32話 ママなんてなれません!
地下室の牢屋にみんなで行くと、アビーとジーンは泣きつかれて眠っていた。
「しかし、家に牢屋があるなんてドン引きだったよ」
デレクは自分も牢屋で一晩過ごした事でも思い出したようだ。
「仕方ないでしょ。この村は、しょっちゅう殺人事件が起きるんだから。警察も頼りないし、いざとなったら私達で捕まえてここに閉じ込めておきましょう」
「プラム、怖すぎるぜ…」
デレクはドン引きしていたが、この有能メイドは事件捜査する上でとても頼もしかった。
「まあまあ、早く出してあげましょう」
クラリッサが鍵を取りだして牢屋を開け、子供達を揺り起こす。
「アビー、ジーン起きて!」
「うん、クラリッサ…」
「きゃー、プラムもいる!」
アビーが目が覚めると、プラムを見つけてキャーキャー騒いでいた。怖がっているというより、強すぎるアニメヒーローにでも会ったような反応である。この様子ではあまり懲りていないかも知れない。
「さあ、アビーとジーン。さっさと上に行きましょうね」
「やだ〜」
ジーンはすっかり牢屋の中が気に入ったようで、ここを秘密基地にするとまでニコニコ笑っている。
一同ため息をつく。
田舎の子供らしくアビーもジーンも想像以上に逞しかった。牢屋に入れた事に心を痛めていた自分が馬鹿みたいだと思い始めて気が抜けた。
みんなで上にあがり、アビーとジーンにホットミルクや田舎パンをプラムが持ってきた。
アビーとジーンはお腹が空いていたのか、田舎パンをちぎってもぐもぐと食べていた。
「それにして何で毒きのこをシチューの鍋に入れたの? きのこ祭りの時にも入れたのあなた達ね?」
クラリッサは優しく微笑んで言う。教師モードが抜けきれていない私や怖いプラム、舐められやすそうなまだ若いデレクが言っても子供達は聞く耳を持たないだろうが、歳をとっていて妙に貫禄があるクラリッサが言うと二人は素直に頷いた。
「何でそんな事したのよ…」
問い詰めるというより、ため息混じりに私は言う。
「だって、みんなきのこ祭りで私達の事無視してたもん!」
「そうだよ、みんな、きのこの事ばかり!」
二人は子供らしく、頬をぷーっと膨らませている。一度ため息つく。
予想通りとはいえ、こんな理由で牧師さんが疑われてしまったとは気が抜ける。自分もその原因を作ったかも知れないと思うと余計に脱力してしまう。
「それで牧師さんは疑われているのよ。あなた達の親がわりの人が。それについてはどう思ってるの?」
プラムは目を釣り上げる。やっぱり子供相手にも容赦しない事がありありと伝わってくる。
「それは…」
「でも…」
さすがのアビーとジーンも罪悪感を持っているようだ。田舎パンもホットミルクも口をつけず俯く。少し泣きそうな顔をして唇を噛んでいた。
「まあまあ、プラム。子供のした事よ。そんな責めないであげて」
クラリッサは苦笑してプラムを宥める。
「そうだよ、プラム。俺の色仕掛け作戦に比べたら可愛いもんだろ」
「あんたはずっと反省していなさい」
「おー、怖!」
デレクはわざとらしく震えあがり、一同笑い始めた。というか笑うしかない感じである。
子供の悪戯でこんな被害を受けている牧師さんも可哀想ではあるが、たぶん彼も苦笑する他ないだろう。
「ねえ、マスミ。牧師さんは許してくれると思う?」
それでも少しは罪悪感はある様で、アビーは私の服を引っ張りながら聞く。
「そうね。きちんと謝って、二度とこんな事しないって言えば許してくれると思うよ。あと、家の手伝いや勉強もちゃんとやって良い子にしていれば」
ここぞとばかりに教師モードの顔を出し、私は二人に言う。
「マスミも意外と怖い!」
ジーンはうめくように言う。
「でもあなた達のようなやんちゃな子達には、マスミやプラムぐらい厳しい方が良いわよ。甘やかされてもねぇ…」
クラリッサは優しいが、意外と子供の事も考えている様だ。
「そうだわ、マスミがあなた達のママになれば全てが丸く収まるわね!」
クラリッサのこの発言は爆弾の様だった。一同無言になり、アビーとジーンは意味がわからないと言いたげに目をパチクリしている。
「マスミがママになるの? 牧師さんがパパで、マスミがママになるの?」
クラリッサの爆弾発言は、アビーが纏めた。
「それはないだろう…」
デレクはちょっと慌てたように言うが、プラムはニンマリと笑っていた。
「そうね、マスミがママになればいいわ」
「ちょっと、みんな何を言ってるんですか…」
そうは言ったものの、アビーとジーンは何故か乗り気だった。
「私もマスミがママがいい!」
「僕も!」
「いや、あなた達、ケイトはどうしたのよ?」
冷静にツッコミが、もうケイトについては飽きたと言い始めた。
「ねえ、マスミがママになって! 牧師さんと結婚したら出来るでしょ?」
「そうだよ、マスミがママがいい!」
そんな事をアビーとジーンに言われたわけだが、それは難しいだろう。私はともかく牧師さんがオッケーを出すとは思えないのだが。
その後、子供二人は機嫌良く私にまとわりついていた。
「本当にママみたいよ、マスミ」
「そうね。子供いてもおかしくないわよ」
「ちょっと二人とも揶揄わないでくださいよ〜」
私は弱々しく否定したが、クラリッサとプラムは大笑いしていた。
まあ、私がこの子達のママになる可能性は低いが、だいぶ二人の情緒は安定してきている様に見えた。ケイトは殺人事件の犯人である可能性も高いし、どうかこのまま忘れて欲しいと願わずにはいられない。
「うぅ、君達そんなマスミに懐くなって…」
デレクが少々落ち込んでいたが、仕方ないだろう。私が牧師さんと結婚してアビーとジーンのママになる可能性も相当低いが、デレクとどうにかなる可能性もゼロに等しい。
「まあ、俺はカフェ作りに邁進するぞ!」
ヤケクソのようにデレクが叫び、アビーとジーンはそんな彼を見てキャッキャと笑っていた。




