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その三分間に秘められたロマン 上

「カップ麺、落としたよ」


「お、良いじゃん。何味?」


「シーフードカレー」


少し疲れ気味の中、少し離れた場所にいる友人に声を掛けた。あちらは疲れなどかけらも感じていないかの様な反応で振り向き、応える。温泉街から少し離れた森の中、早朝から戦闘フィールドに出たにも関わらずもう日付が変わろうとしている。人生初のフルダイブVRMMOゲームでありながらもこんなにものめり込んでいる理由は、このカップ麺が深く関わっていた。

 1ヶ月前、数多のVRMMOがリリースされている昨今でも間違いなく味覚再現においてはトップと言われているゲームのイベント告知が発表された。


      [冬季大型イベント開催!カップ麺実装記念……]


「これは始めるしかねえんじゃねえか?」


嬉しそうにニュースサイトの画面を見せつけてくる友人元々このMMOをプレイしており事あるごとに俺にプレイさせようと誘い続けていたのだが、俺はその誘いを全て断り続けていた。理由はただ面倒だったというだけなのだが、もう高校3年の冬だ。冬休みを終えてしまえばすぐ卒業となりこいつと会うことも少なくなるだろう。そう思うと、少し寂しく感じる部分もあった。だから、これはその寂しさが面倒臭さを上回っただけの気まぐれなのだろう。


「良いよ。カップ麺は俺も好きだし」


「ん?え、マジ?良いの?よっしゃあ!3年間、思えばあっという間だったが誘い続けた甲斐があったわー」


 いつもの如く断られると思っていたのだろう。少し困惑した後、理解した途端に彼は休み時間の教室に声を響かせながらガッツポーズをした。その翌日、一応持っていたVR機器に一晩を掛けゲームをダウンロードし、この世界に足を踏み入れた。

 初期装備のシャツとズボンだけを身につけ草原を吹き抜ける風を受けた瞬間、俺はこの世界が好きになったんだと思う。


「無事にデータ作れたみたいだな。名前もいつも通りの『ベル』か。まあ、わかりやすくて良いけどな」


 目の前に現れた劇団員のような服装の男性アバターの頭上には『ノッカ』という名前とフレンドであることを示すマークが浮かんでいる。派手好きな彼らしく肩に白い鳩まで乗せているというおまけ付きだ。


「それで、件のイベントまでは一ヶ月あるみたいだけど何をすればいい?」


始めたばかりで右も左も分からない状況だ。イベントの参加条件があるのならクリアしておく必要があるだろう。


「イベントの参加条件として、この草原と次の中世風の王国のメインシナリオを進めて現代っぽい街並みの地域まで進む必要があるみたいだな。イベントまで一ヶ月、頑張ろうぜ」


 それからはレベリングや探索の手助けをしてもらいながらゲームを攻略していった。

草原を焼き尽くすレッドドラゴンや王国を滅ぼそうとする巨人に立ち向かい、飽きることのない冒険の数々。そして無事条件を満たしイベント初日を迎えたのだ。


「そういえば、実装されたカップ麺って何味があるの?」


「えーっと、お知らせ見た感じだと醤油とシーフード、カレーがメインで他にも色々。超低確率で特別なカップ麺がドロップするらしいけど、初日だからまだちゃんとした情報は出てないな。どちらにせよ、どのカップ麺もドロップ率はそんなに高くないから張り切っていこうぜ。」


「成る程ね。暫くはこのイベント対象エリア内で狩り通しかな」


「そう肩を落とすなよ。初日でそれじゃあ持たないぜ」


「落としてない。行くよ」


「おう」


イベント限定のカップ麺の容器のようなモンスターと通常のモンスターが入り乱れる中を片端から倒して進む。幸い、広いフィールドのおかげで他のプレイヤーとモンスターの取り合いになる事はない。


「っしゃあ、醤油ゲット!……これで醤油が三個目ってラインナップが多すぎないか?もう数十個は取ってる気がするぞ」


「種類が多いのもあるけど、ドロップ率低い所為もある気がする」


 大体だが、一つのカップ麺を手に入れるのに20体前後の限定モンスターを倒している様な気がする。範囲攻撃を多用している為、巻き込まれている通常モンスターを含めればもっと多いだろう。


「もっと多めに狩ってくぞ。目指すは特別なカップ麺!」


 ノッカの花火やマジックなどの多彩な演出の攻撃で浮き上がった敵を召喚士のスキルで呼び出した妖精の攻撃で一掃していく。そうして食事などの休憩を挟みつつも夢中で狩り続けた結果、視界の右下に見える時計は夜11時を示し経験値とアイテムボックスには大量の戦果が積み上がり、最初のやり取りに至る。


「新しい味じゃね?」


「いや、十二個目だよ」


「やっぱ種類多すぎるって。今日はここらにしてカップ麺食べようぜ」


「そうだね。一応大体の種類は手に入れたと思うし」


 俺達は狩りを切り上げ、適当な宿屋で手に入れたカップ麺を食べてみることにした。このゲームの味覚再現への熱意は尋常ではなく、食事のおいしさのみを追求するギルドがいくつも存在する程だ。数十種類はあるカップ麺の味を想像し期待に胸を膨らませ、それぞれ最初の一種を選んでお湯を注いだ。


「それにしても、一応3分待つ必要はあるんだな」


「ヤカンとか、上に乗せる用のフィギュアとか、やけに凝った仕様になってるよね」


「流石冬の大型イベント、気合いの入り方が最早怖いまである……」


「このゲームの食に対する熱意は一体なんなんだろうね。……出来たみたいだよ」


「そうみたいだな。じゃあ早速」


ペリペリと蓋を剥がし、ふわりと立ち上る湯気の奥から黄金色の麺と小さいながらも豊富な具材と対面する。ノッカはカレー、俺はシーフードを選んだ。湯気と共に広がる香りは様々な具材の旨みが伝わってくる。


「「いただきます!」」


2人同時に手を合わせ、麺を啜り始めた。ズルズルと麺を啜る中でカニカマや卵、濃厚なスープが絡み合いさらに箸を進ませる。


「凄え!現実で食べる時のあの味と一緒にスパイスとコクが倍増した旨みがあるぜ」


 ノッカが食べているカレーも美味しいらしく、次々と麺を口へ運んでいた。全ての麺を食べ切り、残った少しの具材とスープを一気に飲み干す。ゲームの中だ、塩分など気にする必要は無い。机の上には空の容器が二つ、俺達は最後の一滴まで今日の成果を楽しみ尽くし、イベントの初日を終えた。

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