表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/13

第9話 そして災難に巻き込まれていく

俺たち四人の心のツッコミがキレイにそろったにも関わらず、ユーノは「てへペロっ♡」で誤魔化しきったつもりなのか、まったく悪びれる様子がない。それどころか、さらに食い下がってきた。


「じゃあさ、なんかお父さんの顔がわかる写真とかないの? 昔の指名手配書とか…」

「ねぇよ、そんなもん!」コリンが、呆れを通り越して若干キレ気味に答える。そりゃそうだ。


「うーん、それじゃあ、えーと、どうしようかなぁ…」

ユーノは、ウーンとあごに手をあてて、真剣な表情で考え込み始めた。


…一生懸命考えてるところ申し訳ないが、俺は内心、かなりホッとしている。


だってそうだろう? ルシアーノ・ファミリーとかいうヤバそうなマフィアが、コソ泥狩りをしてる真っ最中のこのスラム街で、そのターゲットになってる(かもしれない)渦中のコソ泥親父を探しに行く?どう考えても無謀すぎるだろ!


そもそも、俺とユーノは単なる窃盗の被害者だ。

落ち込んでるコリンにはちょっと悪い気もするけど、正直、あのヒゲ親父がどうなろうと、自業自得って側面は否定できない。これ以上、このヤバい街の、ヤバい連中と関わるのは絶対に避けるべきだ。


この危機意識ゼロのお嬢ちゃんをなんとか説得して、一刻も早く安全なヴィネーチェに帰還する。それが最善策だ。大事な荷物が戻ってこないのはめちゃくちゃ悔しいけど、だからって命まで危険にさらす必要はない。命あっての物種(ものだね)、って言うだろ?


「コリンのお父さんの顔がわからないなら、まずはコリンのお父さんを知ってる人を探す…? いやでも、それだとコリンのお父さんの顔がわかる人の顔がわからないと…うーん…」


「あのさ、ユーノ」ぶつぶつと真剣に何かを考え続けているユーノに、俺はできるだけ穏やかに声をかけた。


「いろいろ考えてるところ悪いんだけどさ、そろそろ俺たち、街の方に戻らないか?」

「え、なんで?」ユーノは不思議そうに俺を見上げてくる。


「いや、なんでって…わかるだろ?」俺は(さと)すように続ける。

「そもそも俺たちがここに来たのは、盗まれたギターがここにあるかもしれないって話だったからだよな。で、結局ここには無かった。だったら、もう諦めて帰るしかないじゃんか」

うん、完璧な正論だ。我ながら論理的で理路整然としている。


しかし、ユーノはまったく引き下がらない。

「でも、そのギターを持っていっちゃったのがコリンのお父さんで、そのお父さんが行方不明なんでしょ? だったら、お父さん本人を見つけるのが、ギターを取り戻す一番の近道じゃない?」

うっ…そ、それも正論だ…。


「それに!」ユーノは続ける。

「もしお父さんが、その…なんとかファミリー? っていうのに捕まっちゃったりしたら、それこそ助け出すのはもっと大変になっちゃうでしょ!?」

ぐっ…! さらに輪をかけて正論をぶつけてきやがった!


だがしかし! ここで引き下がるわけにはいかない! 今日初めて会ったばかりとはいえ、この子をこんな危険な場所に一人で置いていくなんて、さすがに寝覚めが悪い。なんとしてもユーノを説得して、二人で一緒にヴィネーチェに帰るんだ!


「だ、だけどな! その肝心の親父さんを探す方法がないんだろ!? コリンや、ここにいるブシドーさんやライゾウさんは、マフィアに顔が割れてるから街には行けないって言うし…、で、ですよね!?」

俺は助けを求めるように、ブシドーとライゾウに同意を求めた。二人とも、なんとも言えない顔でうなずいている。…なさけないぞ、俺。


「それに、探す相手の顔すらわからないユーノが一人で行ったって、意味がないだろ!? そうだろ? だからさ、あのギターのことは、もうきれいサッパリ諦めて、街に戻ってまた新しいギターを買うとか…」

そこまで言いかけたときだった。


「やめて」

ユーノが、今までになく強い口調で、俺の言葉を(さえぎ)った。


「私は、あのギターがいいの。他のギターを買ったって、何の解決にもならないじゃない!」

そう言って、ユーノはぎゅっと唇を噛みしめた。その瞳には、絶対に譲れない、という強い意志が宿っている。


…気まずい空気が流れる。

俺は、なんとかその空気を誤魔化そうとして、つい余計なことを口走ってしまった。

「いや、そ、それにさ! そもそも、あのヒゲ面の泥棒オヤジだって、さっきまでかぶってた、あの変な赤い帽子を脱いでたら、もし見つけたとしても、すぐに気が付かないかもしれないぜ?」


その言葉に、ユーノがきょとんとした顔で俺を見た。

「…トーマ。あの人のこと、そんなに詳しく憶えてるの?」


「え? ああ、まぁそりゃあ…」

俺は、少し得意になって答えた。自慢じゃないが、俺の唯一の特技は、一度会った人の顔と名前は絶対に忘れないことなのだ。記憶力だけは無駄にいい。


「ええっ、ほんとに!? あの一瞬で覚えちゃったの? すごい!」

ユーノが、尊敬の眼差しで俺を見てくる。…えへへ、なんか照れるな。


「まあ、それなりにはな」俺は、さらに調子に乗って続ける。

「まず、黒っぽくて派手な柄のシャツ着てただろ? ズボンは茶色で、だいぶ年季が入ってたな。あと、驚いたのは足元だよ。裸足にサンダルみたいな、ペラッペラの履物だったんだぜ? よくあんなんで全力疾走できたもんだよ」

「へぇー! すごい、すごい! トーマ!」ユーノの目がキラキラと輝き始める。

「そうか? まあ、顔の特徴で言うと、眉毛は濃いめで、目は少し垂れ目。鼻がやけにでかくて…正直、コリンにはあんまり似てなかったな」

「すごーい! トーマ、天才!」


…な、なんか、めちゃくちゃ褒められてるんですけど!? いや、悪い気はしない。むしろ、かなり気分が良い!


そして、ユーノは満面の笑みで、またしても信じられない一言を発した。


「よしっ! じゃあトーマと一緒に行けば、私たちだけでも探せるね!」


「…………はっ????」

一瞬、思考が停止した。そして、次の瞬間、俺は猛烈な後悔に襲われた。


……やばい。ユーノに褒められて、完全に調子に乗って、自分で自分の墓穴を掘っちまったぁぁぁぁぁ!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ