第23話 【恋の楽屋トーク】
(※配信終了後。
スタンピード対応の最中に設けられた、ギルドの臨時休憩所。
恋はソファに座り、買ったばかりのスマホを両手で握りしめながら、ずっと同じ画面を見つめている。)
ひより
「……恋ちゃん。」
恋
「……。」
ひより
「恋ちゃん?」
恋
「……ひよりちゃん。」
ひより
「はい。」
恋
「これ……。」
(恋がそっとスマホの画面を見せる。)
そこには、配信中のコメントを切り抜いたスクリーンショットが映っていた。
アカウント名:【ヒロ】
『何泣いてんだよ、恋は、笑顔が一番可愛いんだから笑ってよ』
恋
「……やっぱり、何回見てもヒロくんだ。」
ひより
「……同じ名前の方だったのかもしれません。」
恋
「うん。」
ひより
「偶然、同じ言葉を選んだだけなのかもしれません。」
恋
「うん。」
ひより
「だから……本当にヒロさんだったのかは、誰にも分かりません。」
恋
「……うん。」
(恋はスマホを胸元へぎゅっと抱きしめる。)
恋
「でもね…れん、それでいいの。」
ひより
「……。」
恋
「本物だったのか、偶然だったのかなんて……もう、どっちでもいいんだ。れんが一番怖くて、一人ぼっちになりそうだった時に。」
「ヒロくんと同じ名前の人が。」
「ヒロくんと同じこと、言ってくれた。」
(恋が小さく笑う。)
恋
「それだけで……れん、立てたから。」
ひより
「……そうですね。」
恋
「それにね。」
(恋がスマホをスクロールする。)
『俺たちがいる!!』
『ずっと見てる!!』
『一人じゃない!!』
『恋ちゃん世界一可愛い!!』
無数のコメントが、今も画面いっぱいに残っている。
恋
「ヒロくんだけじゃなかった…みんなも、ずーっとれんを見ててくれた。」
ひより
「はい。」
恋
「れんね……魔物さんたちが誰もれんを見てくれなくなった時、本当に怖かった。また、あの日みたいに……全部いなくなっちゃうって思った。」
ひより
「……。」
恋
「でも違った。れんが見えてなかっただけで……画面の向こうには、ずっとみんながいた。」
ひより
「前回、言ったじゃないですか。」
恋
「?」
ひより
「恋ちゃんは、もう一人じゃありませんって。」
恋
「……えへへほんとだったね⭐︎」
ひより
「はい。」
(恋は嬉しそうに笑ったあと、ふと思い出したように首を傾げる。)
恋
「ところで、ひよりちゃん。」
ひより
「はい?」
恋
「れんのスキル、名前変わった。」
ひより
「そうですね。」
恋
「【純愛過剰負荷】(ピュアラブロード)から――」
(恋が胸を張る。)
恋
「【真愛無敵道】(ピュアラブロード)!」
ひより
「ものすごく強そうになりましたね。」
恋
「えへへ〜⭐︎ 無敵だよ!」
ひより
「……ちなみに。」
恋
「なぁに?」
ひより
「下層エリアの被害報告も、無敵になってます。」
恋
「え?」
ひより
「広範囲の地盤沈下。」
恋
「……。」
ひより
「壁面亀裂、多数。」
恋
「……。」
ひより
「石畳、ほぼ全壊。」
恋
「……でも魔物さん、止めたよ?」
ひより
「数十万体まとめて押さえ込めば、そうなるでしょうね。」
恋
「でも……いっぱい止めたよ?」
ひより
「はい。それは本当にすごいことです。」
恋
「じゃあ……褒めて?」
ひより
「ふふっ。よく頑張りました、恋ちゃん。」
恋
「えへへ〜⭐︎」
ひより
「ただし修繕費は別問題です。」
恋
「あれぇ!?」
ひより
「世界2位でもそこは逃げられません!」
恋
「ひよりちゃんのケチ〜!」
ひより
「私が請求してるんじゃありません!」
(恋が頬を膨らませながら、スマホを抱えてソファの端へ逃げる。)
ひより
「もう……。」
(呆れながらも、ひよりは小さく笑う。)
恋
「でもね、ひよりちゃん。」
ひより
「はい?」
恋
「今日の笑顔は……嘘じゃないよ。」
(ひよりが口を閉じる。)
恋
「誰かに可愛いって認めてもらうためでもない。数字を増やすためでもない。」
「ヒロくんと……れんを見ててくれたみんなに。」
「ありがとうって言いたくて、笑ったの。」
ひより
「……はい。」
恋
「だかられん、これからもいっぱい笑うね⭐︎今度は、本当のれんとして。」
ひより
「……それが一番です。」
(恋は胸元の星の結晶をそっと握る。)
恋
「ヒロくん。れん……ちゃんと、一人じゃなくなったよ。」
(ほんの一瞬だけ目を閉じてから――恋はもう、泣かずに笑った。)
ひより
「さて!愛染恋ちゃんの物語は、ここで一度区切りです!」
恋
「えっ、れん終わり!?」
ひより
「物語から退場するみたいな言い方しないでください!」
恋
「あれぇ?」
ひより
「それに――スタンピードは、まだ終わっていません。」
恋
「……!」
ひより
「恋ちゃんが下層で食い止めたのは、あくまで魔物の大群の一部です!それより先に下層を抜けた数万体もの魔物が、今も地上を目指してダンジョンを駆け上がっています。」
恋
「……まだ、そんなにいるの?」
ひより
「はい。」
「そして――その魔物たちが通過する、ダンジョン中層。そこにも今、たくさんの冒険者たちが取り残されています。」
恋
「……助けなきゃ。」
ひより
「大丈夫ですよ。」
恋
「え?」
ひより
「中層には――もう一人いますから。世界リアルタイム視聴者数、第3位で、純白のドレスに、銀のガントレットをつけて、傷ついている人を見つければ、自分の身体が壊れることなんて一切気にせず飛び込んでいく――。」
恋
「……すっごく優しい人なんだね。」
ひより
「はい…世界第3位――白雪琴音さん。彼女の守り方は、恋ちゃんとはまた少し違います。」
恋
「どんなふうに守るの?」
ひより
「……自分の骨を折りながら。」
恋
「え?」
ひより
「敵の骨も折ります。」
恋
「えっ?」
ひより
「そして自分の骨だけ治します。」
恋
「待って、どういうこと!?」
ひより
「見れば分かります。」
恋
「気になるぅ!」
ひより
「それでは皆さん!」
「次回、新・第24話――」
「『血塗れの白雪』――骨を砕き、それでも人を守る聖女。」
「世界第3位・白雪琴音の物語が始まります!」
恋
「琴音ちゃん、がんばって〜⭐︎」
ひより
「そして皆さん!恋ちゃんが止めきれなかった数万体の魔物は――まだ、地上へ向かっています!スタンピードは、まだ終わっていません。」
(その頃――ダンジョン中層。)
純白のドレスを纏った少女が、浮遊するカメラドローンへ優雅に一礼する。
『ご機嫌よう、皆様。』
そして――胸の前で、小さく拳を握った。
――バキィッ!!!!!!
恋
「えっ!? もう折れたの!?」
ひより
「まだ挨拶しかしてないんですけどね……。」
(世界2位から、世界3位へ。
下層で恋が食い止めた災厄の、その先。
数万の魔物が駆け上がる中層で――
次なるカメラが、純白の聖女を映し出す。)




