地獄へちょっとお使い
異世界の旅はちょっとお休み。紅蓮さんは地獄にちょっとお使いに行くようです。
地獄とはどんなものだろうか?
煮えたぎった熱湯地獄の風呂釜か?或は剣山のように鋭く険しい山があるのか?それとも底無しの血の池地獄?
どれも違った。
強面の屈強なマッチョ達が睨みを効かせて見張っているのは居心地が悪いが……見た限りは地獄とは思えない場所だ。強いて言えば……古城の牢屋?
前にも少し愚痴ったが、私はマッチョが嫌いだ。男っぽいのは好きじゃない。だからと言ってナヨナヨしてるのも嫌いだ。まぁ、自分に無害なら別に何ともないが……友達程度、顔見知りなら別にいいし。
だからと言って女性が好きって訳でもない。そこ大事なことなので言っておく。因みに藍苺は唯一の例外。だって中身は男だし。ナヨっちくないし、だからと言って男っぽくもない。何なんだろうねあの人。謎だわ。
まあ、監視役のマッチョ達も強面だが、そこらで作業しているもの達も……見た限り親切そうには見えない。地獄に堕ちるのは何もない極悪非道な殺人者ばかりではないのか、痩せて見るからにポッキリ折れそうな老人や、まだ若そうな男性に、中年の女性など様々な人達で溢れかえっていた。
暑い日の夏休みの市民プール並に混雑している。私としてはプールよりも図書館の方が涼めると思うけどね。水着着たくなかったし…
「いやぁ……どうしようかと困ってたんですよ……あの子間違ってここに来てしまったらしくて……」
「はぁ……その子は今どちらに?」
「あの受付窓口で説明を受けてます。あんな平凡な人生を送ってきた子が……こんなとこには普通来ないはずなんですけどねぇ……どうしたもんだか」
流石は地獄って事なのだろうか? 私をここまで案内したのは……これぞ鬼って風体の人(鬼)だった。しかし喋ればただの人のいい鬼だ。中間管理職で上からも下からも挟まれて大変そうなオーラが出てる…そんな人だった。
「どんな子なんですか?」
「酷いもんですよ……いや、あの子じゃないんですよ酷いのは。何が酷いって、周りの人間が酷いの何のって……あそこまで酷い目にあっても心がねじ曲がらずに成長したのは奇跡ですよ。尚の事こんなところに来る子じゃないんです」
何でも、私がここに来た理由が「何の間違いか、故意かで地獄に落とされた女性を連れ戻す」事なのだ。まるっきりお使いである。
だが、この女性は何者かによって――白神曰く、何者かと契約した悪魔の仕業――天国に行くはずが地獄に落とされてしまったらしい。例え誰であれ、例えそれが神であれ、人の魂を勝手に天国が地獄に逝くことを決めることは許されない。しかし……そんなことをやってしまったおバカさんが居たようで……今私はここにいるのだ。
傍迷惑な奴しかいねぇのかこの世もあの世も……
その神何者か勝悪魔によって手に地獄に落とされた女性は、どうも普通の死に方をしなかったらしく……未だに口が聞けない様で身元確認に時間がかかった。その所為で天国に逝くことは2度と叶わないらしい……本当に世の中ってのはロクな奴がいないな。
何でもこの女性は幼少の頃から周りに迷惑な奴らで構成されていた。その中でも幼馴染みの男や何故か周りをうろつく先輩等に大変な目に遇わされてきた……何とも悲惨な青春を過ごしたようだ。内容は女がらみのドロドロした嫌がらせ……しかも自分達の本命に目がいかないようにする囮として……
本人じゃない私も怒りを通り越して殺気が湧いたよ。
ここまでなら物語りでよくある…だが、その後も悲惨であった。
聞くも涙……彼女には心を許せる親友が二人いた。一人は男で後の彼氏である男。もう一人は隠れオタクな美女。隠れオタクの美女は口は悪いが根は良い奴の典型的なタイプだったのだが……問題はもう一人の男の方だった。
影で支えになっていた男の親友は裏では彼女を笑い者にして他の女性と付き合っていた。この時付き合っていた女性は本命ではないらしい…屑がっ。
で、彼女が死の直前に運悪く浮気現場を目撃。怒った彼女は男の言い訳も聞かず帰ろうとした。そしてそこにまたもや運悪く……これは偶然ではないらしいが、迷惑な男二人と取り巻き女達に出くわす……どうも彼女は仕返しに迷惑な男達の本命に今まで迷惑な男達が如何に貞操の無い人物か、如何に汚い手を使って来たのかを全てバラしたらしい。やりよるな……
でもこれが不味かった……と。
本命の女性にフラれた迷惑男が自分のハーレム引き連れて仕返しに……しかも死神――鎌を持ってはいない。どちらかと言うとリーマン風――調べでは彼女の彼氏の浮気相手もコイツらの差し金だそうだ。
嫌だねぇ……男ってのは女よりも未練タラタラでさぁ。そもそもフラれたのは自分達の身から出た錆の所為だし、彼女は被害者だろうに……逆恨みされたら堪ったもんじゃないね。
で、浮気相手に自分の事を散々バカにして笑っていた彼氏(元)の所為で頭に血が登っていた彼女判断をミスった。高架橋を渡らずにいれば……いや、車の行き交う道路に押し出されていたと思うのでどちらにしても……殺されていたかもしれない。
そんな彼女は高架橋から道路に落とされる直前に見てしまったのだ……
信じていた――とは言え浮気してたが――自分が落ちる瞬間に……気味の悪いほどニヤリと笑っていた彼氏の笑顔を……ショックだっただろう。
ショックな事はまだ続く。彼女は死んでからも天に召される事もなく、事故現場でウロウロ彷徨っていたのだ。そして自分の葬式も見ていたし、その時彼氏(元)が迷惑男達の肩を持ったこともバッチリ見てしまっていた。
唯一の救いはもう一人の親友がその彼氏(元)を殴り飛ばして全てをバラしたことだろう。その親友も数日後に心身ともに疲れたのか持病が祟って死んでしまったが。幸いにもその親友は無事に天国に行き、無事転生し終えた。元々オタクになったのもいつ死ぬか分からない人生に嫌気がさして殻に閉じ籠ったのが始まりらしい。それでも学校に来ていたのはスゴいな。
そしてその事にも心を痛め……現在彼女は脱け殻のようになってしまっている。
「その後その犯人達はどうなったのか聴いても?」
「あぁ、犯人達はその後世間的にもバッシングをモロに受けて……とある事故で全員が死んでるよ」
いい気味とは思えない。死んでしまっては苦しみが薄いじゃないか。辛い現実の中でもっと罪を償い……苦しめばいいのに。
「彼らは地獄でも手を焼いているからね……近々業火で焼かれて真っ新に魂を浄化する予定だよ」
「そうですか……」
「まぁ、浄化したところで罪は消えないからね……転生しても業が付きまとうだろう……(問題は元彼と浮気相手なんですけどね……)」
「それならいっそ……罪を忘れず死ぬこともできず彷徨っている方が罰になるかもしれませんね……勿論彼女の居ない世界で、ですけど」
「面白いことを言いますね……貴女は」
「……どうして女だと?」
今の私はニーアの姿だ。どうも魂の姿は固定された様だ。勿論カラーリングは黒髪に紫の目だ。結構気に入ったから別に不自由はしないけど。紅蓮の体に戻ったらもとに戻るらしい。そして見た目は男だ……
「本質は女性でしょ……魂を見ていると分かるんですよ……仕事柄」
「流石は死神を束ねるお方」
「束ねているといっても所詮は中間管理職……何の権限も持ってませんよ」
「で、あちらの彼女を連れていけばいいんですよね?……消えませんよね?凄く儚げで消えそうですよ?」
「そこまで弱ってますから……ですが消えないようにしてますので……連れていくのならこの小瓶に入れてあげてください。天界までの道のりは少々彼女の魂には堪えるでしょうから…」
そう言われて渡された小瓶は透明でこれぞ匠の技って感じに装飾がされていて、でも過剰ではないシンプルな造り……ちょっと飾っておきたい逸品だった。
「これはどんなことをしても開くことはないでしょう。彼女が転生するその時まで……では、彼女を頼みました」
「はい、責任をもって白神の所まで連れていきます」
愛されているのかなぁ……彼女を小瓶に入れるとき待ち受けの職員や強面の人達に一斉に見られた……しかも不安そうな目で。
うん、どうも彼女は本来なら人に囲まれて生きていく人生だったのかもしれない。好かれやすいんだと思う。でも周りにいたのが悪かったんだね。
特に、他人の幸せも吸い取る様なのが二人も居たんだし……彼女自身は落ち度もなかったかもしれない。ただし、復讐の仕方が不味かったね。もう少しバレないようにしないと……恨まれるのは危ないんだ。
私もバレないように仕返ししたもんだ。前世でも、紅蓮の時も……いやぁバレないようにってのは骨が折れる。でも、程ほどにしないとね。あとが怖いから。
「今度はあんな奴らには関わらないようにな!」
「自信もって、あんた可愛いんだから」
「あの親友の子も無事に再出発したんだし…もうくよくよしてるなんて時間の無駄さ」
「大丈夫。お前は今度こそいい人生送れるよ。神様ってのはそういうの見てないようで見てるから」
「そうそう。現にその神様が使いを寄越したんだ……ほら、再出発に辛気臭い顔は似合わないぞ」
「まぁ、また何か嫌なことがあったらその時は俺達が助けるさ……行けたらな……」
「罪を償い……同じ世界なら助けになるぞ」
「あたしらにとっては光みたいに眩しいからねぇ……さっさと転生して楽しい人生送りなよ……」
等々、ここが地獄だとは思えない程の見送り……凄いな彼女。地獄の猛者達を味方につけてるよ。彼女自身は一言も喋らず反応も無いのに……これはホントに人を引き付ける何かを持ってるのは本当かもしれない。
「私自身は神に意見を言える立場ではないが、彼女の事は事細かに報告をする。大丈夫、白神はそこまで意地は悪くはない。公平な判断をするだろう」
ま、平気で意見できますけど。勿論彼女を幸せになるように意見するけど。それは言わないでおく。だって知られたらそれはそれで面倒だから。
「それでは」
大勢の地獄勤務の職員と強面のマッチョガードマンに地獄の猛者達……と何とも豪華な見送りに見送られて初めての地獄のお使いは帰路についた。
何事もなく、白神が治める神界の空間に足を踏み入れるのであった。
いやぁ……白神ってホントに偉かったのね。北欧神話でオーディンの立ち位置、もっと分かりやすく言えば、ギリシア神話のゼウス……白神の為に言っておくけど、女好きではないよ。どちらかと言えば極度に女性を近づけない方。昔子供の頃に酷い目に遇わされて以来、伴侶を選ぶ気にもなれないらしい。
それって立派な心の病だよね?
苦労してるのね……白神って。
―――――っとまぁ、こんなことがありました。
「お前も苦労したんだなぁレン……(;・ω・)」
「あぁ、まぁ……まだマシな方だったよ」
「あれで?」
「あれで」
一通り話終わった。注いだお茶も嫁さんのお菓子も無くなったので話しは一端終わることにする。
さてと、今日の晩のおかずは何にしようかねぇ……キノコとジャガイモのグラタンとジャガイモを甘く味付けて醤油で香り付けした炒め物でも作ろうかな? 勿論野菜も忘れずにね……ねえ?
「あの、お手柔らかに……」
「蒸したら食べれるよね?」
「ドレッシングはあるよな?」
「……かけ過ぎ禁止ね」
全くもう、ドレッシングだって取りすぎたらダメなんだよ……あま前に作ったミートパイ擬き(レバーとホウレン草入り)をまた作ろうかなぁ……
未だに気がついてないからね嫌いなものが入ってたって。
やっぱり美味しく食べてくれる相手がいた方が作り甲斐があるよね!
続きはまた今度にでもね……
あ、そうだ。ペーストにしたホウレン草をパン生地に練り込んで焼いてみるってのはどうだろ?
「ほんと勘弁してください!」
君が食べれば問題ないのよ。
まだ少し続きます。




