怠惰に過ごすために 4
昨日のキャンプの様子は固定ビデオによって全部記録しておいた。
ファイル変換して宮下に何か使える?と聞けば帰ってきた答えは普段と変わらないねと言う厳しい意見だった。
「でも相変らず釣り下手だし稚魚しか釣れないって言うの笑えるから使おうね」
ディスられるのが決定した瞬間だった。
「小屋作りはまとめてアップしたいからその前の前座として笑いに走ろうか。
そうそう、陸斗上手にビデオ撮ってくれたよ。使える素材多いし、俺とは違う意外な視点で撮影してるから見て居て楽しいよ」
「楽しいって……」
「猿も木から滑り落ちる的な?」
「怪我してないよね?」
「大丈夫。そこはプロだったよ。命綱ちゃんとつけてくれてたから」
なかったらアウトじゃん。
「さっきまで見てたんだけどね、大工さん達も村の人達もちゃんと均等位に取れてたし食事の風景も取れてたんだ。勿論飯田さん達が料理している所もあって、結構大技な仕事だったからびっくりするよ。奥様とちびっこの映像もあるし、烏骨鶏達もかわいいよ?烏骨鶏の人がひたすら可愛がってたけど……」
「ああ、雛渡したからもう大丈夫だと思う」
下手な肉食獣や猛禽類よりたちが悪いと思うのは俺だけではないはず。と言うか寝てくださいと願ってしまうのは太陽が昇り出した時間だからだろうか。遅番で家に帰ってご飯食べて風呂に入るとこんなもんだよと言う宮下の部屋はL字型の家の一番奥の場所。玄関を通らず駐車場から庭を横切って部屋に入ると言う、鍵はどうしたの?と聞いてはいけない懸案の場所だ。
「一応リスト通り顔出しNGな人はモザイクよりもかわいい動物のアイマスク付けておいたから。事前に説明してあるし好きな動物も聞いているから」
「抜かりねぇ……」
素材としての俺は製作側のおもちゃにしかならない事は判っててもどうなるか毎度不安はある。
そう、俺が駄目出しするのは住所ばれ顔ばれしないようにする位。音声もほとんどなく、時々喚く声がエコーで主張するぐらい。恥かしい……
最も山マニアの人には向かいの山の稜線を見て大体の場所がばれはしているが、ここは辺境の地。辿り着いた人はまだいない。居たかもしれないがまだ遭遇はしていない。
それだけ宮下商店から家までの道のりが初見さんには心が折れる山道だと言う証拠で、大工チームの奥さん方も本当にこんな所に家があったんだとビビってくださいまして心の中でやったねと喜んだのは内緒だ。
とりあえずいつもの通りお任せして庭を横切る烏骨鶏達を見る。今朝はいつもの通りの朝のご挨拶が山々に響いたのでほっとする。やはりあれがないと目覚めがいまいちだよなと今日は週に一度の集中する日。
サンドイッチ伯爵ではないが片手で食べれるご飯をしこたま作る。お茶も用意してもう八月になると言うのに冷える足元の為に温かいお茶を飲む為にお湯を沸かしたポットも用意する。
じっくりとお茶を出して一口飲んでほっとする。
気温はやっと二十度を超えた所。まだ涼しい山の上の生活は都会の朝から三十度何て気温とは縁遠くて飯田さん達も大変だなぁと、温度計の写真を送っておいた。すぐに「何時か引っ越したい」と言う寝ぼけた返事が来たが仕事頑張ってくださいとメッセージを送って終了。
金融系の取引が始まる九時までまだ時間はある。ラジオから流れてくるラジオ体操に合わせて体を動かしながら体を温める。温まる以前に冷え切っているが、そこは畑へ野菜を取りに行って太陽に温めてもらう。と思うも本日は深い霧の為に数メートル先は視界不良。下界では雨が降ってるんだろうなと雲の中の我が家はこの数十分で変化した環境に烏骨鶏達は黙って小屋の中に避難していた。自主性があって非常によろしい。
とりあえず本格的に降り出す前に木槌をコンコンと打ち鳴らしながらミルワームを撒く。喜びの鳴き声に頑張って外に居た奴も慌てて小屋の中に入ってきて皆さん地面をがっつりと突っついてくれている。
明日辺り掃除しないとなと思いながらいつの間にか生まれていたひよこ達もピヨピヨと大人の鶏達に負けじと餌を突いていた。
何か羽化の日数が合わないような気もするが烏骨鶏の雛はこの辺り家にはいないので小屋の外で産んだのだろうと生命と野生(?)の逞しさに感心する。
いくつかメールをチェックして、昨日は寝落ちしたので返信作業を頑張る。主に奥様達からのメールが多いのは何で?と思うも何やら動画がらみのコラボの話しだったようで、それは丁寧にお断りしておいた。
ありがたい事に二十万弱のチャンネル登録してくれた方はこの辺境の暮らしをぼんやりと見るのが目的なので、アグレッシブでパワフルな奥様方とは方向性が全く違いイメージが壊れる。と言うか、そんな奥様と付き合うのがめんどくさいと言う本音をオブラートに包んでのお断りのメッセージを送っておいた。
「さてと……」
なんだかんだとしている間に時間になった。




