新・第4話『支えようとした少女を、この身体は傷つけた』 ――優しさを拒絶する絶対筋肉障壁――
──バチィィィンッ!!!
桃色の魔力が、モストの背中へ触れた瞬間だった。
温かな光は一瞬で鋭い閃光へと変わり、そのまま術者であるリリィへ向かって弾き返される。
「きゃあああああっ!!」
華奢な身体が宙を舞った。
何度も石畳を転がり、杖が乾いた音を立てて遠くへ滑っていく。
「リリィッ!!」
アレンが血相を変えて駆け寄る。
リリィは胸を押さえ、苦しそうに呼吸を繰り返していた。
「な……なんで……」
モストは呆然と自分の両手を見つめた。
殴っていない。
魔法も使っていない。
それなのに、自分を助けようとしてくれた仲間が傷ついた。
「違う……私は何も……!」
「何もじゃねぇだろ!!」
アレンの怒声がボス部屋に響き渡る。
「今リリィは、お前を助けようとしたんだぞ!!」
「違うんだ! 私の身体が勝手に――」
「身体が勝手に仲間を吹き飛ばすかよ!!」
言い返せなかった。
自分でも何が起きたのか分からない。
すると、倒れたままのリリィが震える手で杖を持ち上げる。
「だ……大丈夫……。これくらい……」
涙をこらえながら、回復魔法を詠唱する。
淡い緑色の光がモストへ伸びた。
その瞬間。
──パァンッ!!
またしても魔力は弾け飛び、光は跡形もなく霧散した。
「えっ……」
リリィが固まる。
回復魔法まで届かない。
助けたいという想いすら拒絶されてしまう。
アレンも後衛たちも言葉を失った。
「……お前。」
アレンがゆっくりと後ずさる。
「支援も回復も受けられないのか……。」
その一歩が、モストの胸を深く抉った。
「怖い……。」
誰かが小さく呟く。
「こんなの、一緒に戦えない……。」
その言葉に誰も反論できなかった。
モスト自身でさえも、分からなかったが仲間を守るはずの身体が、仲間を傷つけた。
「…………。」
モストは静かに前へ出る。
「ここは私が抑える。」
「モスト……?」
「リリィを頼む。」
振り返らない。
振り返る資格がないと思った。
「早く行け。」
魔物たちが再び牙を剥く。
モストは一人、群れの中へ歩いていく。
誰の支援も、誰の回復もなく。
ただ一人巨大な拳を握り締めた。
◇
三日後。
ギルド併設病院。
白い壁が続く静かな廊下で、モストは病室の前に立ち尽くしていた。
大きな手には花束とリリィが好きだった焼き菓子。
世界最強の魔物を前にしても恐れない男が。
たった一枚の扉を開ける勇気だけは出せなかった。
「……。」
何度も深呼吸を繰り返し震える拳を握り締める。
ようやく覚悟を決め、静かに扉を叩いた。
「……リリィ。」
「……モスト?」
ベッドの上で身体を起こしたリリィは、少し驚いたように目を丸くする。
その姿を見た瞬間モストは深く頭を下げた。
「……本当に、すまなかった。」
長い沈黙が流れる。
モストは顔を上げられない。
「私のせいで……君を傷つけた。」
「……。」
「私は仲間を守るために強くなったはずなのに……。」
「……。」
「助けようとしてくれた君まで、この身体は傷つけてしまった。」
世界最強と呼ばれる男の声は、小さく震えていた。
リリィは花束をそっと受け取り、優しく微笑む。
「ありがとう。」
その笑顔が、モストには余計につらかった。
「こんな私に、そんな顔を向けないでくれ……。」
リリィはゆっくりとベッドから手を伸ばす。
大きなモストの手に、そっと自分の手を重ねた。
その温もりに、モストの肩が小さく震える。
リリィは泣きそうな笑顔のまま、小さく呟いた。
「……モストだって、つらいくせに。」
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