第22話【恋の楽屋トーク】
――ピッ。
配信終了の電子音が鳴る。
ギルドの控室。恋がソファに座り、今日の配信アーカイブを嬉しそうに眺めている。
ひよりが温かいココアを机に置く。
ひより
「お疲れさまでした、恋ちゃん。」
恋
「ひよりちゃん! 見て見て!」
ひより
「どうしました?」
恋
「今日ね、いっぱいコメント読めたの!」
ひより
「……そこですか?」
恋
「うん!」
恋は嬉しそうにスマホをスクロールする。
恋
「この人は『無理しないで』って言ってくれて、この人は『ずっと応援してる』って言ってくれて……。」
「こっちの人はね、れんがデス・ウルフ潰したら『やりすぎ!』って言ってた!」
ひより
「最後の方には私も同意します。」
恋
「あれぇ?」
ひより
「恋ちゃん。」
恋
「なぁに?」
ひより
「今日、同時視聴者数は確認しました?」
恋
「同接?」
恋がスマホの画面を見る。
恋
「……あ。」
ひより
「まさか。」
恋
「見るの忘れてた。」
ひより
「……ふふっ。」
恋
「なんで笑うのぉ?」
ひより
「いえ。」
「恋ちゃん、本当に変わったなぁと思って。」
恋
「そうかな?」
ひより
「前の恋ちゃんなら、配信が始まった瞬間から数字ばかり気にしてたでしょう?」
恋
「……うん。」
ひより
「でも今日は、何十万人、何百万人という数字じゃなくてその向こうにいる一人ひとりの言葉を見てた。」
恋
「……。」
恋はスマホに流れるコメントを、もう一度ゆっくりと眺める。
恋
「だって今は……数字じゃないもん。」
ひより
「はい。」
恋
「みんなだもん。」
ひよりが優しく微笑む。
ひより
「それでこそ、本当の世界第2位ですね。」
恋そ
「えへへ⭐︎」
「れん、世界2位になっちゃった!」
ひより
「なっちゃった、で済ませる順位じゃないですけどね。」
恋
「でもね!」
恋が勢いよく立ち上がる。
恋
「れん、今日すっごかったでしょ!?」
ひより
「……嫌な予感がします。」
恋
「重力!」
ひより
「やっぱり。」
恋
「自分で出せたの!」
ひより
「見てましたよ。」
恋
「しかも前より、ずーっと強くなったの!」
ひより
「そこなんですよね……。」
恋
「?」
ひより
「なんで恋ちゃんは、心が健全になるほど攻撃力が上がるんですか?」
恋
「本当の愛になったからじゃない?」
ひより
「本当の愛で魔物を粉砕しないでください。」
恋
「でも、れんのスキル【純愛過剰負荷】だよ?」
ひより
「純愛って普通、そんなに物理的な負荷をかけるものじゃないんですよ。」
恋
「そうなの?」
ひより
「そうなんです。」
恋
「じゃあ、ひよりちゃん。」
ひより
「はい?」
恋
「愛って、普通どれくらい重いの?」
ひより
「キログラムで測ろうとしないでください。」
恋
「トン?」
ひより
「単位の問題じゃありません!」
恋
「あれぇ?」
ひより
「恋ちゃんの場合、『愛が重い』が本当に物理現象になるから困るんです!」
恋
「でもちゃんとコントロールできたよ?」
ひより
「そこは本当にすごいと思います。」
恋
「えへへ〜⭐︎」
ひより
「ただし。」
恋
「?」
ひより
「ダンジョン管理課から連絡が来ています。」
恋
「なんて?」
ひより
「『下層通路の床が広範囲に陥没しています』。」
恋
「…………。」
ひより
「恋ちゃん?」
恋
「でも魔物さんは倒したよ?」
ひより
「床は魔物じゃありません。」
恋
「……れん、世界2位だよ?」
ひより
「修繕費は順位で免除されません。」
恋
「……ひよりちゃん。」
ひより
「はい。」
恋
「れん、コメントの続き見てくるね⭐︎」
ひより
「逃げないでください!」
恋
「一人ひとりちゃんと見るって決めたから!」
ひより
「成長を都合よく使わないでください!」
恋
「えへへ〜⭐︎」
恋がスマホを抱えてソファの端へ逃げる。
ひより
「もう……。」
呆れながらも、ひよりは小さく笑う。
恋
「でもね、ひよりちゃん。」
ひより
「はい?」
恋
「れん、今日分かったよ。」
「ヒロくんのことを大好きな気持ちも。」
「みんなのことを信じてる気持ちも。」
「どっちも、れんの本当の気持ちなんだって。」
ひより
「……はい。」
恋
「だからもう、大丈夫。」
恋は胸元の星の結晶を握り、柔らかく微笑む。
恋
「れんには、ヒロくんもいる。」
「画面の向こうには、みんなもいる。」
「だから……もう、一人じゃないもん⭐︎」
ひより
「……そうですね、恋ちゃんは、もう一人じゃありません。」
その時――控室の壁に設置されたギルド端末が、一瞬だけ赤く明滅する。)
――ピッ。
恋
「?」
ひより
「……何でしょう?」
恋
「また修繕費?」
ひより
「恋ちゃん、今それしか頭にないんですか?」
恋
「だって怖いんだもん!」
ひより
「世界2位が修繕費に怯えないでください!」
恋
「あれぇ?」
まだ二人は知らない、その小さな赤い光が――
間もなくダンジョン全域を揺るがす、過去最大級の非常事態を告げる前触れだったことを。
ひより
「それでは皆さん!」
「次回、新・第23話『純愛の過剰負荷』【後編】――」
「『誰も見てくれない絶望。その一言が少女を最強へ変えた』でお会いしましょう!」
恋
「次も、れんのこといっぱい見ててね〜⭐︎」
ひより
「……そのお願い、次回はとっても大事かもしれませんね。」
恋
「え?」
ひより
「なんでもありません。」
恋
「あれぇ?」
控室に恋の不思議そうな声が響く。
その遥か地下――まだ誰にも止められない無数の足音が、静かに地上へ向かって動き始めていた。




