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30話 フルーツサンドに夢を見る

 ケイトのアトリエから出る。そういえばネルの家も近かった。ちょっと挨拶でもしていこうと思い、ネルの家の方を歩いていくと何とミッキーにあった。ミッキーは、大きな籠を抱えてている。


「ミッキーどうしたの?」

「ああ、ネルの家に配達を頼まれてな」

「お店は?」

「ちょうど売り切れた。ありがたい事に。ところでマスミは事件調査はどうだい?」


 私は力なく首を振る。とりあえず怪しい村人に会ってみたが、目立つ手がかりは得られらていない。


「まあ、そういう事もあるさ。ネルの家に一緒に行くか?一応日本人の血を引いているネルに会えばちょっと元気出るかも?」

「まあ、そうね。どうせ近くに来たか挨拶だけでもしようかな」


 こうして二人で歩いてネルの家に行く。赤い屋根の可愛らしい雰囲気の家だった。ソニアの小屋のようなアトリエとはだいぶ雰囲気が違う。


「あらあら、ミッキーにマスミも。ちょっと上がって行く?」


 ネルに明るく出迎えられ、絶望的だった気持ちが少し和らぐ。お言葉に甘え、少しお邪魔する事にした。


 ネルの家のリビングは窓が大きく、夕陽がさしこんでいた。


 鳥や熊の置物が置いてあるぐらいでシンプルな部屋だったが、カーテンやカーペットの色は落ち着いた色合いでホッとする。ソニアの部屋はなかなか個性的だったので、余計にホッとした。


「本職のパン屋さんにお出しするのは、ちょっと恥ずかしいけれど」


 ネルはちょっとモジモジしながらパンの乗った皿とブラックティーをテーブルに出す。


 パンはふわふわな食パンで作ったフルーツサンドだった。中の果物は木苺のようだが、断面が綺麗で美味しそうだった。ミッキーはプロの目でフルーツサンドをよく観察していた。


「おお、こんなパン始めてみたぞ」


 ミッキーはフルーツサンドにかなり驚いていた。


「フルーツサンドですね?」

「ええ。母が残したレシピをちょっと微調整して作ったんだけどどう? ミッキーにも何かアドバイスが欲しいのよ。マスミも食べてみて」


 フルーツサンドは、夢見たいにふわふわだった。パンはしっとり柔らかでクリームも雲見たいだ、カロリーは相当ありそうだが、するすると胃に落ちる。


「うん、これが意外と上手い。主食のパンにはならないが、時々食べるお菓子のパンとしては美味い」

「本当、美味しいですよ!」


 これぐらいの事しか言えないが、本当に美味しかった。


「まあ、ありがとう。でも木苺だけだとちょっとつまらないのよね」

「イチゴなんかを入れるとあうな」

「ミッキー、これ売り物にできない?みんなにも食べて欲しいと思っちゃった」


 ソニアに会い、事件調査に行き詰まったがこんな美味しいパンを食べて少し元気が出てきた。落ち込んだ気持ちには、やっぱり甘いものはよく効く。


「まあ、毎日は出せないが記念日や特別の日用のお菓子みたいなパンというのも良いな」


 意外にもミッキーは、フルーツサンドに好意的でネルからレシピを教えてもらって居た。


「本当にフルーツサンド売るの?」


 帰り道、ミッキーに聞いてみた。あれだけ柔らかいパンに否定的だったミッキーだが、実際食べて見ると気が変わったのかもしれない。


「マークは色々疑問あったが、パンの味自体は悪くなかったしな」

「そうね」


 マークが売って居たパン自体は、不味くはなかった。彼には同情できる部分はゼロだが、作っていたパンには罪がない気がすする。偽予言したり、魔術に熱中したり、脅したり不倫していた事が本当に勿体ない。


「この国は金持ちじゃないとお菓子や甘いものあんまり食べられないだろ。貧乏人でもパン屋で気軽に安い菓子が食えるのも良いと思った」

「杏奈先生が生きていた頃とは信じられない発言ね」


 私はちょっと苦笑する。


「まあ、アンナもマークも死んじまったし、俺も少し丸くなったのかね。いつまでも同じ様なパンを売り続けるんのも、本当にいいのか疑問あるしな。これからも頑張らないとな!」


 ミッキーも人知れず努力や試行錯誤を重ねている。パンの技術も一長一短で身につけたわけでは無いだとうし、きっと数々の失敗もしてきたはずだ。


 そう思うと、ちょっと事件調査が進まないぐらいで気分を暗くしてしまった事が恥ずかしい。


 私が捜査しないと牧師さんの濡れ衣は脱がせられないだろう。


 一時は後ろ向きになったが、また前を見るしかない。

 推理も手がかりも何も進んでいないが、頑張っているミッキーと一緒にいると元気が出てきた。


「フルーツサンド是非作って。楽しみだわ」

「ああ、良いものを作りたいね」


 暗くなりかけていた気持ちも晴れていた。やっぱり早く犯人を見つけたい。


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