんな考えです。とはいえ、異世界なんて現実では無いでしょうから無人島辺りで何がほしいかと考えたら「食べ物を無尽蔵に出せる能力(あるいは道具)」という現実離れした回答を頭のなかで考えてました。
現実的に考えると、サバイバル出来る能力が欲しいですね……それかサバイバル能力に長けた人が欲しいです。
そんなお腹をヘラいている主人公ノワールさん。まだ5歳何ですが……生きては行けるでしょうがどうなるのでしょう。




