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その三分間に秘められたロマン 下

 イベント開始から一月が経ちイベント最終日になった。冬休みも後半になり毎日一つずつ食べ進めていたカップラーメンも食べていない種類は手に入っていない特別なラーメンのみとなった。掲示板にはチラホラ情報は上がっているもののその量も少なく、特定のモンスターからのみ出現するといった話や、森の奥の仙人がラーメン9999個と交換してくれるといったあからさまに嘘のような情報まで出回っており、パーティーを組んでいれば全員が手に入れられるという情報を見た大手ギルドが大人数でフィールドの一部を占拠しているらしい。


「気になりはするけど、そこまでやるもんかねぇ」


「そういうの目当ての人が多いゲームだからね。ノッカみたいに攻略メインの人はあんまり参加しないでもっと進んでるんじゃない?……特別な称号が貰えるって噂もあるけど」


「まあ、こんだけ噂だらけだとどれが本当かは分からんがな。それに、最終日にこうしてモンスター狩りして回ってる俺らも大概だろ」


「確かに」


 ダラダラと他愛もない話をしながらも順調にカップ麺の所持数を増やし続けていた。街の近くは大規模ギルドが荒らして回っている関係で今日は初日と同じ温泉街の近くを回っている。流石に硫黄のような匂いはせず、温泉のイメージに沿った良い匂いが付近の森にも漂っている。


「終わりに温泉でも入りにいくか」


「良いね。まだ利用したことないんだ」


「なら種類の多さにびっくりすると思うぜ。温泉によっては効能、掛かる強化も変わる」


「それは楽しみ……うわっ」


 話の最中、突然飛んできた巨大な丸鋸を避けきれず少し掠ってしまった。少ししか当たっていないというのに体力の一割が削られている。その攻撃を繰り出した主人は純白の鎧を着込み、体の周りには丸鋸ではなく、よく見ると高速回転するナルトが宙を舞っている。両手に持った二本の細剣を構えこちらに対峙している。


「あんなモンスター、見たことないよね?」


「無えな、どうやら噂は一部本物だったってことか。いけるか?」


「大丈夫。でも、攻撃力高いから連携で攻めた方が良いかもね」


「結局、いつもと同じ感じだな」


 こちらもそれぞれ武器を構え攻撃を仕掛ける。両側から挟み込むようにして仕掛けた攻撃は両手の剣で防がれ、加えて背後に回っていたナルトが2人の胴を目掛けて飛んでくる。やはりイベントの限定ボスと思わしき存在だけあって一筋縄ではいかないらしい。四方葉っぱ雨から飛んでくる素早い反撃を躱しながら多彩な攻撃で隙を突く。そうして少しずつ体力をすり減らして20分、ついに決着がついた。


「やっと終わったか。ドロップ品どうなってる?」


目の前で硬直した騎士が霧散し戦闘の終わりを告げる。流石に数発当たるだけで敗北する戦闘には神経をすり減らしたのか、疲れた様子のノッカが戦利品の確認を求めてきた。


「ちょっとまって、今回のドロップ品は……何これ」


 アイテムボックスの一番上、レアアイテムとして燦然と煌めくソレは、今まで集めたどのカップ麺とも違っていた。味の表記が無く、ただ『カップラーメン』とだけ書かれている。


「うわ何だこれ?これじゃあ情報が出回りにくいのも納得だわ」


 こちらの様子を見て自分のボックスを確認したノッカもまた、困惑の声を上げていた。想像とは違うレアアイテムの正体を見たことで2人の間には暫しの沈黙が舞い降りた。


「取り敢えず、宿行く?」


「……そうだな、2人とも体力限界だしな」


 深く考えるのをやめ、取り敢えず大浴場を楽しんだ。ノッカの言っていた通り温泉の種類は多く、香りや効能に加え、壺や通路といった様々な形の風呂を前に気が付けば2時間も入浴を楽しんでいた。


「今日回った分だけでも楽しめたのにまだ三分の一だって?また来たいなぁ」


「そうだろうとも。お前がここを気に入ってくれて俺も嬉しいよ。」


嬉しそうにうんうんと頷き座椅子に座り込むノッカを正面に見つつ、一応手に入れたレアカップ麺を手元に取り出してみる。金色の紙カップにカップラーメンの文字が記入されている以上の情報はパッケージからも受け取ることができない。


「持ってるだけじゃ仕方ないし、せっかくだから食べてみない?」


少し迷いつつも、本来の目的通り実食を提案してみる。一応意思確認として視線を合わせると、ノッカもカップ麺を取り出しこちらに向けてきた。どうやら聞くまでもなかったらしい。いつものように蓋を剥がす。中は他のカップ麺とは違い具材が入っていなかった。


「味で勝負ってことかな」


「よっぽど自信あるみたいだな」


お湯を注ぎ、3分待つ。この一ヶ月毎日続けていたこともあり慣れたものだ。3分後、完成したカップ麺の蓋を完全に剥がすと、そこには透き通った黄金に輝くスープの中に艶のある細麺が浮かんでいた。


「見た目は美味しそうなんだがこう……」


「インパクトには欠けるよね」


「「い、いただきます」」


意を決して一口目を口に含んだ瞬間、電流でも走ったかのような衝撃が全身を駆け巡った。特に香りがなく味も薄いのかと予想していたのだが、口に含んだ瞬間にありとあらゆる食材を煮込み個性を高め、それでいて調和を極限まで作り上げたかのような旨みが舌を刺激する。チラリと横を見ると目を見開いたままノッカがフリーズしていた。


「これは紛れもなく……」


「ああ、現実じゃ味わえねえ。だが……」


食べ進め、スープもあっという間に飲み干してしまうほど美味い!美味くはあるのだが、2人して神妙な表情を浮かべる。カップラーメンに求める美味しさを飛び越えてしまっているという違和感がそうさせたのだ。食後、味について小一時間話し、結論は「まあこういうのも悪くない」で落ち着いた。


「これから卒業とかもあるけどさ、時々で良いからゲームとか一緒にやろうよ」


「そんなに気に入ったのか?」


「それもあるけど、この一ヶ月がすごく楽しくてさ」


「俺もだ。これからも宜しくな」


カップ麺を食べ終え、この一ヶ月を味わい尽くした2人頭上には『その三分間に秘められたロマン』という称号が輝いていた。


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