異世界No.1―アテナ―24
漸く王都についたニーアたち。これから王城に突撃か?
やって来ました目的地王都!
来る途中で勇者(笑)が暴君ネロ様の急ブレーキに耐えられず前方に吹き飛びモンスターの群れに突っ込んだのは割愛しよう。チートな奴には治安の比較的良い土地の弱いモンスターなど敵ではないのだし。見せ場なんて無かった。
さて、異世界で初めての王都だが、悠長に観光は出来ない。胃痛に苦しんでいるかもしれない魔王に頭を返さないといけないのだから。
《マスターの頭の中では魔王は胃痛持ちと確定してるんですね》
『確かに胃痛持ちでも不思議ではないな。魔王の側近たちは皆、見目が良い所為か凄みがあるからな……側近の一人の能力で魔王城はいつも曇りだしな。気も滅入るだろうな……』
(そうなの?)
意外でもない真実! 魔王城はいつも曇りで気も滅入る!!
でもそれって首を飛ばされたから怒って起きてるの? それとも平常心でも発動する能力なの?
ま、それは今は置いといて。
今は到着したこの王都について説明しよう。
この国……名前なんだっけ? ま、いいか。この国最大の都市にして王のお膝元―――王都ラズベリー。今気がついたけどさ……街とか村の名前が果物なのね。親方が行方不明になった森の近場の村もベリーの名前だったし。魔王の治める土地はどんな名前がついているのやら……ちょっと楽しみだ。
で、対する勇者(笑)はというと……
「………」(ぐったり…)
ぐったりしていらっしゃる。何せ三回もエンカウントしたからね~。疲れるよね。
「や、……やっと着いた…」
「さあ、城に行くぞ。シャキッとしろ。お前の腕と顔パスで王に謁見できるかで城の存亡が掛かってんだぞ。門前払いならぶっ壊して……」
「はいっ!すいません!直ちに城に案内します!Σ(×_×;)!」
コイツについて分かったことがひとつある。コイツどうも押しに弱い。詰まりはヘタレだ。コレは父さんやラルフよりもヘタレだ。体や能力はいくらチートでも精神面が弱いとダメという見本だな、コレ。私も精神面が特別強いわけではないけど、ここまで押しに弱いと顔は良いのだから言い寄られたら……あ!
(だからハーレム築くのか……)
『優柔不断もあるがな』
《マスターが街でナンパなるものをされたときの完全否定が出来ないのですね、彼は》
ダメだぞ、女ってのはハッキリ言わないと。フラれたのが分からないor認めない人も居るのだから。特にプライドの高いお嬢様。貴族の御令嬢なら尚更高い人が多いんでない? あのハーレム要員の殆どが(初対面で一緒にいたヒステリックな人は多分違うと思う)貴族みたいだし……そもそもコイツはアイツらの好意に気がついてない可能性も……あるよね。
だって、この勇者(笑)は態度から行動まで見るからにメリルが好きそうだもん。全く相手にされてないのに何度も話し掛けようとチャレンジしてるし……恋は盲目なのかね?
「あの城が王城だ」
「あぁ、見るからにな」
こんなに「これぞ城!」ってのが王都にポンポンあったらヤダよ。
多分王都のど真ん中にあると思われる成金趣味気味の所々金色の城が今居る王都門前からでも
見えた。城に行ける目抜通りの一本道は攻める時にはとっても楽そうだ。もう少し入り組んでいる方が良いのでは? 等と感想が頭に浮かぶ。
「この道はこの国で一番賑わっている目抜通りだよ。治安も良いし……」
「治安ねぇ……ならスラムは無いんだな?」
「そ…それは……」
ま、こんな事態を引き起こした王が治めているのだ。生活基準や福祉に収入や貧富の格差も酷いものなのだろう。貴族の殆どは腐っているかもしれないし。真面目な貴族は馬鹿を見るだろうし……真面目な貴族の皆様、居たら今後とも胃を犠牲に頑張ってほしいものだ。え?私がどうにかしろよ?
私にどうしろと? 一介の、それも人権も持たないロボですよ?地位も何もない私にどうしろと?
私もどうにかしたいけどさ、それはそれこそこの世界の主人公がするべきだと思う。私は異端だから。なるべくメリルやそこに居る勇者(笑)がどうにかしていくだろう。
“この世界はゲームをもとに作り替えられた世界なのだから、私のような異端がやろうとしても無駄な気がする”
「――がこの国の……」
「御託はいい。さっさと乗り込むぞ」
「いや、話は聞こうよ?」
「なら足は止めるな。口を閉ざして足を動かせ。日が暮れる……」
この国の歴史をなっが長と、足を止めて披露するヘタレ勇者(笑)。私に止められなかったらいつまで話していたことだろう。日が暮れると言っていたが、時間的に本当に日が暮れる時間帯なのだ。ただ今の時間約午後5時。日が落ちるのは大体6時辺りなので早くしてもらいたい。魔王の頭奪還に成功したら休みなしで魔王城に急いで行かないといけないのだし……
石畳の目抜通りを若干早歩きで進む私とそれに慌てて着いてくる勇者(笑)はとても目立っている……ヤベっ! コイツ見目が良い所謂イケメンだったわ……そりゃ目立つわなぁ~。え?私?
こんな外見ごまんと居るだろう? 黒髪紫目は結構多いハズだぞ。金髪碧眼の王子様ルックの勇者(笑)の方が目立つって……いや、ネロが目立つのか? 良い馬だからなぁ…魔物だけど。
何があるかわからないのでクラウドには周囲の警戒を頼み、周囲の視線を無視して道を進むが…なんと言うか…人の視線ほど痛いモノはないよね。特に好奇心とかジロジロ見られるのは歳をとっても慣れないよね。てか正直不愉快です。人と話すのも本当は嫌いなのに……そうです、私コミュ力低いですけどナニか?
「待ってくれ……案内を…」
「お前を待っているといつまで経ってもたどり着けない気がする……お前……本当は案内する気無いだろ?」
「グッ・・・それは」
まあ、何となく……と言うよりも、脅して連れてきたのだからそれはわかってたよ。でも良いのか?
「自分の尻拭いも出来ないのに……結構なことで」
先に言っておく。私は口も態度も悪いが、性格も捻れてます。喧嘩を売られない限りは人に対して暴言や嫌味は吐かないけど、売られた喧嘩は高く買い取ります。それが私のモットーですから。なにか文句でも?
『邪悪なオーラが滲み出てるぞ』
《落ち着いてマスター……》
私、至極冷静ですけどなにか?
おっと、二人に切れても仕方ないね。さて、役に立ちそうもない勇者(笑)を半ば放置してズンズンお城に向かっているが……何でこんなに遠いんだよ。あれか?城攻めの時になんか役にでもたつの?城までの道順が迷路みたいに入り組んでなくてホント良かったわぁ~。これ以上ストレス溜めるとイライラがMAXして城目掛けてメテオ降らすところですもん。え?本気じゃないだろ?
…………至って本気ですけどナニか?
で、
《漸く着きましたね…》
(長すぎた……ロボだけど疲れるわ精神的に)
『ん?やっと着いたか?』
「ちょ、速いよ……」(息絶え絶え)
長すぎる道をひたすら歩いてやっとゴール!と、思いきや……今度は階段のご登場。本気でメテオ降らせてぇ……やったら罪人として追っかけ回されるからしないけど……やれるものなら殺りたいわ。
私は機械なので疲れはしないが、勇者(笑)はどうやら息切れを起こしているようだ…チートなのに情けない。ネロを見ろ、現存する魔物で特別チートでもないのに息切れを起こしてないだろ……あ、馬と人間を比べるのも酷か。にしてもチートが泣くぞその様は。何だろ、もしかして戦闘中にしかあのチート能力は発動しないの?本当は体力の無いヒョロイお坊ちゃんなの?
それならメリルの方が逞しいぞ。女性に逞しいは禁句だから口が裂けても言わないけどね。
「ゼェ…ゼェ……っ」
「……水飲むか?」
「コクコク…」
あまりにも哀れに見えたのでドワーフ印の水筒(魔法瓶)を渡し水を飲ませる。あまりにも勢いよく飲むものだから噎せているが直ぐに立て直して飲み続けた。そんなに飲むとトイレが近くなるぞ。あ、私はトイレには行かなくても良いのだよ。食べたもの全部分解してエネルギーに変換してるから何も排泄しません。そういうところは便利だよね……ホントに。でも、家にはトイレは完備してるから。主に来客用という名のルシェ用にな。
だって、あいつくらいしか家に来る、尚且長居するのはあいつ以外にはいないからね。
友達少ねとか言わないでよ……ホントだから胸に刺さるのよその言葉は……
飲み終った水筒を受け取り勇者(笑)はなにか言いたそうにしているが、どうせ私が変に優しいとかそんなところだろう。言っておくが私は優しくしたわけでは決してない。早く魔王の頭を取り戻してこんな騒動を早急に終結したいだけだ。カムバック!私の平穏な日々ー、グッバイ厄介事。
さて、そんなこんなで着きましたね……城の門前。長い歴史があるお陰かやけに立派な門構えだ事。コレは破壊し甲斐があるなぁ…と、そんなことはどうでもよかった。さっさと侵入だ侵入。
「ほら、顔パスだろ?勇者様」
「……わかってるよ…」
多少の罪悪感がやっと湧いたのか、はたまた私の脅しが功を奏したのかは不明だかやる気はあるようだ。うんうん、君の活躍次第だぞ、この城が今後とも歴史を刻むのかは……無くなれば刻む歴史なんかも無くなるだろ?ねえ?
「ここより先は王の城。何の許可が…」
「私はエスデカだ。王に面会したい」
「エ、エスデカ様でしたか…コレは失礼しました。只今王」報告をしてきます!」
「どうぞこちらでお待ちください」
さっすが勇者様(笑)。門番の反応を見る限りは一応王の信頼?も有るのだろう。私と言う不振人物が居てもOKらしい……コレはこれでこの国の未来が不安だよな。
二人の門番のうち一人は報告に行き、もう一人は門の中にある詰め所に私達を案内した。愛馬のネロは大人しく城の門前で待ってもらおう。門番の人は快く引き受けてくれた……ネロよ、この人には手加減しろよ?
さて、城に入ってからの勇者(笑)は人が変わった様に大人びて見えた。私から見れば必死に背伸びしているように気か見えず笑を誘う。戻ってきた門番の人が言うには王が今丁度謁見中とのことで謁見の間に行くように行ってきた。案内に別の……多分騎士が着いてくるらしい。とっても偉そうで傲慢そうな顔をしている。外見と中身が一致していないことを祈ろう。
クラウドに城のあちこちをスキャンしてもらうとそこらかしこに端末が有るそうだ。見た目中世ファンタジーな割りに科学的な物があるとは驚きだ。ロストテクノロジーは割りと普通に有るものなのだろうか?城だから特別なのかとも思うが……
終始無口になっている勇者(笑)は頻りに騎士の方の様子を伺っている……何だろ……ほの字なの?この騎士に。何てね。どうせ私の事がバレないか心配してるんでしょ。それが保身のためか、それともただ単に心配してるのかは知らんけど。
《マスター、端末の情報によると…城にある端末はここ数百年ほど全く機能していない様です……それと、様々な情報と、アップデートできる機能が無いか探ってみます》
(わかった。そっちは任せた。白神、私のバックアップはどの程度できるの?)
『ほんの少しだな……そうだなぁ…目眩ましで約20秒ならなんとかなるな。それと、魔王の首の在処なら教えられる』
(それで充分……あとは……出たとこ勝負)
いつかの黄の国での騒動を思い出させるような成金趣味の廊下をスタスタとスムーズに進んでいく。レッドカーペットが敷かれている廊下はなんともフワフワしすぎで歩き辛い。大理石の床の方が歩きやすいだらうに……あ、鎧着てる騎士にはこのくらいが良いのかも……床が傷付かなくて。でも、これでヒールの高い靴は……コケるな私なら確実に。
「ここから先は王の許可なく喋らないように」
騎士が唐突に喋ったので内心ビックリしたが、ポーカーフェイスで乗りきった…ハズ。騎士も立ち止まったので私も止まった。目の前には大きな扉があった。彫刻とか凝ってはいるが……何て言うかな……宝石とか金銀を散りばめて光輝いている。目が痛くなるほどだ。これで日の光が当たったなら、あの有名な台詞「目がぁぁぁぁ」をノリノリでやるのだが……うん、場を考えよう。私の品性が疑われるかもしれんしな。
「今は謁見中と聞いたが…誰と?」
「公爵列びに……」
「いや、わかったよ」
何だろう……この二人知り合い? しかもギクシャクしてるってことは……ん?目の色といい髪の色といい……しかも顔の作りも似て…なくもない。もしかして兄弟? 明らかにあっちの騎士が歳上ってことは……この勇者(笑)の兄?それか年上の従兄弟?
謁見の間に入る直前に彼らは何やら話していたようだけど、それが弟を心配する兄に見えて仕方なかった……どうもすれ違いぎみだねお宅ら。ま、私にとってはどうでもいいのだけど。
そんなやり取りの感想を脳内で愚痴りながら謁見中の王と公爵とご対面だ……ん?
おい、お前ら……みんな似た様な顔って……どう言うことだよーー!!
謁見の間に集まっていたのは似た顔の人々でしたの巻き……どうなるニーア。




